京急の考え方はトラブルが発生しても、影響を最小限に抑えるというものだ。
例えば横浜駅付近で品川方面行きの列車でトラブルが発生したら、車両基地に隣接する神奈川新町駅で新たな車両を用意。同駅からダイヤ通りに列車を出発させる。神奈川新町から先は定時運転でき、乗客はダイヤの乱れを感じないで済む。
作業を手早く行うため、トラブルが起きた車両から運輸司令への無線連絡は関連部署がみな傍受する。社員は司令からの指示を予測し、車両基地の出入り口に車両を早めに移動したり、乗務員を待機させたりする。
こうしたマニュアルにない対応を支えているのが「手作業」による運行管理だ。同社では信号や線路の切り替えなどの作業を、基本的に各駅で操作する。大手鉄道会社は全線の運行を管理する自動システムを導入するのが当たり前だが、京急は珍しく導入していない。
自動化すると平常時は効率良く鉄道を管理できる。だがいざトラブルが発生すると十分に対応ができず、運転回復まで時間がかかってしまう。この点、手作業による運行を基本とする京急は「各担当者が鉄道の仕組みを理解しているから、臨機応変に動ける」(鉄道本部長の道平隆常務)。
困ったときはお互いさまだから――。同社線では車掌がおこなうホームの安全チェックを運転手が手伝う姿が見られる。駅と車両基地を隣接地に置くなど、別の部署でも顔見知りになるようにしている。新入社員らを教育する研修センターも駅や車両基地のそばにある。「すぐそばで先輩たちが業務をこなしているため、研修で学んだ内容に実感がわく」(道平常務)という。
同社の取り組みを学ぼうとする同業他社も多い。10月には道平常務が東日本旅客鉄道(JR東日本)が都内で開いた社内シンポジウムで講演し、JR東日本の幹部らが真剣な表情でメモを取った。「鉄道運行の基本は人間の五感。人間優先の企業文化が重要だ」と強調する。
(企業報道部 広井洋一郎)
[日経産業新聞11月11日付]