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米大統領選後の小売・ファッション業界の反応
アメリカ史上、最高に品の無い大統領選がやっと終わった。私が住むニューヨークは民主党が強いため、結果発表後トランプ新大統領への反対デモが毎晩行われており、近所にトランプ所有物件がある関係から、毎晩シュプレヒコールを聞く有様だ。しかし48時間たった今朝は一般報道やソーシャルメディアの中にも、気を取り直して将来を見つめよう、というムードが急速に高まっている。 

選挙結果が報告された9日、全米小売業協会(NRF)はプレスリリースを通じて以下の発表をした。「今後数か月間は我々小売業界にとってのプライオリティ、例えば税改正、国家インフラへの投資、雇用拡大、投資促進策等について議員たちを教育する機会となる。我々はトランプ氏及び共和党がリードする議会と共に(経済の)成長および雇用の推進を行うことを願う。」
NRFや他の小売業界団体が新政権に対して焦点を当てているのは「貿易、税改正、雇用」の領域だ。

9日付ウォールストリートジャーナル紙によると、同協会政治担当のデビッド・フレンチ氏は「リテールサプライチェーンはグローバルであり、双方向貿易を阻害するものは全て、小売業界および消費者にダメージを与える」と警告している。リテールワイヤー紙でフレンチ氏はトランプ氏のTPP攻撃について「なぜTPPが攻撃の対象になるのか理解がいかない。もしアメリカが中国を大きな脅威と考えるのであれば、TPPによって東南アジア諸国と手を組み中国を包囲することで、アメリカの同地域での経済活動を改善する方が現実的ではないか」とも述べている。

税改正、特に法人税についてはトランプ氏は選挙戦中に具体的な数字(根拠があるかどうかは別として)を出しており、また彼がビジネスマンという背景への期待から、NRFでは長年戦ってきた改正に一歩近づくのではないかという期待を持っている。一方で、小売業界リーダー協会のドッジ氏はインフラ(港湾、道路等)への投資も選挙戦ではまな板の上に乗っており、こうした政策が結果的には大きな企業負担となるのではないかと警戒している。

しかし雇用関連では、小売業界では、オバマ政権下でいわゆる「非現実的なほどに」被雇用者優先で推し進められてきた雇用法の緩和の可能性があるとみているようだ。例えば12月1日付でスタートする深夜労働・休日労働手当支給対象者拡大の規定改定では年間最大$47,476(約500万円)まで支給が義務付けられ、小売業者の人件費増は必須だ。

こうした政策論議ではなく、もう少し消費者寄りの見方はどうだろうか。WWD紙はスタッフ総出で大手デザイナーブランドのトップ、チェーンストアのトップ、トレンドスポッター、研究機関専門家等に取材し、その内容を10日報道した。「まだ様子を見ないとわからない」も見られたが、筆者が興味を持ち、現実的に感じたコメントを紹介したい。

*JクルーCEO、ミッキー・ドレクスラー
「我々は皆、この2年間、信じられないほどネガティブで分断された選挙キャンペーンを見てきた。言わずもがな、選挙が終わって嬉しい。今からビジネスを前に、上に進めることにフォーカスできる。」

*サックスフィフスアベニュー元会長兼CEO、ステファン・サドヴ
「アパレル業界や百貨店業界は成長していかなければならない。もし2大政党が協調してインフラ整備投資を行い、雇用を増やしてくれるのなら、消費の拡大となる。」

*コティ会長、バート・ベット
「我々には大きな影響があるとは予測していない。化粧品業界は過去20年間、金融危機の最中でも継続的に成長してきた。私はたった1回の選挙が世界的な業界成長を変えるとは思わない。」

*ホームショッピングネットワークCEO、ミンディ・グロスマン
「トランプ氏は我々の国を再び1つにまとめなければならない。アメリカの希望や楽観主義の感覚を取り戻し、政治上の開かれた討論を行わなければならない。イデオロギーではなく解決の焦点を置き、アメリカ人に将来について何か信じられるもの、自身を与えなければならない。もしこれに成功すれば、経済成長、雇用創造、健全な小売業界を見られるようになるだろう。」

*JCペニー、ニーマンマーカス、バーニーズ元CEO、アレン・クエストロム
「人々は選挙が終わって少しほっとし始めていると思う。私はトランプ氏が勝って嬉しい。ワシントンが変わると思うからだ。アメリカ中西部は自分達が表舞台にいないと信じている。私は彼はビジネスにとって良いだろうと思う。彼はひどいことを言った以外は現実的な男だ。彼はエゴの大きな人間で、確実に、歴史上最悪な大統領になりたくはないだろう。彼は我々が必要なものを見つけ、貿易を廃止したりはしないだろう。アメリカにとって良いディールを得ながらも、他国との貿易を続けていくだろう。我々は誰も貿易を全く停止した30年代に戻りたいとは思っていない。」

*ABSバイ・アレン・シュワルツCEO、アレン・シュワルツ
「私は彼の髪型やパーソナリティを気にしない。私は結果を望んでいる。オバマはそれを出さなかったし、ワシントンには多くの老廃物があった。彼は政治家ではなくビジネスマンだ。そして彼を買収することはできない。彼は世界を驚かせた。私は彼はオバマケアを100日以内に廃止し、レーガノミクスに戻ると思う。それは良いことだ。」

*ゴールデンゲート大学消費心理学者、キット・ヤロウ
「今からは様々な消費セグメントで心理的再調整の時期に入り、私は大きな不安からの解放、これは自分達にはどうしようもないんだという感覚、そして前に進むという心理が働くと思う。これは非常に迅速に起こるかもしれない。人々は何かに腹を立てたり、悪く思うことに疲れて飽きてきている。人は最終的には前に動くのが得意だ。」

*NPDグループチーフアナリスト、マーシャル・コーヘン
「2日以内に自体は平常に戻るだろう。小売業界は「選挙は終わった」というキャッチコピーを使って消費者をショッピングに呼び戻すだろう。彼らはどんなカードを使ってでもプレーするだろう。」

長いブログになってしまったが、最後に。昨日今日はちょうど大手百貨店チェーンの第3四半期業績発表も重なった。業績の良い企業もあれば悪い企業もある。オバマのせいではない。顧客をしっかり見て、素早く欲しいものを提供したかどうかの差なのである。
 2016/11/12 07:48  この記事のURL  / 


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プロフィール

平山幸江(ひらやま・さちえ)

1993年よりニューヨークを拠点に活動。Jクルー・ジャパン(伊藤忠プロミネントUSA)、フェリシモ・ニューヨーク、イオンUSA調査ディレクターを経て2010年に独立。

アメリカ市場でのファッション、小売事業展開の実務経験に基づいた市場調査分析、戦略企画が専門。「販売革新」「ファッション販売」他執筆。米国小売最新情報に関する講演。慶応大学及びファッション工科大学卒業。


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