トランプ氏はまだ、胸をはだけたポーズを取るリスクは冒していない。だが、筆者が10月下旬にフロリダ州で開かれた集会に出席したとき、指導者崇拝が盛んなことはほとんど疑いようがなかった。サンフォード空港で期待して待つ群衆は、機体のわきにでかでかと「トランプ」と書かれたリーダーのジェット機が着陸し、群衆の方へゆっくり走行してくる光景に迎えられた。大音量のドラマチックな音楽が数分流れ、ついに飛行機の扉が開くと、嵐のような声援に向かって当の指導者が姿を現した。
1930年代との類似点は、残念なことに、明々白々だ。当時、大恐慌の経済的なショックによって世界中で政治が急進した。2008年の金融危機を受け、これと似たことが起きたのかもしれない。欧州、中東、アジアで国際紛争の脅威が高まっているという感覚も、強い指導者への希求を高めた可能性がある。
■外交に独特のスタイル…安倍首相も
強権的指導者は国際外交に独特のスタイルを持ち込む。各種機関や国際法に依存する代わりに、彼らは男同士、腹を割って問題を解決したがる傾向がある。トランプ氏はプーチン大統領と早期に首脳会議を開くことを約束している。
日本の安倍首相もロシア大統領に対して個人的なアプローチを計画している。安倍氏は来月、日本での首脳会談にプーチン氏を招いている。恐らくは、ロシアが1945年以降占領している島をいくつか返還することにプーチン氏が同意してくれるという無駄な期待を抱いてのことだ。2人は安倍氏の郷里の伝統的な温泉で話し合いを続けると見られている。安倍氏の側近の言葉を借りれば、「裸の中年男2人が温泉で問題を片付けようとする」ことになる。
この種の極めて個人的な外交は間違いなく刺激的だが、本質的に不安定でもある。強権的な指導者同士の間でまとまった合意は、瓦解する傾向がある。エルドアン氏はほかの指導者と親密な絆を築きながら、自分がないがしろにされたと感じたときに一転して激しい敵意を抱く傾向を見せてきた。トランプ氏の巨大なエゴも、極めて不安定な個人外交スタイルにつながる恐れがある。
興味深いことに、マッチョな強権的指導者の台頭は、政治スタイルがずっと控えめで、合意形成型の力強い女性政治家を求める(ストロングマンと)逆行する流れと同時に起きている。最も明白な例がドイツのアンゲラ・メルケル首相だ。英国のテリーザ・メイ首相もこの型にはまる。欧米政治の女性化が、昔を懐かしむ一部の男性有権者の間でマッチョな指導者へ駆り立てている可能性さえある。もしホワイトハウスの主の座を勝ち取ったら、ヒラリー・クリントン氏はストロングマン信奉に一撃を食らわすことにもなる。これがクリントン氏勝利を祈るもう一つの理由だ。
By Gideon Rachman
(2016年11月1日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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