2014年08月10日 10:00 | 無料公開
■多彩なジャンルで集客
―元々洋楽ロック中心のフェスでしたが、近年はダンスやポップ、アイドルなど多彩なジャンルを取り入れています。その狙いは何でしょうか。
音楽ファンの嗜好(しこう)の変化であったりとか、いろんなことを僕も敏感に感じていて、ゆくゆくはロックのヘッドライナーだけではフェスの成立が難しくなるのでは、と感じていました。一方で、ロックフェスの中に入れても盛り上がれるロック以外のアーティストもどんどん出てきていると感じていたんです。
その中で最初に挑戦したのが07年のヘッドライナー、ブラック・アイド・ピーズ(米国のヒップホップ・ミクスチャーバンド)でした。彼らのライブを最初に見たとき、これはフェスで絶対盛り上がるし、マリンの野外で見たら、最後の花火とともに彼らの大団円はもう間違いないだろう、というのが絵として見えていたんです。なので、ここでまずチャレンジしようと。
それが上手くいったので、もっと自分たちで幅を広げていこうということになり、ビヨンセ、リアーナ、ジェイ・Zといったポップ系アーティストをヘッドライナーに招きました。実際、それらもすごく盛り上がりましたから、この流れは成功だったなと。ブッキング(出演契約)も選択肢が広がってやりやすくなったし、お客さんもさらに幅広い人たちに来てもらえるようになりました。
―ゆくゆくはロックのヘッドライナーが難しくなるとの予測ですが、音楽ジャンルの多様化が進んでいることが理由なのでしょうか。
そうですね、多様化が影響している。ただ、ロックが全くなくなるということではなく、ロック以外に他のジャンルも取り入れることが必要になる、という意味です。あと自分がブッキングしていて感じるのが、ヘッドライナーはそうそうブッキングできるものではない。呼びたくても呼べないことがある。しかし、同じバンドばかり呼んではマンネリが生じる。自分で広げていかないと、サマソニがどんどん狭くなっていくんじゃないかという危機感があります。
―今はアイドルも出ますし、本当に幅広いですね。08年から昨年まで幕張にほぼ毎年出ていたパフュームなんかは、ロックフェスに出演したアイドルの先駆けの存在です。昨年はももいろクローバーZやでんぱ組.incも出ました。
最初、アイドルを出してみて反応が良かったので、他のアイドルも、ということになってきました。当初はパフュームがあれだけ盛り上がって支持されたのがびっくりしたんですよ。小泉今日子さんが出たときもすごくいっぱい人が来て盛り上がって、フェスってこういうものをお客さんが求めてるんだな、というのが分かった。確かにアイドルがロックフェスに出演することに否定的な人もいます。が、実際その場に来たら楽しむ人の方が圧倒的に多い。そういった楽しみをオーガナイザーとして提供していくというのは必然的なことだと思うし、それ以降はかなり広げていきましたね。昔はお笑い芸人が出演していたサイドステージも、今はアイドルも出るようになっています。
―パフュームが出ると決まったときは、賛否両論があったと私も記憶しています。6~7年前はまだロックフェスにアイドルが出るということ自体があまりなかった時代です。そこをこじ開けたことはサマソニの果たした役割として大きかったのではないでしょうか。
そうですね。確かに今は、パフュームがロックフェスに出ると聞いても、当たり前になってきました。昨年のロック・イン・ジャパンでは、パフュームがとうとうヘッドライナーになっちゃいましたから。
―今年もベビー・メタル(ヘビーメタル調の演奏に合わせて歌うアイドル)が出ますね。
ベビー・メタルは海外でもソニスフィア・フェス(英国などで開かれるメタルフェス)など大きなフェスに呼ばれるようになっているので、逆に違和感がなく、自信を持ってメタル系ステージに入れられるアーティストです。
■安定したリピーター支持
―来場者はほぼ右肩上がりで増えてきましたが、どのような点が支持されていると思いますか。
かつてのサマソニはラインナップで行くか行かないか判断するお客さんが圧倒的に多かったのですが、15年続けてきて、最近は「とりあえず夏はサマソニ」というリピーター客も増えてくれています。あとは先ほども言いましたが、客のニーズに合わせてダンスやポップなど多様なジャンルを取り入れて幅広いファン層を拾えるフェスになってきているところが大きいのではないでしょうか。
―リピーター率を調査したことはありますか。
はっきりとしたデータはないのですが、2日券を見ているとなんとなく分かります。2日券のお客さんはフェス慣れしているリピーターの人が多いんです。近年は例年2万~2万5千人ぐらいで安定しています。
―お客さんの中心となる年齢層はいくつぐらいなのでしょう。
当初は20~30代中心だったのが、今は10代から40代ぐらいまで、均等に幅広くなってきている感じです。10代はアイドルだったり、ダンスっぽいものを目当てに来てくれる人が多い。一方、今の40代の客の多くは、30代の頃から初期のサマソニに来てくれていた人。これからも幅広い層に来てもらえるフェスにしていきたいと思います。
―ジャンルもどんどん多様化していきますか。
どうなんでしょう。やはりライブというのはその時の旬のものなので、その時どういった世の中、シーンになっているかというのは重要だし、フェスのブッキングでも影響されるんですよ。だから僕らが多様化させるというよりも、世の中の流れによって変わってくると思います。これからみんながロックを望むようになってくればロック中心になっていくだろうし、逆にポップ、ダンスを望むようになっていったら、そっちに行かざるを得なくなるかもしれない。そこは僕も分からないですね。
―お客さんのニーズを見極めながらやる。
そうですね。僕はお客さんが見たいものを提供するのがサマーソニックだと思っています。
―東京から近いというところもいいですね。地方でやっているフェスと違って、気軽に行けますし。
当初から「日帰りでも気軽に行ける」という「都市型フェス」のコンセプトで東京会場と大阪会場の2カ所でやることにしました。例えば九州の人は、東京に来なくても、大阪に行けばいいわけです。そこは支持されていると思います。
10~20代も来られるような「敷居の低さ」も目指しています。実際サマソニを10代で経験して、それ以降、他の泊まりがけのフェスにも行くようになった、という人の話も聞きます。高校生だったらチケット代と電車賃だけで、なるべくお金を使わないようにお弁当や水は自分で用意するという人もいる。そういう意味では参加しやすいフェスになっています。
■既存エリアの充実に力
―今、国内でフェスが乱立しています。かつてはロックフェスと言えばフジロックとサマソニぐらいだったんですが、どんどん増えてきました。例えば客の奪い合いのような、何らかの影響はありますか。
確かにフェスは増えてきていますが、主に邦楽のフェスが中心で、大規模な洋楽フェスといえばいまだにフジとサマソニしかありません。そこは他と差別化できている要素だと思います。あと、増えたとはいいながらも、各主催者がしっかりと場所や開催日時があまり重ならないようにわきまえてやっているので、今のところはそれぞれが成功していると思うんですよ。現状ではそこまで、みんなが追いやられている感じではないと思います。
―近年のサマソニの集客は2日間で約12万~13万人ですが、もっと増やしていけると考えていますか。
いや、もう1日6万人ぐらいが限度だと思っています。それ以上入れると、お客さんの環境がよくならないと思うので。人がどこにいってもいっぱいで、何も買えない、動けない、といったことにはならないように1日5万~6万人、2日で10万~12万人を目安にしています。
―お客さんの環境と言えば、通常のチケットとは別に、高額だけれども優先的にステージの前方に行けたり、専用の休憩場所があったりとさまざまな優遇サービスが受けられる「プラチナチケット」の販売を昨年から始めました。手応えはどうでしょうか。
昨年はすぐに完売したので、成功したと思います。暑かったり、座る場所がなかったり、そういったフェスの苦しい部分を緩和して、快適にフェスを楽しみたいというニーズに応えられた。購入層はある程度お金に余裕がある30~40代が中心です。今年も昨年同様、1000~1500枚を販売する予定です。
―今後、新たな取り組みとして考えていることはありますか。
サマソニはもう完成形に近づいてきているので、新しいエリアを作るというよりも、既存の各エリアの充実度を増していくというのが今後のテーマです。
昨年新設したアジアン・マーケット(アジア系アーティストが出るステージ近くで飲食できるスペース)も、1年目にしてはすごくいい環境でできました。今年はもっと、お客さんが何時間でもいられるような居心地のいい場所にできればと思い、さらにバージョンアップします。
あと川を渡った公園側にあるガーデンステージは、元々のんびりと過ごしてもらう狙いで、手作り感のある小さなステージでしたが、最近はいいアーティストをブッキングできるようになってきた上に、エリアとしてのニーズも高まってきたので、今後ステージの規模も大きくする予定です。ビーチステージとともに「サマソニの二つの良心的なステージ」という位置付けにしたいと考えています。
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◇しみず・なおき 1965年生まれ。89年にクリエイティブマンプロダクション入社。96年に社長に就任。海外アーティストの招へい・興行を手掛けつつ、2000年にサマーソニックをスタート。「パンクスプリング」「スプリングルーヴ」「エレクトロックス」「ラウド・パーク」など特定ジャンルのフェスも開催している。