米大統領に就任するドナルド・トランプ氏は貿易保護主義が持論だ。日米などが自由貿易圏を形成する環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの離脱を表明し、中国などへの関税強化も訴えてきた。
世界首位の経済大国が保護主義に傾斜すると、貿易が停滞する。各国の景気が冷え込んで、世界経済は足元から揺らぎかねない。それは米国の利益にもならないはずだ。
トランプ氏は、米国がカナダ、メキシコと結んでいる北米自由貿易協定からの離脱もちらつかせた。中国に対しては、人民元を安値に誘導する為替操作国と認定し、45%の関税を課すと主張した。
本来、自由貿易のメリットは大きい。関税が撤廃・削減されると、輸出が拡大する。輸出産業の雇用増も見込める。輸入国の消費者は製品や農産物を安く買える。経済のグローバル化は成長の原動力になる。
一方、グローバル化は負の側面も伴う。海外の安い製品が大量に輸入されると、競争力を失った産業は衰退し、失業者が出る。
トランプ氏は、鉄鋼業が廃れた米中西部などで保護主義を訴え、低所得層の支持を集めた。激戦州の多くを制する要因となり、グローバル化への不満が強いことを示した。
グローバル化から取り残された人たちへの配慮は不可欠だ。だが、保護主義は問題の解決にならない。
高率の関税で守っても、生産性の低い産業をさらに弱体化させるだけだ。貿易相手国が報復関税を課せば、通商紛争になりかねない。いずれも米国にマイナスだ。トランプ氏の目指す「最強の経済」と矛盾する。
グローバル化による格差を是正し、経済の足腰を強めるには、新産業育成や就労支援など国内対策を充実させるべきだ。
第二次世界大戦後、国際的な自由貿易体制の構築を主導したのは米国だ。戦後の世界経済の発展は自由貿易の成果だ。今年9月の主要20カ国・地域(G20)首脳会議は、保護主義への反対を共同声明に明記した。米国も自由貿易で利益を得てきたからだ。
TPPを推進したのも米国だ。オバマ政権は、アジア太平洋地域への輸出を拡大し、米国の成長を加速させると説明してきた。TPPの意義は、だれが大統領になっても変わらないはずだ。
日本ではTPP承認案が衆院を通過し、参院で審議入りした。安倍晋三首相は「早期発効に向けた機運を高める」と強調した。17日のトランプ氏との会談では、自由貿易の重要性を説き、米国もTPPを承認するよう働きかけるべきだ。