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マスター:樹 シロカ
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:0人
リプレイ完成日時:2016/11/06


みんなの思い出

1
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オープニング


 遠い声が告げる。

 ――その剣、心より望まねば忽ち光を失わん。

 常世の光と共に刻みつけられた誓約の記憶。
 今、心より望むもの、それは……。


 依頼斡旋所が用意した教室に、とある依頼を受けたメンバーが集められた。
 教室には机をいくつか突き合わせて会議形式に並べてある。
 斡旋所から足音が近づき、扉が開くとアルバイトの大八木 梨香(jz0061) が顔を覗かせた。
「あ、お揃いですね。お時間を取ってすみません。依頼の前に、少し補足説明が必要かと思いましたので……」
 ぺこりと頭を下げると空いていた席につく。
「早速ですが、依頼の内容はもうご存知ですね」
 一同がやや緊張を漂わせて頷いた。

 依頼の内容は、調査任務。
 場所は京都。
 それも天界の巨大ゲートの支配領域内への潜入調査である。
 すでに住民の避難はあらかた完了しているが、学園だけでなく、撃退庁からも敵の状況を把握するため、定期的に調査部隊が送りこまれていた。
 先日、その中で学園の派遣した一隊がサーバントに襲われ、危うく全滅しそうになりながら戻って来た。
 行方不明者一名の所在は、現在も知れない。
 今回の調査隊は、その行方不明者の捜索も兼ねている――ところまでは依頼斡旋所で説明されていた。

「実はその学園生が、行方不明になる前に画像データを送ってきていたのです」
 梨香がPCを操作し、皆に見えるように画面を向ける。

 かなりボケた画像だった。
 一見して何が映っているのかもよく分からない。
 画像加工ソフトで処理を済ませた画像で、ようやくそれが建物の窓に映る人影とわかった。
 長い髪、細く小柄な立ち姿――に、見える。

「ご覧のとおりです。この地域の住民は既に避難を完了しているはずです。もし取り残された人がいれば、正直に申し上げて生存は難しいでしょう。ですが……」
 梨香が何枚かの画像を続けて表示する。人影は歩いて移動しているようだった。
「可能であれば、これが『何』なのかも確認していただきたい、というのが追加のお願いです」
 一同を見回した梨香がひとつ大きな息を吐く。
「――ですが、あくまでも可能であれば、です」

 当然ながら、辺りにはサーバントも多数徘徊しているだろう。
 調査の時間が長くなるほど、多くの敵襲が予想される。
 そこで出発前に、どこまで調査するか――あるいは、行方不明者の捜索か、建物の調査のどちらかを諦めるか――を、同行者ですり合せて欲しいというのがこの会議の趣旨であった。

 だが、どうにも歯切れが悪い。
 全員がそう感じただろう。
 そのとき、梨香が続けて出した一枚の画像に妙なものが映り込んでいた。
「え? これって……」
 どこかで見たような背中が、こちらを庇うように映っている。
「あっ!」
 梨香が慌てたように視線を泳がせた。
「ええとすみません、これは……別途、生還した方が撮影したもので、今回の依頼には……」
 ――誰かに似てるよね?
 ざわめく参加者の声に、梨香が両手で顔を覆った。


 それより少し前のこと。
 久遠ヶ原学園大学部にある教員用の一室で、ひとりの女が携帯に向かって吠えていた。
「――今回ばかりは呆れたわ! もう少し貴方は賢いと思っていたのだけど。とにかく一度、電話して頂戴! 辞表は私の所で止めてあるから。いいわね!?」
 留守電にまくしたてると携帯を切り、大きく息を吐く。
「全く、何を考えてるんだか……!!」
 この教授室は元々彼女の部屋である。
 だが実際に使わせていたのは、彼女の片腕ともいうべき准教授。
 部屋は綺麗に片づけられ、デスクの上には白い封筒が一通、ポツンと残されていた。


プレイング

彼方へと続く道を・小田切ルビィ(ja0841)
大学部2年3組 男 
◆方針
捜索と調査を並行
行方不明者の捜索重視

上記総意で異論ナシ

◆学園への要請
捜索/調査範囲を絞り込む為、調査部隊の生還者から学園に上がった情報
(調査範囲・敵情報・撤退に至るまでの経緯等)を教えて貰える様要請

◆行方不明者の捜索
生存している場合は下記の2通りになるな

・潜伏
健在なら支配領域外を目指して潜行中の可能性が高い
最終連絡があった時点の位置情報が分かンなら、
上記の生還者からの情報と併せる事で、
より捜索範囲を絞り込む事が出来っかも?

・拉致
残念だが、現状では連れ戻す方法は無ェ

◆人影の調査
人影の正体が『池永真弓』だった場合、
『消息を絶った理由』と『不鮮明な画像』だけが送られてる点が気になる
…まるで隠し撮りしてるみてーだな、と

行方不明者と池永が普通に合流してるなら、
こんな画像ばかりを送って寄越すのは不自然な気がすンだよな…
こそこそ隠し撮らなきゃいけねェ状況だったって訳で

…俺の勝手な推測でしかないが、
池永は現在、天界側として動いている可能性があり、
行方不明者は敵陣の中に彼女を発見⇒尾行していたと考える事も出来る

池永が天界側として動く理由は、
洗脳、もしくは弱みを握られているか…?

◆画像の背中
真意を探るかの様に、梨香の瞳をじっと見つめ
(“目は口ほどに物を言う”ってか?)

梨香の挙動の不審さは、彼女が何かを隠しているから?

「…なあ。本当は事情を知ってんのに、
白川センセーに口止めされてたりしないか?」

歴戦の戦姫・雫(ja1894)
中等部1年1組 女 
・心情
「ふむ・・・何か隠しているみたいですね」

・行動
行方不明者の探索を重点として並行して建物の調査を行う事を提案
「現状、手がかりとなる情報が少なすぎてます。闇雲に調べるのではなく行方不明者と合流して情報を入手してからの方が効率が良いかと思います」
「それに、行方不明者の探索は同時に建物の調査にも繋がるかと」

当日は調査時間を延ばす為に陽動部隊を要請
「前回の調査隊が襲撃された事を考えると、向こうは此方の侵入経路把握している可能性があると考えられます。陽動部隊は今までと同じ経路で侵入、私達は新たな侵入経路を作成して内部に突入した方が発見される率は下がるかと思います」
「作戦行動時間は、陽動部隊が退却を始めるまでと言った所でしょうか」

大八木には動揺した事を追及して、写っていたと思われる人物とそこにいる理由について思い当たる事が無いかを聞き出す
「流石にあそこまで動揺されて、無関係とは思えませんよ?それに、前回の襲撃から見て楽な任務には成らないでしょう。身内から関係する情報を隠蔽されては、信頼して背中を預ける事が出来ません」

※アドリブOK

ブレイブハート・若杉 英斗(ja4230)
大学部3年3組 男 
■目的
作戦の方針
・捜索と調査を並行して行う
・行方不明者の捜索をより重視

■行動
「大八木さん、いまの画像って……白川先生だよね?」
白川先生が現地にいるのであれば、別に俺達に教えたって何か問題があるわけじゃないだろうし
……なにか問題があるとしたら、それは一体なんだろう

まぁ、いいや
現地で直接白川先生にきけばいい事だからな(白川先生に会う気満々

作戦における自分の意見を話しておく
「自分としては、人命最優先で行きたいと思う。撃退士が生存者を見捨てることは絶対にありえない」
「仲間のネフラウスは、必ず無事に連れて帰る。それから、ネフラウスの撮影したという画像の人物も」

人影は池永真弓ではないか、という意見をきいたら
「なるほど。さっき大八木さんは、『取り残された人の生存は難しい』と言ったけど、その画像の人物が池永真弓さんであるのだとしたら、話は違ってくるな」
池永真弓さんが天界のゲートにいるのだとしたら、天界勢に抱きこまれた可能性があるな
いまさら彼女が自発的に天界勢に戻る事は考えられない
となると、なにか弱みにつけ込まれているとか……

さっきの白川先生にしろ、ネフラウスにしろ、現地で合流すれば彼らからゲート支配領域内の情報を得られる可能性が高い
それは、今回の目的と、合致する
行方不明者の捜索と支配領域内の調査を並行して行うのがいいと思う


旅人の心友・月居 愁也(ja6837)
大学部6年2組 男 
●方針
・捜索と調査を並行して行う
・行方不明者の捜索をより重視
に同意
調査をどこまでやるか、は会議の結果から判断
行方不明者は絶対に捜し出したい

ネフラウスさんの場所、別れた地点から把握…携帯GPSは無理かな
電池切れかなあ…

●疑問点
>窓の人影
京都という場所、長い黒髪に細身の女性
一般人は避難済みで、残ってたら生存は難しいって中で生きているなら、撃退士か天魔か、だよね
だとすると、容姿からも心当たり的に「池永真弓」さんが思い浮かぶんだけど

真弓さんだとして、確か発信機を壊されて行方不明だった
だとすると何故ここにいるのか、池永氏はどうしたのか、が気になる
池永氏とは絶対離れないはず
彼は一般人だから、避難してないとまずいし…何より、余命僅かって感じだったのに
彼女「だけ」とは思えないから、池永氏も一緒かも
だったら調査と捜索を急ぎたいね

ただ、戦う力もほとんどない彼女がここにいることも不思議
池永氏は一般人なのにどうしてるんだろうとか
敵の罠って可能性もなくはない…かも

画像がぼやけてるのはかなり離れた場所から撮影した?
敵が密集してたのかな
建物周囲を巡回してたりしなかっただろうか

>背中の人
白川先生…だと思うんだけど(梨香ちゃん見る
え、なんで関係ないの?
先生であってもなくても、敵に囲まれてそうだし関係あるよね?

もし先生なら、ネフラウスさんと一緒にいる可能性は高いし
だったらなおさら、捜索の必要性が出て来ると思うんだけどな

そそぐ光に新たに誓う・夜来野 遥久(ja6843)
大学部7年2組 男 
■方針
捜索を最優先に、可能な限り調査を並行して行うことに同意です。

■可能性
・ネフラウス殿
全滅寸前だったとのことで、活性化した回復スキルもほぼ尽きている可能性が。
捜索エリアの絞り込みと、退避予定ルートの確認も必要ですね。
帰還学生から話を聞ければ。

・窓の人影
支配領域内で生存している=一般人ではない、と仮定し、愁也同様に池永真弓さんだと思います。
彼女の元使徒である小青が、彼女の生死を認識できるはずです。
生存かつこれが彼女である場合、池永家当主である大仙氏が共にいる可能性が極めて高いです。
調査と、確認できれば迅速な保護が必要と考えます。

■疑問点
・ネフラウス殿
GPS等で居場所の特定は可能か
撤退時の彼の状態

・庇う背中
白川准教授だと思うが確認は取れていない
→何故確認が取れない・学園側が把握していないか
→今回の依頼には関係ない:同行でもなく何故此処にいるのか
→帰還生徒は何と言っているか

白川准教授と仮定:彼は池永真弓さんの監視役だった
→何らかの理由で池永さんを単身捜索?
→学園はそれを認めず、故に単独行動?
学園側に黙って、もしくは意向に逆らった行動の可能性

ネフラウス殿と同行も考えられますし、捜索は必要でしょう。

…大八木さんはミスターから、彼の行動に関し黙っているよう言われませんでしたか。
私的事由ならば、詳細までは語っておられないはず。
或いは、直属の上司である星教授は、何か御存知だったりしないでしょうか?

私が村長です・歌音 テンペスト(jb5186)
大学部1年10組 女 
どんと来いアドリブ絡みキャラ崩壊

◯心情
あたしも真面目にやるときはやるんだよ

◯基本姿勢
難しい話に頭が付いてかないのを自覚してるので謙虚に振る舞う
お茶汲み係として役立つため青汁とか牛乳とかついで回る
長い話を覚えられないので自主的に会議録も書く
公にすると問題になりそうな内容は別ノートに記入
悪いな、全編ひらがなだ(キリッ

◯大八木お姉様
背中画像、どっかで見たおっちゃんの背中な気がするお!
「画像をもっと良く見せてお!他にはないの?」
挙動不審さが気になるので探り入れ
ここはストレートに真正面から目を見つめ両手を握りつつ優しく尋ねてみる
おっちゃんについて、何か隠してない?
この画像の存在については何処まで広がってるの?
その他、何か胸に秘めてることがあるのでは?悩みがあればあたしの愛で受け止めるよ

◯会議
全体方針として人命優先・行方不明者救助重視に一票
行方不明になってた分だけ、周辺のことを色々見てると思うし
救助して話を聞ければ、調査にも有益だと思うのん
謎の人影についても同様、もし接触できれば何か話を聞けるかもだし
可愛い女の子かもだし(

でも二次遭難は出来るだけ避けなきゃだよね
なので「行動不能者が発生したり、明らかに手に余る数の敵と遭遇したら撤収」
(逆に言うとそこまでは粘ってみる)を提案してみるよ

不死鳥の歌姫・水無瀬 文歌(jb7507)
高等部3年2組 女 
基本路線は,ネフラウスさんの捜索に重きを置きつつ捜索と調査は可能な限り平行で行うって感じでいいと思います
小柄な人影は直接会ってるネフラウスさんに聞けば何か掴めるかもしれないので,その意味でもネフラウスさんの確保が最優先ですね
救出者が確保されれば調査自体は撃退庁も行う定期的なので後続にまかせて無理しないでもよさそうですね?

ネフラウスさんが参加の調査部隊の生還者から詳しい話聞くよ

疑問
・調査隊はそもそも何を調べていたの?
・定期的に調査隊を送ってるという事は敵の巡回ルートの割出し等で敵を回避できてたの?
・今回はいつもと違うイレギュラーが起こった?
・行方不明者の最後に確認された地点はどんな場所?
・無事だとしてなぜネフラウスさんや庇った人はこちらに連絡してこないの?
→捕まったとしたら殺さない理由は?
→まだゲート内で活動中?その場合連絡してこない理由は?

ひとまず行方不明者の最後の足取りの地点から調査かな

月に群雲、花に風、されど・ファーフナー(jb7826)
大学部3年7組 男 
■依頼方針
・捜索と調査を並行して行う
・行方不明者の捜索を優先


■大八木
先遣隊が全滅しかけ、行方不明者も出た、支配領域内への潜入調査
危険な任務であるはずなのに、何かを隠しているように感じられる
我々は守秘義務は守るつもりだが
学園側に隠し事があるなら信頼関係が損なわれるな

行方不明者が不審な人影の画像を送ってきたとのことだが
支配地域であることから一般人でないのは明らか
しかし調査は『可能であれば』と歯切れが悪い
まるで明らかにされると困るような
何かを隠蔽しようとしているような

そして誤って映してしまった映像は、白川准教授に見えたが
大八木は慌てたように、視線を泳がせた
見せては不味いのは何故なのか
何を隠している?
依頼に関係ないと言うが、彼が一人で支配地域にいるとしたら危険であるし
なぜ彼はあの場にいたのか
もし彼が何らかの情報を持っているのなら、依頼に関係ないとは言えないだろう

現在、休講が続いているようだが
彼が先遣隊とは別に現地に行っているとしたら、何のために?
学園側として、彼に連絡は取っているのか
もし連絡が取れないなら、一緒に調査した方がいいように思うが

また、全滅しかけるほどのサーバントとは、どんな種類だったのか
行方不明の生徒は囮を買って出たというが、サーバントに何か心当たりがあったのか
もしくは白川准教授の姿を見つけて現場に残ったのかもしれない

口止めを大八木に指示したのは誰だ?
本人から話を聞いた方が早い



リプレイ本文


「大八木さん、いまの画像って……白川先生だよね?」
 若杉 英斗(ja4230)が画面から目を離さないまま問うと、梨香は強張った笑いを浮かべた。
 隣に座っていた歌音 テンペスト(jb5186)がそっと指を伸ばし、梨香の手を両手で包みこむ。
 うるんだ瞳で覗きこみ、ねだるように小首を傾げた。
「どっかで見たおっちゃんの背中な気がするお! 画像をもっと良く見せてお! 他にはないの?」
 おっちゃん言うな。……と、どこかから苦情が来そうだ。
 小田切ルビィ(ja0841)はなにかを探るように梨香の瞳を見据える。
(目は口ほどに物を言う、っていうしな)

 皆、梨香の挙動を奇妙に感じたのだ。
 ファーフナー(jb7826)も黙したままで梨香の挙動を観察していた。
(現在、休講が続いているようだが……何を隠している? 見せては不味いのは何故なのだ)
 本人がまだ現地にいるなら、無関係とは言えないはずだ。
 場合によっては情報を共有し、スムーズに依頼を成功させることもできるだろう。
(まさか学園と連絡が途絶しているのか?)

 梨香はひとつ息を吐くと、感情の読めない表情を取り戻す。
「確かに似ていらっしゃいます。ですが確認は取れていませんし、そもそもその点については今回の依頼と直接関係ないのではないでしょうか?」
「え、なんで関係ないの?」
 月居 愁也(ja6837)が眉をひそめた。
「もし先生なら、ネフラウスさんと一緒にいる可能性は高いんじゃない?」
 奇妙に感じたのは愁也だけではない。
 ルビィは目を離さないまま踏み込んでみた。
「……なあ。本当は事情を知ってんのに、白川センセーに口止めされてたりしないか?」

 梨香が答えるより先に、静かな声で雫(ja1894)がただす。
「流石にあそこまで動揺されて、無関係とは思えませんよ? それに、前回の襲撃から見て楽な任務には成らないでしょう。身内から関係する情報を隠蔽されては、信頼して背中を預ける事が出来ません」
「だからです」
 梨香が真っ直ぐに雫を見返す。
「捜索依頼が出るほどです。本来の調査任務でも充分危険なんです。それに加えて、ネフラウスさんの捜索をねじ込もうというのですから」
 それから軽く目を伏せる。
「画像を出したのは私のミスです。信頼できないと仰るならそれはそれで仕方がないですね」
「大八木先輩、そんなふうに言わないでください。何か力になれることがないかと、皆思ってるんですから」
 水無瀬 文歌(jb7507)が気遣うように、優しく微笑みかける。
 ともすれば険悪になりそうな空気を変える笑顔だ。
 北風と太陽。風に抵抗するなら優しく温めてみようというところか。
 歌音が近くにあったスタンドをずるずると引き摺り、向きを変えて梨香に当てた。
「正直に言うんだ……楽になるぞ?」
 カツ丼でも持ち出しそうな雰囲気である。たぶん、やってみたかっただけだろう。

 それまで黙って考え込んでいた夜来野 遥久(ja6843)が、口を開いた。
「つまり、学園側も白川准教授と連絡が取れていないという訳ですね」
 梨香が頷く。
「おそらくはそうでしょうね。私も学生です。斡旋所で皆さんよりほんの少し先に依頼内容を知ることができるだけですから、詳しいことは知らされていません」
 今回は任務に専念してもらうほうが成功率も上がるはず。だから余計な情報は遮断すべきとして、謎の人物については伏せると決まったらしい。
「なるほど。では生還した学生の話を聞くことはできますか?」
 遥久は質問を切り替えることにした。梨香が嘘をつく理由はなさそうだからだ。
「電話なら可能ではないでしょうか。……と、その前に、大事なことを忘れていました!」
 生還した学生、というキーワードで、画像のショックから梨香がようやく立ち直った。

 大事なこと、というのは、画像が送られてきた経緯である。正確には、ネフラウス達のそれまでの行動だ。
 現在、京都結界内の状況――残っている建物や道路の状況、出現するサーバントの種類、結界の影響など――を確認するため、定期的に撃退署などが調査を行っている。
 当然、人手は足りない。久遠ヶ原やフリーランスにも協力要請が出ていた。
 ネフラウス達はその任務の途中、奇妙な映像が撮影されたとして画像データを送信。その後、件の人影に近づこうとして電波不良エリアで戦闘に入り、全滅寸前となった所で伝令が離脱し救援を求めた――ということだった。
「白川先生らしき人物は、その救援にかけつけた撃退士のひとりのようです。負傷者を抱え、撤退を優先したでしょうから、既にその場には居ないでしょう。ネフラウスさんが行方不明になった経緯は、救出したメンバーから後で聞いたことのようですね」
 ファーフナーは目を伏せて話に聞き入っていたが、そこであることに気付く。
「正式な救援に応じたなら、参加メンバーは記録に残っているだろう。それに一部隊が全滅しかけるほどのサーバントがどんな種類だったのか確かめたい。当人でなくとも所属先に連絡は取れないのか」
 梨香がPCを操作する。
「……近くにいたフリーランス部隊のようですね。代表者などは分かりますが、私では個人名までは確認できないようです……すみません」
「もし、白川准教授と仮定するなら……直属の上司である星教授なら何か御存知だったりしないでしょうか?」
 遥久の言葉に、愁也が慌ててスマホを取り出した。
「あっ、そうか! 俺、確か連絡先聞いた!」
 依頼の縁は、どこで生きてくるかわからないものである。


 結局わかったのは、現時点では星教授も白川と連絡がとれていない、ということだった。
 英斗が何となく重い空気を払うように椅子に座り直す。
「まぁ、いいや。何を考えているのか、現地で直接白川先生にきけばいい事だからな」
 連絡が取れない、学園にいないという事実は、逆にいえば人影が本人であることを否定していない。
 少なくとも敵対していないなら、向こうから接触してくる可能性もあるのだ。
「という訳で、作戦について詰めよう。自分としては、人命最優先で行きたいと思う。撃退士が生存者を見捨てることは絶対にありえない」
 守りを旨とする英斗には、これだけは譲れない。
「仲間のネフラウスは、必ず無事に連れて帰る」
 もちろんこれは、自分の主義主張だけに基づいたことではない。
「捜索と調査を並行するのには賛成なのん」
 歌音がノートから顔を上げた。
「行方不明になるまで周辺のことを色々見てると思うし。救助して話を聞ければ、調査にも有益だと思うのん」
 会議の内容が多少不穏になって来たため、書きとめているのはマル秘用のノートである。
 暗号のつもりか、全てひらがなで記されていて、多少読みにくいが本人が読めれば問題ないのだろう。
 読めれば……だが。

 そこでルビィが釘をさす。
「ネフラウスは本当に生きてンのか?」
 当然、ルビィとて生きていて欲しいと思うのだが。
「仮に生きているとしたら……どういう状況だ?」
 襲撃を受けて、部隊はほぼ全滅。囮になったまま潜行中なら大したものだ。
 最悪なのは……。
「拉致されてた場合だ。残念だが、現状では連れ戻す方法は無ェ」
 文歌がそれを受けて考えこむ。
「そうですね。生きていらっしゃるなら、なにか連絡があるはずです。でも拉致したとして、その者にどんなメリットがあるのでしょうか?」
 愁也が唸る。
「ネフラウスさんの居場所、別れた地点から把握……携帯GPSは無理なんだよな。近くの地図はあるんだよね?」
「ええ。建物の損壊状況など、調査済みの内容は織り込み済みです」
 梨香の答えに、雫が頷いた。
「現状、手がかりとなる情報が少なすぎてますね。行方不明者は生きていると信じましょう。その前提で、闇雲に調べるのではなく、手をつけられるところから手をつけませんか」
 一同を見回す雫。
「謎の人影が見られた建物を調査しましょう。行方不明者が出たのもその近くなのですから」


 ファーフナーがなにかを探すように指を動かす。
 煙草を欲しているようだが、さすがに教室では控えているらしい。
「その人影だが。支配地域内なのだから、一般人でないことは明らかだな」
 鋭い光をたたえた瞳が、梨香を見据える。
「だが、調査は『可能であれば』などと歯切れが悪い。何かを隠蔽しているようにな」
 その手元に、グラスが置かれた。中身は薄い青汁。
「……」
 ファーフナーの視線が移動し、満面の笑みの歌音の顔へ。
「色は粗茶っぽいですがどうぞ」
 笑ってはいるが、おっさんに対する歌音の扱いはあまりよろしくない。
 すぐに梨香の隣に移動し、牛乳を置く。
「大八木お姉様、お疲れでしょう? それともあっためましょうか?」
 あたしの愛で。
 頬を染めて言いかけたところで、梨香は空気を読まず、ぐっとグラスを握って勢いよく煽った。
 タン。
 空のグラスを机に置き、プハッと息を吐く。
「私にも真相はわかりませんが、危険を冒すかどうか、現場に任せるということだと思います」
 若干やさぐれてきたようだがそれはともかく。

「一般人は避難済みで、残ってたら生存は難しいって中で生きているなら、撃退士か天魔か、だよね」
 愁也が言葉を選ぶようにして吐き出した。
「容姿、その他の条件から、俺が思い当たる人がひとりいるよ……「池永真弓」さんだ」
「なるほど。さっき大八木さんは『取り残された人の生存は難しい』と言ったけど、それなら話は違ってくるな」
 英斗は幼馴染から聞かされていた依頼の話を思い返す。
「池永真弓さん……どんな方ですか?」
 文歌が小首を傾げた。
「それは……」
 愁也が何から語ればいいのかと言い淀む。
 この京都では色々なことがあった。
 そして今、まだ色々なことが起きているのは間違いない。
 遥久が愁也に代わって答えた。
「堕天使です」
 クー・シーという天使の、池永真弓としての経歴。
 人間の男――池永氏のために堕天し、その庇護下で京都にいたこと。
 天界に残した使徒・小青 (jz0167) が、封都作戦での敵将だったこと。
 元の主を求め、小青は学園に身を寄せたが、余命幾許もない池永氏に付き添うため真弓は京都に残ったこと。
 その真弓は、ザインエルの再来に際し通過用のゲートを開いた後、壊れた発信機を残して行方不明になっていること――。

「小青なら彼女の生存を認識できるはずです。……ですね?」
 遥久が同意を求めると、梨香が頷く。ルビィが天を仰いだ。
「つまり、池永真弓は天界側についたってことか」
「それは違うと思う。少なくとも、真弓さんの本心からじゃないはずだ」
 愁也が悔しげに顔を歪めた。
「池永さんとは絶対離れないはずだよ。でもあの人は一般人だから結界内じゃ生きていけないし。……何より、余命僅かって感じだったんだ」
 そう、かなり弱っていた。あれからずいぶん経って、まだ生きていられるなら不思議なほどに。
「そりゃつまり、弱みを握られてるってコトか」
「でも戦う力もほとんどないって聞いてたから、真弓さんの利用価値がわからない。考えたくないけど……敵の罠?」
「でも誰をひっかけるつもりってンだ? それに罠ならもっと分かりやすくひっかけんじゃねェの」
 ルビィの言葉は自問自答するようだった。同様に、考えこんでいた遥久が独り言のように呟く。
「ミスターはそれを単身探っておられた……?」
「それはないと思います」
 梨香が口を挟む。
「画像がもたらされたのはつい先日です。先生の休講はそれ以前からですよね」
「ああ、そういえばそうでしたね」
 遥久が苦笑する。
「ともかく、人影が池永真弓さんである場合、おそらく池永氏が共にいる可能性が極めて高い。迅速な保護が必要でしょう」


 しばしの沈黙。
 そこにノックの音が響き、一同が入口を見た。
「まだいたわね。入るわよ」
 ずかずかと入って来たのは、白衣をひっかけた長い黒髪の女。白川の上司、星教授だ。
「電話をもらって少し思うところがあったから」
 手近の椅子に掛け、勝手に喋り出す。
「白川君は学園を退職するつもりなの」
「えっ……ええっ!?」
 愁也が目を丸くする。
「今は休職扱いよ。……彼が旧体制学園の出身ってことは知っているかしら?」
 遥久が静かに頷いた。
 軍隊式の組織だった久遠ヶ原学園は、その後、現在のような学生主体の組織に変貌し成果を収めていることは学園生なら誰でも知っている。
「彼は言ってたわ。撃退士はただ誰かの指示に従うのではなく、自分で考え、行動するべきだって」
 自分で考えろ。
 自分の主は自分であれ。
 「自分」を「学生」に言い換えれば、それはそのまま、期待された久遠ヶ原学園の姿になるだろう。
「彼もそうしようと決めたのでしょうね。――もう少し賢く振る舞える人間だと思っていたのだけど」
 星は軽く肩をすくめた。
「今、彼はフリーランスと行動しているらしいわ。でも敢えて探さないようにね。今の京都でそんな余裕はないわ。ただ、もし会えたら――そうね、私の代わりに足ぐらいは踏んで来て頂戴。報告期待してるわ」
 手をひらひらと振って、来た時と同様に勝手に出て行く星。
 素直に「無事で帰れ」とは言えない性格だった。

 改めて雫が切りだす。
「当日は陽動作戦を要請します。調査時間を確保するためです」
 自分で考えろ。そう言われたのだから、遠慮なく要求を叩きつける。
「向こうは此方の侵入経路把握している可能性があると考えられます。そこで陽動部隊に今までと同じ経路で侵入してもらい、私達は新たな侵入経路を作成して内部に突入した方が発見される率は下がるかと思います」
「だが未知のルートは時間が読めんな」
 ファーフナーが切りこむ。興味は示している。だが無謀に付き合うつもりもない。
 文歌が片手を挙げた。
「調査自体は定期的なものですから、まだ調査が済んでいないルートをひとつ任せてもらえばいいのでは? うまく行けば救出まで頑張って、無理そうなら後続にまかせるのもいいと思います」
「うん。二次遭難は出来るだけ避けなきゃだよね」
 歌音が青汁牛乳をすする。
「行動不能者が発生したり、明らかに手に余る数の敵と遭遇したら撤収。逆に言うとそこまでは粘ってみる、ってことでどうかな」
 雫もここで命を賭けるつもりはない。より正確にいえば、命を賭けるのはここではない。
「陽動部隊にも無理はさせられませんから。作戦行動時間は、陽動部隊が退却を始めるまでといった所でしょうか。……どうですか大八木さん、可能ですか」
 考えこんでいた梨香が、ハッと我に返る。
「あ、はい。それは今回、星教授の口添えをお願いすれば可能だと思います」
 そこでちらりと、恐らくは無意識に遥久を見る。
「……実は先程の罠の件で思いついたのですが。大前提が間違っていた場合――人影が池永真弓さんではない、例えば別の天使だったらどうしますか?」
 何事かをまだ考え込むように、梨香は自分の手元を見つめていた。

<続>


依頼結果/参加キャラクター

依頼成功度:普通面白かった!:4人
MVP一覧
 −
重体一覧
 −

彼方へと続く道を・
小田切ルビィ(ja0841)

大学部2年3組 男 ルインズブレイド
歴戦の戦姫・
雫(ja1894)

中等部1年1組 女 鬼道忍軍
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部3年3組 男 ディバインナイト
旅人の心友・
月居 愁也(ja6837)

大学部6年2組 男 阿修羅
そそぐ光に新たに誓う・
夜来野 遥久(ja6843)

大学部7年2組 男 アストラルヴァンガード
私が村長です・
歌音 テンペスト(jb5186)

大学部1年10組 女 バハムートテイマー
不死鳥の歌姫・
水無瀬 文歌(jb7507)

高等部3年2組 女 陰陽師
月に群雲、花に風、されど・
ファーフナー(jb7826)

大学部3年7組 男 アカシックレコーダー:タイプA


依頼相談掲示板

質問卓
月居 愁也(ja6837)|大学部6年2組|男|阿修
最終発言日時:2016年10月23日 01:06
会議について会議する卓
歌音 テンペスト(jb5186)|大学部1年10組|女|バハ
最終発言日時:2016年10月23日 01:05
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2016年10月20日 06:01


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