10月半ば、米アラスカ州セントポール島の海岸に海鳥、エトピリカの死骸が打ち上げられた。最初は数羽だったのが、数十羽に、さらに数百羽に増えていった。ボランティアたちは初めのうちは車で死骸を探していたが、あまりに数が多いので車を降りて徒歩で回収し始めた。
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エトピリカは、黒い体に白いマスクを着けたような顔、橙色のくちばしをもつ海鳥だ。太平洋の北、ベーリング海の真ん中に浮かぶセントポール島で、この鳥が次々に死んでいるのはなぜなのか。いつもならエサの豊富なベーリング海に、異変が起きているのだろうか。
ベーリング海は北米で最も多く海の幸が獲れる、漁業の盛んな海域だ。2016年初め、この海域の水温が記録的な高さに達したことから、専門家らは海の食物網に変化が生じているのではないかと考えている。もしそれが本当なら、海鳥、オットセイ、サケ、カニ、スケトウダラといった海の生物が深刻なエサ不足に直面する恐れがある。スケトウダラは、ファストフード店のフィッシュサンドや冷凍のフィッシュスティックに使われるアメリカで人気の白身魚で、その市場は年間10億ドルに上る。
今年に限らず、数年前からアラスカ湾には通常よりも水温の高い「暖水塊」が居座り、これに南カリフォルニアからの暖かい海水が合流して、沿岸海洋に劇的な変化をもたらした。オレゴン州沖では、食物網の底辺をなす脂肪分の高いカイアシ類の姿が数カ月間見られず、その結果、それをエサとするアシカ、ウミガラス、アメリカウミスズメが大量に餓死している。アラスカ州でもクジラやラッコの死骸が打ち上げられ、西海岸ではかつてないほどの長期にわたって猛毒の藻類の大量発生が続いた。
一方、北極に近いベーリング海ではこれまで大きな変化には至らなかった。2014年初めの海水温は平年よりも上がったが、異常なレベルとまではいかなかったし、昨年もアラスカ湾からの暖かい海水が海氷の拡大を阻まなければ、平年並みの海氷量を記録していただろう。