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トランプ大統領誕生は、日本がアジアの主役になる絶好のチャンスだ
自分の手と足で、考えるべき時が来た

言い訳をしても仕方がない

米大統領選は「世紀の番狂わせ」に終わった。なぜトランプ氏は予想に反して勝利できたのか。新聞が言うように「大衆迎合」が巧みだったからではない。大衆の側が変化を望んだのだ。日本も頭を切り替える必要がある。

マスコミや専門家は民主党、クリントン氏の勝利を予想していた。私もその1人だ。ところが大違いだった。

予想は両候補の支持率で示されたが、実際の選挙は大半の州で勝った陣営が選挙人を総取りする仕組みなので、候補者別の予想支持率がそのまま結果に映し出されるわけではない。本番の得票数はクリントン氏が上回ったが、それでも過半数の選挙人を獲得したのはトランプ氏だった。

そんな事情はあるが、いまさら外れた予想の言い訳をしても始まらない。もっと根本的な問題を考えよう。

 

なぜトランプ氏が勝ったのか。私は、現状に対する人々の「怒りと不安」がとてつもなく大きかったからだ、と思う。

前兆はあった。英国が欧州連合(EU)からの離脱を決めた6月の国民投票だ。このときも多くのマスコミや専門家が「まさか英国の離脱はない」と見ていた。だが、結果は違った。

私は7月1日公開コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49058)で、英国の投票結果について「世界の地殻変動を告げる号砲かもしれない」と書いた。そう書いておきながら、今回の結果を予想できなかったのは情けないが、大統領選はまさに「地殻変動の第2波」とみるべきだ。

〔PHOTO〕gettyimages

世界を動かす「深層海流」

英国のEU離脱と米国の大統領選の結果は本質的に同じ現象である。一言で言えば、英国でも米国でも「自分の国と暮らしは自分で守る」という自国優先主義に多くの人々が共鳴したのだ。

英国では東欧からの移民や難民に雇用と賃金を奪われ、テロリストが流入する懸念が広がっていた。それがEU離脱につながった。米国でもメキシコからの不法移民とテロへの懸念があった。「メキシコ国境に壁を作りイスラム教徒は入国禁止」というトランプ氏の主張に支持が集まった背景には、そんな現実がある。

クリントン陣営や識者たちは「バカげた人種差別」と批判したが、現実に仕事を奪われ、低賃金にあえぐ人々の怒りと不安の前には説得力を持たなかった。

トランプ氏の主張を「大衆迎合のポピュリズム」と批判する声がある。そんな批判は英国がEU離脱を決めた際にも起きた。大衆迎合と決めつける一部のマスコミや識者たちは「自分たちが正しく、大衆は騙されている愚か者」と思っているのだろうか。

私は当時、そんな指摘を「上から目線」と批判したが(7月1日公開コラム)、今回もまったく同じ思いがする。怒りと不安に包まれている人々を「バカな人たち」、勝者を「ポピュリスト」と切って捨てても、現実は何も見えてこない。

そんな目線では、この先も世界の流れを見誤り、ますます居丈高なトンチンカンになっていくだけだろう。

人々のリアルな不安感はいまや世界を動かす深層海流になりつつある。マスコミや識者たちは、普通の人々に取り残されているのだ。

具体的に言えば、来年春にはフランス大統領選がある。ここでは有力候補の1人である国民戦線のル・ペン党首が「フランスも英国に続け」と叫んでいる。その後、秋にはドイツで総選挙がある。

トランプ氏の勝利は間違いなくル・ペン党首に追い風になる。トランプ氏が「強いアメリカを取り戻す」と言ったように、ル・ペン氏は「強いフランスを取り戻す」と叫ぶのではないか。次は「強いドイツを取り戻せ」だ。自国優先主義がスパイラル状に加速していきかねない。