現在放送中のTVアニメ『フリップフラッパーズ』の劇伴と、EDテーマ「FLIP FLAP FLIP FLAP」を担当するTO-MAS SOUNDSIGHT FLUORESCENT FOREST=“TO-MAS”は、伊藤真澄、ミト(クラムボン)、松井洋平(TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND)の3人からなるユニット。それぞれが個別にクリエイターとして活躍する彼らが、何故「劇伴作家ユニット」を結成するに至ったのだろうか?今回は、“TO-MAS”始まりのいきさつから、『フリップフラッパーズ』の音楽におけるプロフェッショナルな制作過程まで、メンバー3人にたっぷりと話を聞いてみた。
※TVアニメ『フリップフラッパーズ』ED主題歌「FLIP FLAP FLIP FLAP」 TO-MAS インタビュー Vol.2はこちら
Interview & Text By 青木佑磨(クリエンタ/学園祭学園)
At Lantis
TO-MAS feat. Chima『FLIP FLAP FLIP FLAP』のレビューはこちら
連絡が「結成しました」でしたからね。過去形ですから。
──まずはTO-MASというユニットについてお聞きしたいと思います。メンバーそれぞれのご活躍は皆さまご存知かと思いますが、どういった経緯でこの3人が共同で活動することになったのでしょうか?
松井洋平 ……この質問に、明確な答えを出せる人っているんですかね?
ミト むしろ、ちょっとした脚色をした方がいいですよね。
──特になければ、これを機に設定を詰めていきましょうか。
ミト 昨今、アメリカのEDMシーンでは……。
一同 (笑)
松井 まさかの入りだ(笑)。
ミト コライト(Co-Write/共作)という文化が流行っておりまして、色々な作曲家がパートごとに音楽を共作するような流れがあるんですが……そういうものに倣っているわけではなく(笑)。
──ではないんですね(笑)。
ミト ランティスの伊藤善之プロデューサーが突然、本社の会議室に我々3人を呼び出したんですよ。そこでいきなり「ユニット名を考えました」と言われました。
松井 僕は何も聞かされていない状態で、ある日伊藤プロデューサーからメールが来たんですよ。プレビューを見たら「伊藤真澄、ミト、松井洋平……」と書いてあって、以降の文章は省略されて読めなくて「何、この面子!?」と思って。
──「この3人に何のつながりがあるんだ」と。
松井 そうなんですよ! それで、中身を見るのが怖かったんで一旦昼飯を食べて(笑)。そろそろ見るかと思ってメールを確認したら、「この3人でユニットを結成したので、名前を考えてください」と書いてあったんですよ。
──事後報告だったんですか!?
松井 完全に事後でしたね。「はあー、そうなんや! 結成しはったんや!」と他人事のように思いつつ、その中に僕もいるんですよ(笑)。
ミト いきなり特報が来たみたいな感じですよね。
松井 そうですね、「とうとう結成!」みたいな感じで。「こういうのって本人に知らせないもんやねんなー」と思いましたね。
ミト 世の中には色んなことがあるんだなあと思いますよね。
松井 それで試しに7階の会議室に行ってみたら、真澄さんがいて、ミトさんがいて。
──その時点で結成はされてしまっているんですよね。
松井 連絡が「結成しました」でしたからね。過去形ですから。
──初顔合わせがグループ名会議だった訳ですか?
伊藤真澄 いや、グループ名ももう決まってましたよね。
松井 グループ名はその場で僕が発表しました。「ミトさんと真澄さんが居て、間を僕がつないでいるのでTO-MASでいきます」と。
伊藤 ミトさんの「TO」と、真澄の「MAS」。
松井 ふたりの名前から松井の「MI」をマイナスしたから「TO-MAS」なんです。
伊藤 いきなりグループ名を発表されて、あの時はびっくりしましたよねえ。
ミト そうですねえ。しかも正式名称は長いのがあるんですよ。TO-MAS SOUNDSIGHT FLUORESCENT FORESTという。
伊藤 舌噛みそう(笑)。
松井 その長いやつは、のちにだんだんフェードアウトしていくんですけど(笑)。一応、サントラを担当したりする際には使うことになっているんですけどね。
──劇伴担当の際には正式名称で、今回のシングルリリースは「TO-MAS」ということになっていますね。ということでTO-MAS、結成してしまいましたね(笑)。
伊藤 知らないうちに……。
──まさか「経緯がない」とは思いませんでした。
松井 結成秘話たるものがないんですよね。あったらこっちが聞きたいくらいです(笑)。
ミト だってもう会った瞬間に、TO-MASで劇伴をやるアニメの企画書を渡されましたからね。
やばい、予測がつかないぞこのインタビュー(笑)
──初対面の時点で最初のお仕事が決まっていたんですね。ちなみにその企画書というのは?
ミト TVアニメの『ももくり』ですね。
松井 「『ももくり』をします」でしたからね。「そうか、俺たちは『ももくり』をするのかあ」と(笑)。
アニメ『ももくり』オリジナルサウンドトラック musique a la mode
ミト TO-MASをやることが決まって、それぞれの担当マネジメントと挨拶して、その場でTO-MASチームのA&Rの方が突然企画書を渡してきて「今回の説明をいたします」と(笑)。
──もう『電波少年』みたいですね(笑)。
ミト あ、そうかも! これ『電波少年』だ!(笑)。
松井 90年代リバイバルがここにも! なるほど、確かに目隠しされて連れて来られた感あるわ(笑)。
ミト もはやいきなり東大受験の世界ですよね。がんばってやりますよ、としか(笑)。
──ちなみにTO-MASを結成される以前の、皆さんの関係性はどんなものだったのでしょうか?
ミト 知り合いです(笑)。
伊藤 あれ、私と松井さんとはあの時が初対面でしたよね!?
──えぇっ!?
ミト あれ、真澄さんと松井くんってそうだったんだっけ?
伊藤 そうなんですよ! 初めましてだったんですよ!
松井 もちろんお名前は存じ上げていましたけど、お会いするのは初めてでしたよ。
ミト やばい、予測がつかないぞこのインタビュー(笑)。
──こちらとしても、想定していなかった回答ばかりが返ってきます(笑)。
松井 僕からすると、初めて会った人とユニットを組むことになったんです。
伊藤 でもなんか、自然だったんですよね。すごくスッとフィットしちゃって……あれ、私だけかな?(笑)。
ミト いやいやわかります。わかるんですけどね(笑)。動揺したりドギマギしたりする部分はあったのかもしれないですけど、お互いにやっぱり業界が長いので。「そういうものなんだ」というところもありました。
伊藤 そういう空気がありましたよね。
松井 何せもうメンバーですから、フランクに行こうと(笑)。これが「こちらが伊藤真澄さんです」「どうも松井洋平です」という感じだったら違ったかもしれないですけど、会った時点でもうメンバーですからね。普通に「あ、真澄さんだー」って。
──前提として、メンバーであるところからのスタートな訳ですからね。ミトさんとお二人は面識があったんですね。
ミト 真澄さんはレコーディングもライブも一緒にやりましたし、もっと言えば私は元から大ファンですから。真澄さんが音楽を手掛けた(※七瀬 光名義)『宇宙海賊ミトの大冒険』という名作がありまして、その頃からずっと好きです。もちろんOranges & Lemonsも好きですし、真澄さんの数多の所業を知っている訳です(笑)。
伊藤 きゃー(笑)。
ミト 松井くんは松井くんで、私はTECHNOBOYSのライブを2~3年前に普通に見に行ってるんです。TECHNOBOYSでドラムを叩いている、よしうらけんじさんが高校のOBだったので……あれ、これ真澄さん知りませんでしたっけ?
伊藤 知りません。まだ知らないことがいっぱいありますね(笑)。
松井 だって、ミトさんとよしうらさんでユニットを組んでたんですもんね。
ミト よしうら先輩は高校のブラスバンドのOBなんですよ。
伊藤 色んな伏線があるんですねえ。
ミト それで「バンドのサポートやってる」って言うから遊びに行ったら、それがTECHNOBOYSだったんです。まあ合縁奇縁と申しますか(笑)。
松井 伊藤プロデューサー、ひょっとしたらダーツ投げてメンバー選んでたんちゃうかな。「あー、松井かー!」とか言いながら(笑)
まず、「TO-MASの世界を広げたい」という気持ちがあったんです。
──ということでユニットが結成されまして、2作品の劇伴を経てTO-MAS名義での1stシングル「FLIP FLAP FLIP FLAP」がリリースされます。今回はTVアニメ『フリップフラッパーズ』の劇伴とEDテーマを担当されていますが、どういった依頼があっての楽曲制作だったのでしょうか?
伊藤 まず、「TO-MASの世界を広げたい」という気持ちがあったんです。そしてそのために、TO-MAS専属の女性ボーカリストを迎え入れることで、色んな活動範囲が広がるんじゃないかと思ったんですね。
──本人たちのご要望があって、新しく劇伴以外の歌モノをやろうということになったんですね。
伊藤 はい、私はやりたかったですね。
松井 僕は作詞家なので、歌が入らないとどうしようかという部分もありまして……(笑)。
ミト 伊藤プロデューサーもすごいんですよ。最初に集まったときに「松井くんってどうするんですか」って聞いたら、「うん、こいつは歌詞を書けばいいんだよ」って言ってて。いやいや、劇伴だぞと(笑)。
──劇伴には基本的に歌詞がないですからね(笑)。TO-MAS SOUNDSIGHT FLUORESCENT FOREST名義で劇伴を担当される際の、役割分担はどのようなものなのでしょうか?
伊藤 それは伊藤プロデューサーから、最初に発表がありましたよね。「伊藤真澄」「ミト」「松井洋平」という三角形を書いてくれて、「真澄さんはメロディを書ける人」「ミトさんもそうだから、真澄さんとミトさんがそれぞれのメロディをアレンジしあったりできる」「松井さんはギミックや特殊な要素を入れられる」「……そういう関係です!」とホワイトボードに書かれて(笑)。
ミト そう、プロットまで先に決められてたんです。
──結成した段階で、既に制作の方法論が決められていたんですね(笑)。
伊藤 でも、そういう風に説明してもらったから「あ、そういう役割なんだな」と思い描けましたよね。
ミト 『ももくり』のときは少なくともその形でしたよね。
伊藤 そう、綺麗にそうなりました。
面白いですよねえ。まだ無限にできそうですよね。
──それぞれが音楽を作れる中で、ユニットとしてどういった過程を経て完成に至るのか気になっていたのですが、別の人が作ったメロディを他の人がアレンジし直すということがあるんですね。
伊藤 そうですね、そういうやり方で作ったものもあります。
ミト あと「ここまで作ったからここから先はお願い」というやり方もありましたね。
伊藤 ポンポンポンと、結構適当に投げてますよね。適当は言い過ぎか(笑)。
ミト 人が作ったものに、勝手にトラックを録ってきて入れたりもしましたね(笑)。
伊藤 そう! 知らない間に色んなものが足されてるんです。でもすごく良い形に変わっているので、「わー、素敵ー!」と感激することが沢山ありましたね。
──かなり流動的な作業をされているんですね。
ミト そうですね。皆、思いついた傍から入れていく感じです。
松井 皆さんアイデアがすごい出てくるんですよ。
ミト いやいやいやいや、結構いっぱいいっぱいですよ私は(笑)。
伊藤 そうは見えないですよねえ。
ミト 劇伴制作にあたって「こういう曲を作ってほしい」ということが書かれたメニュー表というものがあるので、それを見て「自分はこれをやろう」「この人にはこれを」というのは大まかには決めるんですよ。だけど、中には3人とも手に余るようなオーダーもあるんです。そういうものも苦手意識を克服するようにアクティブに手を挙げていきながら、大人のやり取りをしていく訳ですよ。今回の劇伴には、メタルとかもありましたからね。
伊藤 確かに『フリップフラッパーズ』はちょっと特殊でしたね。
松井 まずこのアニメ自体が特殊というのもありますね。
──発注する側も「この3人が揃っているなら、どんなジャンルの音楽でもできるだろう」と思ってメニュー表を書いてきそうですね。
ミト そうそう! その過大評価に対して、どうにか面目を潰さずに評価を維持していくかという必要があるんです(笑)。
松井 「もちろんできます」という顔で、「わかりました」と答えるんですよね(笑)。
ミト 私たちもいい大人なんで、そういうところは風を切るようにいなしていくわけですよ。
伊藤 いわゆる「プロフェッショナルとは」みたいな感じですね(笑)。
松井 でも本当に面白い。こんな面子とやれるなんて、中々ないことですから。普段TECHNOBOYSで使っている武器をどう活かしていこうかとも思いますし、逆にTECHNOBOYSではできないことをやりたい気持ちもあります。例えば真澄さんがひとりの世界では表現しきれない部分を、僕とミトさんが手足になって支えたり。ミトさんが持っている骨に、僕と真澄さんで肉付けをしたり。そういう作業がすごく面白いですね。
伊藤 面白いですよねえ。まだ無限にできそうですよね。
松井 だって、骨と筋肉が違う付き方をする人っていないじゃないですか。でもこのTO-MASというユニットでは、それがあり得るんですよ。
ミト 肉と骨が逆転して昆虫みたいになってる曲もあるしね。
松井 外骨格になるときもありますね。確かに僕は外骨格担当です(笑)。
──曲によって、誰が骨になって誰が肉になるのか入れ替わったりする訳ですね。
松井 そうですね。今回からは僕も作曲もさせていただきましたし。
ミト 松井くんがまた、特殊な曲を作ってくるんですよ。「このシーンとこのテーマで、これ叩き込んで来る!?」という曲を。
ああ、それはあるかもしれない! 見えている隙間が違いますね。
──メニュー表に対してミトさんが「このテーマだったらこういう曲だろう」と想像したものと、全く異なるものを他のメンバーが作ってくる場合もあるんですね。
ミト ありますよ。それこそEDテーマの「FLIP FLAP FLIP FLAP」もそうで、オーケストレーション的な曲にリズムがしっかり入ったりとか、歌詞の言葉の選び方とか、全く想像できない着地を見せるんです。
──分業だからこそ、骨組みを作った人間が想像していなかった未来が訪れることもあると。
ミト そんな気がしますね。もしかすると作曲した真澄さんには完成品が見えてるのかもしれないけど、私なんかは口を開けたまま「あー、こう変わるんだー」と思いながら見てましたね(笑)。
松井 でも真澄さんが作られたメロディに、ああいう形のグル―ヴを乗せたのはミトさんですからね。
伊藤 そう、ミトさんは私の筋肉です。私、筋肉ないんで(笑)。
ミト いやいやとんでもないです。でもやっぱり入れられる内容が皆それぞれ違いますよね。見てる隙間が違うと言うか。
松井 ああ、それはあるかもしれない! 見えている隙間が違いますね。
伊藤 逆に、作るときにわざと一小節を空白にして「松井さんがここに何か入れてくれるかな」って託すこともありますね。「何もしないでおこう」って(笑)。
松井 「真澄さん欲しがってるなあー!!」と思いますね(笑)。仲間内での脅かし合いみたいな部分もあるんですよ。
伊藤 そうです! 脅かし合いなんですよ。
松井 「ここにこれを入れるなんて想像してないだろうな」と思って要素を足したりしますね。
──骨側が隙間を作ることもあれば、肉側が思わぬところに肉付けすることもあると。
ミト 「まさかここに肉を乗せるか」ということもありますね。
松井 『ももくり』から一貫して、エンジニアさんがTD(トラックダウン)まで全て同じ方なんですよ。なのでなんとなく、TO-MASの雰囲気を掴んでくださっているんですよね。だからどんな音を入れても、あるべきところに置いてもらえるという安心感もあるんです。
来るものに対して否定する要素がないんですよね、そもそも結成自体が「来たもの」だから(笑)
──「FLIP FLAP FLIP FLAP」はクレジット上は「作詞:松井洋平/作曲:伊藤真澄/編曲:TO-MAS」となっておりますが、各パートはどういった順序と役割分担で作られたものなのでしょうか。
伊藤 私がまず最初にメロディとコードと、ざっくりしたアレンジを作りました。
松井 そのざっくりアレンジの段階で、歌詞を乗せましたね。
伊藤 世界観が見えないと歌詞は書けないので、世界観がある程度見えるような肉付けはしてあるんですよ。
──伊藤さんが最初に作られたメロディとアレンジは、何を発想の起点として作られたのでしょうか?
伊藤 今回の曲は、ゲストボーカルのChimaさんとの出会いが大きかったですね。私は初対面だったんですが、ミトさんが彼女を発掘してくださったんです。
ミト いきなり金脈を掘り当てた感じですよ。
伊藤 いきなりダイヤが見つかりましたねえ。
松井 「さあ掘るか」と思って、ツルハシを振り下ろした一発目で見つかりましたね。
ミト 「ゲストボーカルをどうするか」という結論を出さなきゃいけない2日前くらいに、全然違うところで偶然Chimaちゃんに会ったんですよ。私も会うのはそのときが初めてでした。
──Chimaさんは北海道を中心に活動されているシンガーソングライターですし、アニメ業界ともあまり関わりのない方ですよね。
ミト 厳密に言うと、Galileo Galileiのコーラスを務めていて「青い栞」(TVアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』OPテーマ)にも参加しているんですけどね。でもそのときには、彼女のことは知らなかったです。ギター一本で歌っていたのを偶然見て、その場で「今ボーカルを探しているので、もしかするとすぐに連絡するかも」と伝えました。それで音源を真澄さんと松井くんに送ったら、「これでしょ」って。
伊藤 そうです、ぴったりだったんです! そのときまで私は、女性ボーカリストを探すのにてんてこまいで困っていたんですよ。それで「ミトさんどうしよう~」って泣きついたら、力強く「任しとけ!」って……言わなかったか(笑)。
ミト 言ってないですね、普通に飲みに行ってたら偶然見つけただけです(笑)。でももう、聴いた瞬間に「これだわ」と思いましたね。
松井 Chimaさんと僕らで初顔合わせをする前日に、たまたま東京で彼女のライブがあったんですよね。僕とミトさんは行けなかったんですけど、真澄さんは都合が付きまして。
伊藤 はい。そこで彼女の生の声を聴いて、曲がひらめいたんです。
ミト そうだ、それで思い出した。一番最初に真澄さんが書いた曲にリテイクが入ったんですよ。Chimaちゃんが決まる前だったからか結構イメージが漠然としていて、まだフォーカスが合わない印象がお互いの中にあったんです。で、一回作り直そうかというタイミングでChimaちゃんにボーカルが決まって、ライブを見に行った真澄さんが一気に「FLIP FLAP FLIP FLAP」の原型を書き上げてくれたんですよ。
松井 Chimaさんのライブが終わった後、すぐに作詞資料が僕に送られてきましたからね。
伊藤 本当に興奮しちゃって。帰り道も「早く帰って曲を作らなきゃ!」とソワソワしていました。
──先程のお話の中で「TO-MAS専属の女性ボーカリストを招きたい」と仰っていましたが、今後恒久的にChimaさんにボーカルをお願いしていくビジョンがあるのでしょうか?
伊藤 はい! お願いしたい……ですよねえ?
ミト せっかく出会ったのに、1曲だけじゃ寂しいですよね。
松井 「こういうことをやっていこうぜ」と作ったユニットではないので、そういう出会いやアイデアを何でも受け入れようという姿勢があるんですよ。来るものに対して否定する要素がないんですよね、そもそも結成自体が「来たもの」だから(笑)。
ミト 「結成自体が来たもの」って、すっごい面白い(笑)。
松井 「俺たちはこうじゃなきゃいけない」という枠がないので、世界がどんどん広がっちゃうんですよ。だから真澄さんの中でも、どんどん成長していってるみたいなんです。真澄さんから最初にメロディをいただいて、僕が歌詞を書いて返すと、その歌詞を見てまたメロディが変わるんですよ。
伊藤 歌詞を見たら「メロディももっと良くなる!」と思ってね。
ミト それで真澄さんから「ウルトラCが決まりました」っていうメールが来るんですよ。「何を言ってるんだ?この人は」と思うじゃないですか(笑)。
松井 でも変更したメロディを聴いてみたら、確かにウルトラCが決まってるんですよ!
伊藤 いやーあれは、松井さんの歌詞がまず柔道一本勝ちって感じでしたね。
松井 でもサビの「FLIP FLAP FLIP FLAP」という言葉は、真澄さんが入れた仮歌の時点で既に入っていましたね。この感覚は残そうと思ってそのまま活かしました。
普段は結構ロジックで書く方なんですが、今回は印象派になろうと。光の受けた印象をそのまま書こうかなと思いました。
──その部分を起点として、歌詞全体を書かれた訳ですね。
松井 そこを活かしつつ作品の世界観を汲んで……とはいえ『フリップフラッパーズ』をご覧になった方はわかると思いますが、何せ最初はハテナが飛びまくるじゃないですか。
──確かに1~2話を見た段階では「すごいことが起きているけど、何がなんだかわからない!」というような印象でした。
松井 なので普段は結構ロジックで書く方なんですが、今回は印象派になろうと。光の受けた印象をそのまま書こうかなと思いました。それは作品の出している光というか、テレビなので光ってる訳じゃないですか。その光っている感覚を、そのまま想像して書いたものがあの形ですね。意味合いがある・ないという部分は捉え方次第だと思います。
──作品を全部見たあとで読み解くとつながりがあるにしても、表面の印象はかなり抽象的ですよね。童話的で、言葉は美しいのにどこか恐ろしいような歌詞でした。
松井 そのイメージは作品もそうだったり、真澄さんから出てきたメロディもそうだったり、最後に皆で作ったアレンジもそうだったりするんです。着地点として見えているビジョンは、恐らく3人とも同じだったはずなんですよ。それを象徴していたのが、あのEDの絵だと思います。あれもう完全に、僕らのイメージを踏み台にしてすごいことになったなという(笑)。
ミト あのEDの絵と音楽には、ついぞ出会ったことのない感覚を覚えますよね。
──可愛らしいのに不安になるというか、脳をこねくり回されている感じといいますか。
伊藤 脳をこねくり回される……良い表現ですね、全くその通りだと思います。
松井 その世界観に、Chimaさんはすごくフィットしましたしね。
伊藤 ねえ。あの綺麗な声で、変なメロディを歌ってもらって。
ミト でも歌入れは飄々と歌ってましたよね。「よく歌えるなあ」と思いましたよ。普通に考えたらちょっと長引くかなと思ってたんですけど、本当にサクサクと進みました。フォーカスを合わせるのが上手い方でしたね。
伊藤 私はミトさんのディレクションの妙だと思います。
松井 あのときのミトさんはすごかったですよね。
確かにTO-MASのレコーディングでは、「人がつながって音楽を作っている」ということをすごく感じますね。
──レコーディングの際に、ミトさんはChimaさんに何をお伝えになられたんですか?
ミト ……何か言いましたっけ?(笑)。
伊藤 ええ!? 「こういう風に言えば伝わるんだな」って勉強させてもらいましたよ。
ミト すみません、記憶にございません(笑)。あれ、何言ったっけなあ……?
松井 ディレクションなので「具体的にどんなことを言った」という感じではないんですけど、ひとつ置くたびに形が定まっていくんですよね。
ミト でも多分それは、彼女が元々ポテンシャルの高い人だからなんだと思いますよ。器が広いから、何を入れても受け止めてくれるんです。こちら側に理由があるとすれば、我々3人は何せスタジオでの仕事を長年やっているので、歌いやすい空気を作るのが普通の人より上手いのかもしれないですね。しかもそれが3倍いるもんですから(笑)。だから歌っている人も、おそらく居心地が良いはずなんです。
──作曲家が3人いることで、ボーカルやプレーヤーを委縮させてしまったら元も子もないですからね。
ミト そうそう。だから我々が彼女のポテンシャルをこじ開けちゃってるんだと思います。そこで自由に泳ぎ回ってもらう感じが、真澄さんがChimaちゃんを見て作った曲にぴったりハマっていったんですね。だから、超絶プロい作業だったと思います。「私たちを見習いなさい」と言いたくなるような歌のディレクションでしたよ(笑)。
──外部の方を委縮させずに最大のポテンシャルを引き出すということも、それぞれにキャリアを重ねてきたTO-MASならではの能力なんですね。
伊藤 ねえ。やっぱり経験値かしら?(笑)。
ミト 真澄さんなんて特に、劇伴を作る上で何十人、下手すりゃ何百人という人間を従えてひとつのコンテンツを作り上げる訳ですよ。大きな数の人間を扱う仕事でもあり、すごく密閉された環境でもあるじゃないですか。そこでクリエイティブを引き出さなきゃならないというのは、中々普通の人には難しいと思います。
伊藤 いえいえ、まだまだですよ。
ミト いやいやいや、私なんてずっと3人でやってましたから。うち(クラムボン)は家内制手工業なんで(笑)。
松井 確かにTO-MASのレコーディングでは、「人がつながって音楽を作っている」ということをすごく感じますね。シンセサイザーじゃないですけど、「線をひとつつなぎ換えるだけでこんなに音が変わるんだ」と思うようなことが沢山あります。
伊藤 ああ良い表現。わかりやすい。
松井 TECHNOBOYSなんで、シンセサイザー感を出しておこうかと(笑)。
ミト そうなんだよね。そういうエレメンツも瞬時に出るしね。
松井 「これが違うならこれを」というのが、瞬時の判断で出てくるんですよね。だから皆、ゴールがわかっていてレコーディングに入っている訳じゃないと思うんですよ。何ができるかというのは、開けてみるまで僕ら自身が一番わからなかったりします。
ミト そういうリレーションというか、スタジオでの作業を楽しめるスキルを持っているから、こうやって面白いことができるのかもしれませんね。
でもそういう過程を経て、それぞれが現場でやってきたことが全然違うんだなってことがわかるんですよ。
──その場のアイデアで、作り手側も予測しなかったような曲になっていくことがあるんですね。
松井 わかりやすい例として、真澄さんが書いた曲でトイ楽器がいっぱい入った曲があったんですよ。それを聴いたミトさんが、突然「これ、インドっぽいボーカルが聴こえてきますよね」って言い出して。で、その瞬間に僕がネットで「じゃあインドの素材買いますね」って(笑)。
ミト インドのボーカルのサンプルライブラリを松井くんがネットで探して、「あ、今セール中です!」ってね(笑)。
松井 「30%OFFセールなので買います!」って買って、すぐに素材を貼りつけてみたらこれが馬鹿ハマりして。
ミト エレクトリック・ヴァイオリンが入ることで、明らかにアジアな感じになってたんですよね。それで「これインドのボーカルとか入れたら最高だよ」「今から呼ぶ?」って言ったら「呼ばなくても買えますよ」って松井くんに返されて(笑)。
──インドのボーカルは、最近はネットで買えるんですね(笑)。
ミト 「呼ばなくても買える」っていう言葉がまず面白いですよね(笑)。松井くんはそういうライブラリというか、カードの切り方が我々には想像だにできない人なんですよね。
──それぞれが思いついた音に対して、別の人間がそれを実現するためのカードを持っているというのは強みですね。
ミト 「2MIXをください」と言われて、それを渡したらすぐにエディットして声を合わせてくれて、2時間後の夕飯食べるときにはもうできてたんですよ。
松井 ちなみにその時に食べた夕飯が、インドカレー(笑)。
一同 (笑)。
──見事なエピソードですね(笑)。
ミト ……あれ、でもその日に食べたのはカツじゃなかった?
松井 あっ、そうか。次の日がインドだ。
ミト うん、でも脚色しとこう。その日にインドカレーを食べたことにしましょう(笑)。
松井 でもそういう過程を経て、それぞれが現場でやってきたことが全然違うんだなってことがわかるんですよ。
(Vol.2に続く)
インタビュー Vol.2では、Vol.1に引き続き劇伴の制作秘話や、パピカ(cv.M・A・O)&ココナ(cv.高橋未奈美)によるカップリング曲「OVER THE RAINBOW」のレコーディングなどについても触れています。
TVアニメ『フリップフラッパーズ』ED主題歌「FLIP FLAP FLIP FLAP」 TO-MAS インタビュー Vol.2はこちら
TO-MAS SOUNDSIGHT FLUORESCENT FOREST
『シゴフミ』『IS<インフィニット・ストラトス>』『境界の彼方』など数多くの劇伴を担当し、上野洋子とのユニット“Oranges & Lemons”(TVアニメ『あずまんが大王』のオープニングテーマとなった「空耳ケーキ」を手がける)のメンバーとしても知られるシンガーソングライター、伊藤真澄。映画『心が叫びたがってるんだ。』の劇伴やTVアニメ『終物語』のオープニングテーマ作曲など、アニメ作品へ数々の楽曲提供を行なっているクラムボンのミト。『ウィッチクラフトワークス』『
この3人からなる劇伴ユニットが“TO-MAS”。正式名称は“TO-MAS SOUNDSIGHT FLUORESCENT FOREST (トーマス サウンドサイト フローレセント フォレスト)”。2015年9月に結成され、TVアニメ『ももくり』『彼女と彼女の猫 -Everything Flows-』の劇伴、『ラブライブ!The School Idol Movie』Blu-ray特典曲「これから」などを手がけている。2016年10月より放送されているTVアニメ『フリップフラッパーズ』の劇伴を担当。またヴォーカリスト・Chimaをフィーチャーリングしたエンディングテーマ「FLIP FLAP FLIP FLAP」も手がけている。