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社員と同居、評価・給料も全開示することで成長への思いに対応できるか

NIKKEI STYLE 11/10(木) 7:47配信

 東京五輪・パラリンピック後の「post2020」の時代になっても、「やり切る力」を備えた人材はグローバルに通用する。そんな確信から経営人材提供会社YCPグループ(本部・香港)の最高経営責任者(CEO)である石田裕樹氏(34)は同志を募っている。自身がCEOとして高い目標を掲げ、達成するのはもちろん、プロ経営者を目指す社員一人ひとりにも「オーナーシップ(経営者としての意識)」を求める。自らの経験と問題意識を仲間と共有するため編み出す工夫も、半端なものではない。そんな石田氏の姿勢が、就職氷河期世代に共通する「成長したい」との思いに響き、会社の成長を支えている。(聞き手は編集委員 渋谷高弘)
 ――御社は助っ人経営者やコンサルタントなどの人材を育てています。顧客が中小企業で、それを再建する場合、ゼロから起業する以上に大変かもしれません。そういうことを任せる人には、何を求めますか。
 「オーナーシップですね。その会社の売り上げであったり、利益であったり、一個一個の備品の使い方、交通費の精算、働いている人たちの気持ち。それらを自分の体や血液のように、あるいは自分の家族のように思えるかどうか、ということです。関わる会社のことを、何事も『自分ごと化』して感じることができるか、あるいは感じようとしているか。そういうことが、オーナーシップだと思います」
 「会社員や専門職として優秀だったとしても、そういうオーナーシップをもって仕事をしている人は多くはないでしょう。ですから当社で人を採るときには、オーナーシップを持っているか、持てそうな人かを見極めています。最初から、そういうことができる人もいますし、苦手だったとしても、当社に入ってから一生懸命努力をして、身につけていく人もいます。そのためには、私が口うるさく言わなければなりませんが(笑)」
 ――社員にオーナーシップを持たせるため、どんな工夫をしているのですか。
 「いろいろとあります。まず会社設立した2011年から試みたのが、入社したメンバーの多くと私が同居することでした。当時の『ヤマトキャピタルパートナーズ』の事務所は東京都港区の私の自宅マンションでした。入社したメンバーで独身者は原則として、私の自宅兼事務所に住んでもらったということです。メンバーが共同生活する仕組みなので、中国の歴史小説『水滸伝』に出てくる『梁山泊(りょうざんぱく)』(精鋭が集い一緒に生活しながら鍛え合う場所)にちなみ、梁山泊制度と呼んでいました。同居するメンバーが増えて部屋が手狭になれば、それに合わせて皆で広い部屋に転居しました」
 ――狙いは何だったのですか。
 「互いの経験や思いを徹底的に共有するためです。社員は全員、日中は経営人材として顧客企業に常駐していますので、皆が顔を合わせるとすれば朝や深夜しかありません。だから一緒に暮らして寝食を共にし、私が毎日、仕事を通じて感じたことや教訓、仕事のやり方などを徹底的に伝えました。彼らにオーナーシップの感覚をもってほしかったのです。私は前職で中小企業に出向するなどして経営人材に必要なマインドを体験していました。でも他のメンバーは私より若く、優秀な人材ではあっても経営現場での経験はありませんでした。読書量なども私に言わせれば物足りなかったので、早く一人前の経営人材に育ってもらう必要がありました。平日は朝から晩まで仕事について語り合い、休日も彼らが長めに寝ていればたたき起こして、『寝てる暇があったら、この本読め』と指示するといった具合に、厳しく鍛えました。古いメンバーは今も『あの頃が一番つらかった』と言っています(笑)」
 ――まさに石田さんの掲げる「徹底力」を地で行くお話ですね。現在、メンバーは東京オフィスだけでも40人ですから、もう梁山泊制度は難しいですね。
 「はい。現在ではメンバーが増え、専用のオフィスを借りていますから、私が彼らと一緒に暮らしてオーナーシップを切磋琢磨(せっさたくま)するとは難しくなりました。そこで導入したのが日報制度です。全員が1日の仕事を終えた深夜、その日にあったことや業務連絡、反省や教訓、誰かから聞いた良い話などを互いに電子メールで報告するのです。『お客様にこういうことで怒られました』とか『お客様にこんな資料を出しましたが、本当はこういう資料を出すべきだった』とか、いわば毎日の学びを皆で共有する仕組みで、『一日一学』と呼んでいました。梁山泊制度で毎晩毎朝、リアルに情報共有していたのを、メールでの日報交換に変えたのです」
 「しばらくしてメールでの情報共有は、何が起こっているかを皆に伝える毎日の『日報』と、学びがあったことを皆で共有する『一日一学』に分けました。『一日一学』の方は私や幹部など有志が、月1回のペースで送っています。最近では、私がメンバーに『経営の両輪は戦略と徹底力』と題した一日一学を送りました。『戦略を立案し、資金・ヒトを調達し、施策を徹底し、決められた予算を必ず達成する。すると経営者は信用され、また新たな資金が付く。この正の循環を生むのが徹底力だ』と伝えました。徹底力を引き上げるポイントとして『(1)毎日、毎時間の売り上げを把握し、日々、行動を改善する(2)勇気をもって、やることを絞り、絞った内容を徹底する(3)その日に発生した仕事は、必ずその日にやりきる。経営者に求められるのは、組織としての徹底であって、個人としての徹底ではない』といった内容を送りました。メンバーが増え、私自身も香港に移住したので、こうした仕組みで定期的にメッセージを送る意義は大きい」
 ――石田さんは、メンバーを厳しく指導し、結果も求めています。でもメンバーは明るく、はつらつとしているようです。なぜでしょうか。
 「すべてを透明にしているからでしょう。当社の人事考課は、全員が点数を付け合って決まる360度評価で、それによって報酬・給料も決まります。評価結果と報酬・給料の金額も、私の分も含めてメンバー全員に全面開示しています。評価は売り上げなどの数字的な実績と、数字以外の面での会社への貢献を指数化していて、各人の『良いところ』『改善すべき点』については全員から率直な指摘がされます。CEOの私にも厳しい意見が寄せられますよ。経費精算も私から新入社員に至るまで同じ仕組みで、精算結果も全面開示です。日報や一日一学などと合わせた当社の仕組みでは、メンバー全員が毎日、何を考えて、何を学び、その結果としてどんな成果を上げ、いくら経費を使い、他のメンバーからどんな評価をされているのかが、すべて分かるようになっています」
 ――なぜ、そこまでやるのですか。一般的にコンサル会社などは、成果主義に基づいて社員の報酬に大きく差が付くので、結果を開示することは避けると思いますが。
 「当社のメンバーは、一人ひとりがプロを目指す経営人材で、どれだけ優秀な人を集められるかが勝負です。私よりも優秀な人をどんどん集めなければ当社の発展はありません。だから私が『矢』になって先頭で何でも決めるのではなく、私はたくさんの優秀な『矢』をまとめる『帯』のような存在にならなければと思っています。皆がばらばらな方向に行かないように同じ方向に目を向けさせ、一人ひとりの思いを実現させてあげるのも私の役目です。そのためには透明な社内制度が必要です。私が皆の知らないところでこっそり何かを決めるとか、違う経費精算の仕方をしているとかは、許されないのです。判断とその過程をすべて共有し、全員がプロの経営人材となる自覚をもってもらいたいのです」
 「私のように『就職氷河期世代』でくすぶっていた連中には、仕事を通じて『自分自身が成長したい』という思いを強く持っています。もちろん当社や取引先の成長も重要ですが、優秀な人材をひき付けるには『YCPに入れば、自分自身がむちゃくちゃ成長できる』と思ってもらうことが大切です。日報や一日一学、他のメンバーの評価を共有することで、全員の『成長したい』という思いとノウハウを一人ひとりが自身のさらなる成長に生かすことができます。だから他の人が何を考えているかを共有することが、一番大事だと思っています」
 ――石田さんの「post2020」の世界観を教えてください。
 「2020年の東京五輪・パラリンピックで世界から日本に注目が集まることは素晴らしいですが、日本に閉じこもることはできない時代になると思います。情報技術(IT)や人工知能(AI)の発達で、日本語と英語の翻訳や通訳が飛躍的に発達し、これまで日本企業を守ってきた『日本語の壁』は取り払われるでしょう。海外から日本への参入障壁は小さくなり国内の競争は激しくなる一方、海外に打って出る日本企業のチャンスは増えると思います。我々YCPグループも2013年に『アジア企業』になる決断をしました。多くの日本企業、それも中小企業や飲食店などがアジアや世界に活路を求めざるを得ない時代となります。その時に顧客企業から頼りにされ、必要な情報を提供し、愚直に実行できる『プロ経営者集団』へとYCPグループを育てていきたいと思っています」
 いしだ・ゆうき 1982年新潟市生まれ。98年、自動車エンジニアを目指して高校2年生の時に米国ニューヨークに留学し、そのままコーネル大学機械航空工学部に入学。現地自動車レース参加車両を設計し、全米選手権で優勝を勝ち取る。同大卒業後、2004年、東京大学大学院工学系研究科入学。06年、同大学院修了後にゴールドマン・サックス証券入社。戦略投資部に所属し、投資先企業の経営再建に取り組んだ。11年、ヤマトキャピタルパートナーズ(東京・港)を設立、代表取締役に就任。13年、香港にグループ統括会社YCPホールディングスを設立、グループCEOに就任し、現在に至る。
 石田氏のインタビューは今回で終了。YCPインタビュー4回目の次回はYCPジャパン代表パートナーの松ケ野裕司氏に話を伺います。post2020~次世代の挑戦者たちは原則水曜日に掲載します。
「就職氷河期世代 30歳すぎで目指したのは海外だった」石田裕樹氏に聞く(1)
「カーレースも中小企業の現場も『やりきる力』が必要」石田裕樹氏に聞く(2)

最終更新:11/10(木) 7:47

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