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第34話のあらすじ
ヤンがイゼルローンにいないことを確信したミュラーは、
彼を捕まえれば同盟が瓦解すると思った。
そこで3000隻の艦隊を動かして、
単独で作戦行動を起こそうとした。
ミュラーはこの策が有効だと思っていたのだが、
ケンプは敵の総大将が本拠地にいないのはおかしいと言った。
ミュラーは釈然としないものの、参謀長のフーセネガーの説得もあって、
ケンプの指示に従うのだった。
そんななか。
ケンプからの戦況報告書を見たラインハルトは、
ミッターマイヤーとロイエンタールにイゼルローン回廊への出撃を命じる。
ラインハルトはイゼルローンの制圧ではなく、
軍事要塞としての無力化を考えていたのだ。
オーベルシュタインはケンプが、
正々堂々と戦うことに意義を見出していると語った。
しかし、そのために軍事的な限界もあった。
ケンプを司令官に推挙した将官は反省していたが、
最終的な人事決定をしたのはラインハルトなのだ。
また科学技術統監のシャフトが余計な提案をしたと思ったが、
無益だけならまだしも、有害な策ではどうにもならないと感じた。
オーベルシュタインはラインハルトに、
武力だけで宇宙を手に入れるのは困難だと告げる。
さらに汚れてても「駒」はたくさんあったほうがいいと言った。
わずか5000の兵力でイゼルローンへと急ぐヤンは、
要塞同士をぶつけてしまえば、あっけなくカタがつくとフレデリカに語る。
フレデリカはそれに驚くが、
ヤンは「帝国軍の指揮官は発想の転換ができないらしい」と言った。
フェザーンでは補佐官のケッセルリンクが、
同盟の高等弁務官のロムスキーに問い詰められていた。
ヤンの不在という絶妙のタイミングで帝国の攻撃を受けたのは、
査問を示唆したフェザーンに罪があるというのだ。
ケッセルリンクはまったく意に介さず、
先行投資の重要性を語って論破するのだった。
ヤンの艦隊はついに帝国軍に発見されるのだが、
彼はその好機を待っていた。
そして同盟軍の怒涛の大逆転劇は起こった-。
第34話の台詞
ミュラー「昨年、いまは亡きジークフリード・キルヒアイスが、
捕虜交換のためイゼルローンに赴きましたが、
帰ってから私にもらしたことがあります。
ヤン・ウェンリーなる人物をはじめて見たが、
勇猛な軍人のようには少しも見えなかった。
そこにこそ、彼の恐ろしさがあるのだと」
ケンプ「それで?」
ミュラー「捕虜が死ぬ間際に申しました。
ヤン・ウェンリーは要塞にはいないとです。
その理由はわかりませんが、当然彼はわが軍の襲来を知り、
急ぎ戻ってくるでしょう。そこを襲って捕らえれば、
同盟軍にとっては致命傷になります」
ケンプ「ヤンはどんな奇策を使うかわからん。
そう言ったのは卿自身ではないか。
イゼルローンは同盟にとって最大の要衝だ。
その司令官がなんで任地を離れるものか。
自分が要塞にいないと思わせ、
兵力を分散させようとの腹に決まっておる。
ただちに兵を元の配置に戻せ。
卿の戦力は予備兵力として極めて重要なのだ」
ミュラー「・・・・・・」
フーセネガー「閣下・・・!」
ミュラー「どうしたものかな、参謀長」
参謀長「お気持ちはわかりますし、
小官も閣下のお考えに賛成ではありますが、
閣下は副司令官であられます。
ご自分の我を通らせるよりも、
総司令官のご方陣に従うべきではないでしょうか?」
ミュラー「卿の言うことは正しい。
副司令官は総司令官の意に従うべきだ。
わかった。先刻の命令は撤回する!」
(中略)
ラインハルト「誤解するな。オーベルシュタイン。
私は宇宙を盗みたいのではない。奪いたいのだ」
(中略)
フレデリカ「これまでは時間が味方してくれたけれど、
これからはそうではなくなるんですね」
ヤン「うん」
フレデリカ「それにしても、持ちこたえてくれて幸いでしたわ。もし閣下が敵の指揮官なら、
とっくにイゼルローンを落としておいででしょう?」
ヤン「そうだね。私だったら要塞に要塞をぶつけるだろうね。ドカーンと一発、相打ち。それでおしまいさ。
その後で別の要塞を運んでくればいい」
フレデリカ「ずいぶんと過激な方法ですわ」
ヤン「でも、有効だろう?
だけど、どうやら帝国軍の指揮官は、
発想の転換ができなかったみたいだ。
もっとも、すでにその策で来られていたら、
どうにも対策はなかったんだが、
これからその手で来るということであれば、
ひとつだけ対応策があるんだけどね」
(中略)
ケッセルリンク「不当な勧告でしたな」ロムスキー「なんですと?!」
ケッセルリンク「不当だったと申し上げているんです」
ロムスキー「・・・・・・」
ケッセルリンク「そもそもヤン提督を、
査問にかけるべきなどと口を出す権利は、私どもにはなかった。
内政干渉に当たることですからな。
あなた方のほうこそ拒否するべき正当な理由と権利があったはずです」
ロムスキー「それは・・・」
ケッセルリンク「その権利をあなた方は行使なさらなかった。私どもが勝手に口を差し挟み、
あなた方は自主的にそれを受け入れた。
それでもなお、全責任は私たちフェザーンにあると、
弁務官殿は主張なさるのですか?」
ロムスキー「しかし、あの時もし拒否していたら、
私ども自由惑星同盟は、
あなた方フェザーンの厚意を得ることは今後できなくなる。
あの時のあなたの態度から、
私どもがそう考えたとしても、無理のないことでしょう?」
ケッセルリンク「まあ・・・済んだことを言っても始まりませんな。
問題はこれからです。今後一体どうなさるおつもりですかな?弁務官殿」
ロムスキー「今後とは?」
ケッセルリンク「おやおや、考えていらっしゃらない。
困りましたな。私どもフェザーンは真剣に悩んでいるのですよ。
現在のトリューニヒト政権と、
将来あるべきヤン政権とどちらと友誼を結ぶべきであろうかとね」
ロムスキー「将来あるべきヤン政権ですと?
馬鹿な・・・いや、失礼。しかし、
そんなことがあるはずがない。絶対にありません!」
ケッセルリンク「ほう・・・自信満々で断定なさる。では伺いますが3年前、
あなた方はラインハルト・フォン・ローエングラムなる若者が、
近い将来に銀河帝国の支配者になるであろうことを、
予測なされましたか?」
ロムスキー「それは・・・」
ケッセルリンク「歴史の可能性の豊かなこと、運命の気まぐれなこと、かくの如しです。
弁務官殿もよくお考えになったほうがよろしいでしょうな。
先行投資の重要さというものを。
人間には現在はむろん大切ですが、
どうせなら過去の結果としての現在より、
未来の原因としての現在をより大切になさるべきでしょうな」
(中略)
ミュラー「・・・全治にどれぐらいかかるか」
軍医「閣下は不死身でいらっしゃいますな」
ミュラー「・・・いい台詞だ。私の墓にはそう書いてもらおう。
で、全治にはどれぐらいだ・・・」
軍医「肋骨が数本折れております。三ヶ月は・・・」
ミュラー「そうか・・・」
軍医「すぐに医務室のほうへ」
ミュラー「駄目だ!ここで治療してもらおう・・・」
軍医「はっ・・・!」
(中略)
ミュラー「ケンプ司令官はどうなさった・・・?」
フーセネガー「亡くなられました」
ミュラー「・・・亡くなった?!」
フーセネガー「ケンプ司令官より伝言です。
最期にこう言っておいででした。ミュラーに詫びておいてくれと・・・」
ミュラー「・・・大神オーディンも照覧あれ!
ケンプ提督の復讐は必ずする。
ヤン・ウェンリーの首をこの手で掴んでやるぞ・・・!
いまは駄目だ。俺には力がない。その差がありすぎる。
だが見てろ!何年か先を・・・!!」
(中略)
ミュラー「わが軍は敗れたが、司令部は健在である。
司令部は卿ら将兵全員を生きて故郷に返すことを約束する。
誇りと扶持を守り、毅然として帰途に就こうではないか」
妙香の感想
私は自由惑星同盟のファンなんですが、
この話の結末を観て帝国軍がすごく可哀想だと思いました。
敵に攻め込まれた以上は撃退しなければならないのが道理ですが、
ヤンは「帝国との共存」を考えていたんですよね。
しかし彼はケンプと会見することはなく、
ガイエスブルグの戦力9割を殲滅してしまいました。
事態が事態だったので、会見に及ぶ時間がなかったのかも知れませんが、
ケンプの最期や帝国軍の名もなき兵士たちの惨状を見て、
なんともやり切れない気持ちになりましたよ。
「もし」というのはタブーですが、
ケンプがミュラーの提案を採用して、ヤンを捕まえていたなら、
このような悲劇的結末は避けられたはずです。
ただ、民主主義を信奉するヤンと、
専制政治という枠組みで銀河統一を狙うラインハルトでは、
2人の個性も強烈ですから、水と油なんでしょうね。
昨日はちょうどアメリカの大統領選挙がありましたが、
トランプさんもヒラリーさんも「殺し合い」じゃなくて良かったです。
選挙後はノーサイドでお互いにエールも贈っていましたし。
あれが選挙ではなく本当の戦いだったら、
ヒラリーさん陣営の方々は、この帝国軍のようになっていたでしょう。
現代政治にもたくさんの矛盾がありますが、
「選挙」という平和的なシステムは、本当にありがたいと思いました。
なお、今回の物語を観て、
私はナイトハルト・ミュラーにすごく惹かれました。
彼がラストシーンで言った台詞には、
不覚にも号泣してしまいました。
【いまは駄目だ。俺には力がない。その差がありすぎる。
だが見てろ!何年か先を・・・!!
(中略)
わが軍は敗れたが、司令部は健在である。
司令部は卿ら将兵全員を生きて故郷に返すことを約束する。
誇りと扶持を守り、毅然として帰途に就こうではないか】
ナイトハルト・ミュラーはのちに「鉄壁」と呼ばれる名将になるんですが、
この戦いでの大きな挫折を糧としたに違いありません。
彼については別稿でも詳しく語りたいと思います。
次回は「決意と野心と」です。
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