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今日の社説

2016/11/10 01:03

トランプ氏勝利 日米関係に激震、不透明に

 ドナルド・トランプ氏の勝利は、短期的には米国の外交・経済にマイナスの影響をもたらすだろう。日本もトランプ・ショックの激震に揺れ、日米同盟はいや応なしに大きな転機を迎えるかもしれない。トランプ大統領のリスクとは「何をするか分からない」という不透明さにある。

 相次ぐ暴言にもかかわらず、トランプ氏がここまで多くの支持を集めたのは、多くの米国人が既成の政治や権威に失望し、多少乱暴でも現状を変えるパワーに期待したからだろう。現状に不満を持つ有権者は、そのはけ口をトランプ氏に求め、怒りの矛先をクリントン氏が体現するエスタブリッシュメント(支配階級)に向けた。トランプ氏への支持が保守層のみならず、穏健層や中間層にまで幅広く浸透した事実は、米国の政治、社会状況が極めて深刻であることの裏返しである。

 日本にとってトランプ大統領のリスクは主に三つある。一つ目は日米同盟が揺らぎ、東アジアが不安定化する懸念である。トランプ氏は選挙中、日米安保条約の不平等さを非難し、日本に防衛力整備を促すなど、同盟関係の見直しにも言及した。大統領就任後、どのような外交方針を示すのかが判然としておらず、先が見通せない。安保政策に対するトランプ氏の姿勢が変わらないとすれば、世界規模で不安が広がる可能性がある。

 二つ目は金融市場が混乱し、急激な円高が進む問題である。日経平均株価はトランプ氏優勢が伝わると一時1000円以上も値を下げ、為替相場は一気に1ドル=101円台まで円高が進んだ。不透明感がもたらす混乱が長引けば、世界経済の大きなリスク要因になる。

 三つ目は保護貿易の台頭である。自由貿易が後退し、グローバル化の流れが止まりかねない。トランプ氏は環太平洋連携協定(TPP)からの撤退を明言しており、日本は今後、TPP以上の輸入関税撤廃を迫られる可能性がある。TPPが空中分解すれば日本の国益を大きく損なうだろう。

 トランプ氏は米国をどこへ導こうとしているのか。それが判明するまで、日本の政治、経済状況も動揺が続きそうだ。

北陸経済に暗雲 円高の悪影響が気掛かり

 米大統領選の結果は北陸にとっても人ごとではない。とりわけ注意を要するのは経済に及ぶ影響である。トランプ氏の優勢が伝えられると、金融市場では急速に円高と株安が進んだ。このまま円高が定着すると、企業の業績に大きな下押しの力を加える。北陸の経済に広がる暗雲が気掛かりな展開になった。

 円高が地域経済に及ぼす影響は小さくない。日銀金沢支店が発表した9月の北陸短観(企業短期経済観測調査)で企業の業況判断が悪化した背景には円高がある。製造業では今年度の経常利益が前年度より13・8%も減る見通しになっていた。製造業の輸出売上高は6月の北陸短観で前年度比プラスの予想になっていたが、9月の短観ではマイナス予想に転じた。

 北陸に多くの発注先を持つコマツは2016年9月中間期に減収減益となり、為替要因の減収は主力部門で862億円に上った。北陸に工場を設けた電子部品メーカーでも円高が業績に響いている。

 9月の短観では、北陸の企業が想定する為替レートが1ドル=108円台になっていた。市場には今後、100円を突破するとの観測も出ている。企業の想定を超えて円高が進むと、業績悪化が深刻になり、賃上げや設備投資が進まなくなる恐れもある。デフレ脱却はさらに遠のくだろう。

 政府と日銀は緊急会合で円急騰の対応を協議した。為替相場の動きを注視し、投機的な動きが続けば「必要な措置を取る」との姿勢を示したが、米政府は日本の為替介入をけん制している。選挙戦で「日本は自国通貨を安値に誘導している」と批判したトランプ氏が円安を容認するとは思えず、円高基調の転換は見通せない。

 環太平洋連携協定(TPP)が発効しない事態になれば、日本経済は貿易拡大を推進力にした成長も期待しにくくなる。

 過激な発言を繰り返すトランプ氏の政策は予測しがたい。極端な経済政策に対する警戒感は企業の姿勢を慎重にする。北陸の経済にも不透明感が広がるだろう。海外経済のリスクは一段と大きくなったとみなければならない。