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【コラム】

筆洗

 <愛と憎悪の戦い>。今回の米大統領選をそう位置付けていたのは他ならぬ民主党のヒラリー・クリントン候補である。もちろん自分こそ協調的な「愛」の代表であると訴え、移民やイスラム教徒への差別的な態度を隠さぬ共和党のドナルド・トランプ候補を「憎悪」の代表と指さしていた▼ある程度、その見方は当たっているのだろう。そして、結果は「憎悪」が「愛」に勝利したのである。米国はトランプさんを次の大統領に選んだ▼政治経験なし。女性蔑視。怪しげな政策。出馬そのものが冗談と言われた人物が世界一の大国を率いる。大番狂わせに困惑している人もいるだろう▼事前の世論調査ではクリントンさんが上回っていた。おそらく、調査に「ウソ」をついた人が大勢いる。差別的なトランプさんを支持するとは口にしにくい一方で心のどこかで、異端の候補があおる移民やイスラム教徒への「憎悪」や強さにひかれて、最終的に票を入れた。現状への不満や怒りは目には見えぬところで米国全体、特に白人層に深く静かに浸透していた▼選ばれたのは愛という理想の「花」ではなく、憎悪の「銃」か。その選択に余裕も柔軟性も失った米国を見る。そう選ばざるを得なかった米国民の深刻な表情を見る▼「花はどこへ行った」。米国の古いフォークソングが木枯らしにまじって遠くに遠くに聞こえるようである。

 

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