トランプ大統領の衝撃……それは株よりも債券市場でキョーレツに感じられています。
今日、米国の10年債利回りは、8か月ぶりに2.0%を突き抜けました。
その一方で株式市場は? と見ると、株は下がっていません。
これが何を意味するかというと、連邦準備制度理事会(FRB)が何年もかかって実現しようとしてきた、いわゆる「ハイプレッシャー・エコノミー」、、、そのシナリオが一夜にして実現する方向へ転がり出したことを意味するのです。
「ハイプレッシャー・エコノミー」という言葉を、皆さんは耳にしたことが無いかも知れません。
それもそのはず、これはイエレン議長が勝手にでっち上げたコンセプトだからです。要するにインフレ気味になっている経済に放任主義でわざと何もしないことで、経済成長にターボ・チャージャーをかけてやる……そういう手法を指します。
我々、投資の世界の人間たるもの、「ハイプレッシャー・エコノミー」というような新しい「理論」を誰かが振り回し始めたら、兜の緒を締めてかからなければいけません。
トランプ大統領で経済は加速する……それを市場参加者は織り込みに行っているわけです。
これは歓迎すべきことです。
でもイエレン議長の手綱さばきは、一夜にして絶望的なほど後手に回ってしまったのです。
まあ、いいんですけどね。
それというのも、トランプは「イエレンの仕事ぶりはサイアクだ。俺が大統領になったら、あんなやつ絶対再任しない!」とけちょんけちょんに貶していましたから。
FRB議長は大統領が指名し、上院が承認するという手続きを踏みます。するとトランプが首を縦に振らないFRB人事は、周囲がどう言おうが、ぜったいに通らないのです。
イエレン議長の任期は2018年2月で切れます。だからその場合は、誰か新しい人をトランプが見つけてくることになるのでしょう。
でも、その間、イエレン議長は「レームダック」化するわけだから、そんなもん、早く取り替えてしまった方がいいという議論が高まるかも知れません。
第二次世界大戦後のFRB議長人事で、お払い箱になった議長は、ひとり居ます。それはビル・ミラーです。
ビル・ミラーはインフレに対して毅然たる態度を取らなかったので、もたもたしている間にぐんぐんインフレが猛威を振るい始め、任期半ばにして「あいつはクビだ」とポール・ボルカーによってリプレースされてしまいました。
僕は、むかし彼女が就任した当初は(この議長も、なかなか良いかも)と思いました。しかし最近は何だか首をかしげることばかりです。はっきり言って、手ぬるい采配で、本来、中央銀行が具備していなければいけない、きびきびとした手綱さばきが、完全に朽ち果てています。
連邦公開市場委員会(FOMC)は、老人会でお茶をすすりながら世間話に花を咲かせるような、ぬるい場所と化している……
いまからちょうど1年前、2015年12月のFOMCでは「2016年の利上げ回数は4回」ということが経済予想サマリー(SEP)の中でほのめかされていました。
その利上げ回数が3回になり、2回になり、そして1回に。
そういう風に政策金利への期待が軟着陸しているときは、金融市場は、ぐちゃぐちゃにはなりにくいです。
でも現在の期待は「2017年の利上げ回数は、せいぜい1回半」というものであり、このところの平均時給の伸び(年率+2.8%)は、現在の政策金利の水準から、大幅にかけ離れた水準にあり、さらにここから加速する勢いを見せているのです!
「賃金インフレは、いちど加速しはじめる」とクセになると言われます。だから原油価格のような物価の動きには寛容なFRBも、賃金インフレには断固とした態度で臨むのが常なのです。
いまのFRBには、その危機感はこれっぽっちもありません。
市場関係者の利上げに対するエクスペクテーション(期待)が下がり切った状態、言い換えれば「2017年の利上げ回数は1回半だ」という状態から、それが2回、3回と逆に利上げの必要性がラチェット・アップされる局面……その局面を上手く演出するのは、「下り坂」よりも遥かに難しいです。