トランプ大統領誕生の失意をヒラリー支持者はどう受け止めるか

2016年11月9日、アメリカ大統領線が終結。差別や偏見と戦おうとするヒラリー支持者には受け入れがたい結果になりました。トランプ大統領誕生を、どのように受け止めたのでしょうか。
この連載をまるっと収録し、書き下ろしを加えた、電子書籍『やじうま観戦記』も好評発売中。アメリカ在住の作家・渡辺由佳里さんによる、アメリカ大統領選のやじうまレポートをお楽しみください。

トランプ大統領誕生対するヒラリー支持者たちの反応

私が住んでいるのは、アメリカで最もリベラルだと言われるマサチューセッツ州のボストン近郊なのでヒラリー支持者が多い。ニューハンプシャーでの地上戦に誘ってくれたのも、学校から偏見や差別をなくすために教師と親が協働する「反偏見委員会」で一緒に仕事をしたレイチェルという女性だった。


「ウォール街を占拠せよ」の思想的リーダーと言われる民主党のマサチューセッツ選出連邦上院議員のエリザベス・ウォーレンと

有名な選挙予測のサイトや機関のほとんどが80%以上の高い確率でヒラリー勝利を予測していたのだが、8時に開票が始まったフロリダの状況を見たとき、私も知人たちも悪い予感を覚え始めた。

郡のレベルで、人口動態と世論調査の結果から綿密に計算された予測と大きく異るのだ。これまで世論調査や統計を継続的に見てきた人たちは、9時半の時点でトランプが勝つ確率のほうが高くなったことを感じたはずだ。それからトランプ当確の結果が出るまでの4時間は、出口がないトンネルのように感じた。

だが、それからすぐに就寝するわけにもいかない。結果が出てすぐに「トランプを勝利させた「白人対マイノリティ」の人種ファクター」という記事を書き、それから寝ようと思ったのだが、睡眠不足にもかかわらず眠れない。そこで、おとぎ話を元にした児童書ファンタジーの洋書をオーディオブックで聴きながら眠ることにした。余計なことを考えずに気持ちを明るくしようと思ったのだ。

寝落ちできたのはいいのだが、2時間後に「近づく人をうまい言葉で騙す魔術を持つ継母」が出てきて目が覚めた。オーディオブックを止めてもう一度寝ようとしたところ、娘から電話がかかってきた。どうも泣いているような声だ。

彼女もニューハンプシャー州でヒラリーのためにドアを叩く地上戦に参加していたので、心情的にヒラリーに入れ込んでいたのだ。「女性やマイノリティやLGBTQへの差別に対して、私たちはこれからどう闘っていけばいいのか?」と言う。

それから1時間ほど涙ながらに話したのだが、後で歌手のマイリー・サイラスのビデオを見てまた涙目になってしまった。


@MileyCyrus|7:44 - 2016年11月9日|Twitter

「私はバーニーやヒラリーを強く支持してきた。ヒラリーは、女性初の大統領になる資格があると信じている。彼女にその機会を持ってほしかった。だって、彼女はこんなに長い間闘ってきたのだから。彼女はこの国を愛しているし、国のために尽くすことだけやってきた。この国を良くするために身を捧げてきた。彼女がやってきたのはそれだけ」マイノリティや障がい者への差別やいじめ発言をしてきたトランプに対しても、(すべての人を受け入れるという)信念に従い、「私はあなたも受け入れる。大統領としてのあなたも。なぜなら、希望を持ちたいから」と涙ながらに語った。

まるで、今朝の娘との会話の再現だ。

レディーガガは、このようにつぶやいた。


@ladygaga|2:42 - 2016年11月9日|Twitter

「私は、愛が憎しみに勝つ、親切な国に住みたい」
(❤️🇺🇸 I want to live in a #CountryOfKindness where #LoveTrumpsHate)

その後で、ヒラリーの敗北宣言を聴いたが、特に若者への次の呼びかけが心に響いた。

「この敗北は辛いものです。でも、どうか、正しいことのために戦う意義を信じ続けてください」

これを聴いたあと、私はこうツイートした。

「私はトランプを人間としてまったく尊敬できない。けれども、彼が大統領になったかぎりは、良い大統領になってほしい。ここ(ニューズウィークコラム)に書いているように。彼がアメリカや世界をめちゃくちゃにして、彼に投票した人に『ざまを見ろ』とは言いたくはない」

すると、同じころ、私の娘もフェイスブックの投稿をこんなことを書いていた。


ずっと私が考え巡らせていたのは、「じゃあ、これから何をすればいいのか?」。政治について論議を交わし、電話をし、地上戦で戸をたたき、投票したのに、結果はこうなってしまった。

フェイスブックでの素晴らしい投稿を読み、家族や友だちと心情を語り合い、少し気分はましになったけれど、それでも胸の重みを消すことができない。じゃあ、何をすればいいのか?そこで思いついたのが次の2点だ。

まずは、アートを作ろう。
多くの人は、私やあなたのような人のことを知らない。たとえば、移民、女性、肌の色が異なる人種、LGBTQ、障がい者、そのほか何であれ侮蔑やいじめの材料にされたことがある人。それがどんな気持ちなのか、あなたにしかわからない。でも、伝えることはできる。ストーリーは共感に変わる。そして、共感は、私たちが持つ最も強い武器なのだ。

次に、あきらめないこと。
ヒラリーは今日のスピーチでこう言った。

「このスピーチを聴いているすべての女の子たちに伝えたい。あなたには価値があるし、力もある。この世界で自分の夢を追い、達成するすべてのチャンスを得て当然なのです」

彼女からこの言葉を聴いて良かった。なぜなら、すべてがすごく不公平だと思っていたから。思っているだけでなく、実際に不公平だ。でも、他人からそう扱われるからといって自分を無能だと感じてはいけない。

だから、アートを作ろう。そして、自分の言葉を伝えよう。そして、共感を広めていこう。

そして、決してあきらめてはいけない。



私も同感だ。

ヒラリーのスピーチだけでなく、娘の投稿を読んでよかった。

諦めず、また明日から自分にできることをしていこう。

大統領選がわかる、楽しめる! この連載が書下ろしを加え、電子書籍になりました!

この連載について

初回を読む
アメリカ大統領選、やじうま観戦記!

渡辺由佳里

みなさん、2016年は4年に一度の祭典、オリンピック!ではなく、いいや「アメリカ合衆国大統領選挙」の年です。世界情勢にもつよい影響をおよぼす、オバマ大統領につづく大統領は誰なのか? アメリカ在住の作家・渡辺由佳里さんが、このビッグイベ...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

trigger3105 この連載ずっと読んでたけど、面白く為になった。日本人もこのくらいの情熱を持とうよ。 11分前 replyretweetfavorite

keikogoldstein 私も同じような体験をした。したり顔で 約1時間前 replyretweetfavorite

blues0113 ボクシングで一回ダウンしただけ。まだ始まったばかりだ。 選挙に負けたからといって支持者の価値が変化するもんじゃない… 約1時間前 replyretweetfavorite

ibaibabaibai これを見ると,フロリダが開いた時点(調査ではほぼ完全にタイ,実際にも僅差で 約1時間前 replyretweetfavorite