「ヒップホップと日本民謡は近しい文化」馬喰町バンド×稲葉まり
馬喰町バンド『あみこねあほい』- インタビュー・テキスト
- 金子厚武
- 撮影:moco.(kilioffice) 編集:矢島由佳子
「ゼロから始める民俗音楽」をコンセプトに、オリジナルの楽器を作り、今を生きる日本人としての民俗音楽を奏でる3人組・馬喰町バンド。新作『あみこねあほい』では全面的にラップが取り入れられていて、「なぜ馬喰町バンドが黒人音楽であるヒップホップを?」と不思議に思う人もいるはず。しかし、以下のインタビューを読んでもらえればわかる通り、これは彼らなりの研究成果で、あくまで日本の民俗音楽と地続きの発想であり、生活の中から自然と生まれたスタイルなのである。
『あみねこあほい』の1曲目を飾る“ホメオパシー”のミュージックビデオを手掛けたのは、馬喰町バンドの武徹太郎とは多摩美術大学の同窓生であるアニメーション作家の稲葉まり。緻密な切り絵のコマ撮りを用い、メンバー三人を異世界へと誘っている。そんなビデオ制作の裏話から、「手を動かすことの意味」というもの作りの根幹にまで迫った二人の対談は、武のイラストが並べられ、さながらギャラリーのような雰囲気の中で行われた。
民謡を調べていくとどんどんヒップホップに近づいていった。(武)
―まずは稲葉さんから見た馬喰町バンドの魅力を話していただけますか?
稲葉:私は小さい頃から欧米のカルチャーの影響を受けて生きていたんですね。ただ、大学4年生のときに「生意気」というクリエイティブユニットでアシスタントとして働き始めて、メンバーであるニュージーランド人のデイヴィッド(・デュバル=スミス)さん、イギリス人のマイケル(・フランク)さんと触れ合う中で、「あれ? 私はなにを目指していたのだろう?」と思ったんです。自分がずっと住んでいるこの国のことを掴みきれていない気がして。彼らは海外の視点で、これまで私が気に留めたこともないような日本の風景や日常から面白いと思うものを見つけて、ユーモア溢れるもの作りをしていたんです。
―欧米の方と接することで、逆に自分の国に興味が湧いたと。
稲葉:そこから日本独自の面白い文化に興味を持ち始めて、「もっといろんなことが知りたい」と思っていたときに、馬喰町バンドの楽曲と出会ったんです。初めて聴いたときから、「すごい!」と思って。特に、前作の『遊びましょう』に入っていた“源助さん”は衝撃でした。
馬喰町バンド 前作収録曲 稲葉が過去に手掛けたミュージックビデオ
―馬喰町バンドには「ゼロから始める民俗音楽」というコンセプトがありますが、まさに稲葉さんがゼロから日本を見つめ直したタイミングに、ドンピシャだったわけですね。
稲葉:そうなんです。世の中に「~っぽい」というものが溢れている中で、伝統文化には何世代も層になって積み上げられてきたからこそ生まれたものの力強さがあると思うんですよね。しかも馬喰町バンドは、それをただなぞるだけではなくて、ちゃんと掘り起こして作っている。
武さんは学生の頃からエネルギッシュな存在で、当時からタダものではない雰囲気があったんですけど(笑)、その人が層になってるものとコンタクトしたときに生まれたものがこれなんだと思うと、すごく面白いですよね。
左から:武徹太郎、稲葉まり。飾ってある絵画はすべて武によるもの
武:まりちゃんは大学卒業後、すぐにクリエイティブの第一線で活躍していたけど、一時期ものすごく西洋美術一辺倒のものさしに違和感を感じていたときがあったよね?(笑)
稲葉:よく覚えてるね(笑)。イタリア旅行に行って、美大受験のためにデッサンした石膏像の本物の彫刻をいっぱい見たときに、「なんでこんなに遠い場所にある本物からかたどった石膏像を、受験のためにデッサンしていたんだろう?」と思って。私が通っていたのは「美術大学」ではなくて、「西洋美術大学」だったんだ! って思っちゃったんです(笑)。最初は特に意識せず西洋に惹かれていたけど、日本を見つめ直すことで、いろいろなものの見方ができるようになった気がします。
―新作『あみこねあほい』は、前作の作風から一転、ラップをフィーチャーした楽曲が多く収録されていて驚きました。
稲葉:私は馬喰町バンドを聴いたとき、他のロックバンドとかが西洋のカルチャーの音楽をやってるのに対して、「こういうのが聴きたかった!」って思ったんです。だから、「新作はラップなんだよね」と言われて、最初は「どうして?」って戸惑いました。
―日本の民俗音楽とラップって、すぐには結び付かないですよね。
武:僕らの中ではすごく結びついているんです。民謡って、突き詰めると即興の音楽なんですよ。大正時代には演歌師という人がいて、当時流行ってた民謡の替え歌で政治的な思想を歌っていたんですけど、言ってみれば、それってヒップホップの人たちが有名な曲からサンプリングして、その上でラップするのと一緒じゃないですか?
他にも江戸には「都々逸(どどいつ)」という歌遊びがあって、それは三味線とかの伴奏に乗って、七五調でそのときの想いを歌って、しゃれたことを言うと盛り上がるみたいな、そういう世界だったんです。
―まさにヒップホップのフリースタイルみたいなものですね。
武:そうなんです。ヒップホップ自体は昔から大好きだったんですけど、アフロアメリカンの人たちが作り上げた黒人の音楽を俺がやるのもなって思っていたんですね。
でも、民謡を調べていくとどんどんヒップホップに近づいていって。「クドキ」という同じフレーズのループで7~8分続ける民謡もあるんですけど、それもほとんど即興なんです。俺たち、いつもツアーに行くと打ち上げで回し歌いをしていたんですけど、ベロベロになると息が続かなくなって、ラップになるということにも気づいたんですよね。
―面白いですねえ。
武:最初はあくまで宴会芸みたいなものだと思っていたんですけど、民俗音楽が持っている微分音やポリリズムの要素が、海外だけではなくて、最近は日本のトラックメイカーの作るトラックにもすごく入っているんですよ。
たとえば、OMSBのトラックなんかを聴くと、西洋的な平均律ではない音がガンガン入っているし、メトロノーム的ではなくて、アジア的な揺らぎで聴かせるビートの感じも入っている。民俗音楽の芯を射抜いてるんですよ。ラップは打ち上げの場とかで自然とやっていたわけだし、だったら、こういう音楽をやった方が自分たちは自由に呼吸できて、息苦しくならないのではないかなって。
リリース情報
- 馬喰町バンド
『あみこねあほい』(CD) -
2016年11月9日(水)発売
価格:2,484円(税込)
HOWANIMALMOVE / DDCZ-21311. ホメオパシー
2. 在処
3. 色の話
4. ネタにはしない
5. ここまでおいで
6. 未来
7. 愛なのかいな
8. あの日の君は
イベント情報
- 『「あみこねあほい」リリース記念ライブ』
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2016年11月27日(日)
会場:東京都 馬喰町 アートイート
ゲスト:三井闌山(尺八奏者)
プロフィール
- 馬喰町バンド(ばくろちょうばんど)
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「ゼロから始める民俗音楽」をコンセプトに結成された三人組。メンバーは、武徹太郎(六線・ギター・唄)、織田洋介(ベース・唄)、ハブヒロシ(遊鼓・唄)。懐かしいようでいて何処にも無かった音楽を、バンド形式で唄って演奏する。日本各地の古い唄のフィールドワークや独自の「うたあそび」を元に奇跡的なバランス感覚で生みだされる彼らの音楽は、わらべうた・民謡・踊り念仏・アフロビート・世界各地のフォークロアが、まるで大昔からそうであったかのように自然に共存する。
- 稲葉まり(いなば まり)
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2002年多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。クリエイティブユニット生意気に勤務し、印刷物(CDジャケット、ポスター、装丁など)、ミュージックビデオ、ライブ映像制作、企画展に関わる。2006年より独立。切り絵を用いたイラストレーション、グラフィックデザイン、コマ撮りアニメーション制作、ディレクションを行っている。2010年新作アニメーション作品を含むDVDシリーズ『VISIONARY』発売。