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トランプ氏、真の姿は柔軟なビジネスマン

トランプの米国:思想界の気鋭、萱野稔人氏が斬る大統領選

2016年11月10日(木)

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トランプ氏が大統領選で勝ちました。

萱野稔人(かやの・としひと)
津田塾大学教授。哲学者。1970年生まれ。早稲田大学卒業後、渡仏。2003年、パリ第10大学にて哲学の博士課程を修了。2007年から津田塾大学准教授、2013年から現職。衆議院選挙制度に関する調査会委員などを歴任(写真:朝日新聞社)

萱野稔人氏(以下、萱野):個人的には、この結果にあまり驚いていません。起こり得るだろうと思っていたことが実際に起こった、という感覚です。

いつ頃からトランプ氏は優勢だったのでしょう。

萱野:テレビ討論の頃には決着が付いていたのではないかと思っています。大統領選の直前、FBIはクリントン候補に対して、メール問題の再捜査に踏み切りました。それ自体は今回の選挙結果に、大きな影響を与えなかったはずです。

 日本国内では、トランプ氏を支持するのは貧困層の白人男性だと報じられていました。けれど実際に属性別の世論調査を見ると、もともと白人女性などは、クリントン氏よりもトランプ氏の方を支持していた。

 高所得者ほど共和党候補のトランプ氏を支持し、低所得者が民主党候補のクリントン氏を支持していた。伝統的な共和党支持者がそのまま共和党候補であるトランプ氏を支持し、そこに、日本で報じられたような低所得の白人男性が加わって、トランプ氏の票が伸びたと見ています。

トランプ氏は柔軟なリアリスト

トランプ氏は米国大統領にふさわしいのでしょうか。

萱野:トランプ氏は、好意的に言うならば、共和党の中では比較的リベラルな考え方の人物だと思っています。

 例えば2012年、カナダのミス・ユニバースの選考に、性転換者が出場したことがありました。彼女は最終予選まで残ったけれど、性転換手術を受けていたことが発覚し、失格になりました。性転換者を失格にしたことで、ミス・ユニバース機構は、世界中から非難を浴びました。けれど、ミス・ユニバース機構の共同代表だったトランプ氏は、そうした世論を受けて、すぐに彼女の失格を取り消し、性転換者の出場を認めた。つまり共和党の中で、トランプ氏は性転換者などを含めたLGBT層に理解があるリベラルな存在です。

 また選挙戦の途中まで、トランプ氏は日本の核武装を容認するような発言をしていましたが、これも途中から言わなくなりました。報道を見ていると、日本の政府関係者がトランプ氏に接触し始めてから、こうした発言がなくなったようです。

 さらにトランプ氏は副大統領候補にインディアナ州知事のペンス氏を選びました。ペンス氏はキリスト教保守派の右派であり、リベラルなトランプ氏とは本来、宗教的には相容れない。それでもトランプ氏は、共和党の支持を取り付けるために、あえて思想の異なるペンス氏を副大統領候補とした。

 これらの事実を見ても、トランプ氏が極めて柔軟な人物だということが分かります。経済界で成功した人が持つある種の環境適応能力を、トランプ氏も持っているということなのでしょう。移民問題にしても、アメリカ国民が移民に対して問題意識を持っていると感じたからこそ、トランプ氏はそこを突いた。人々が何を求めているのか敏感に察知して、移民問題を取り上げたり、同盟国に安全保障費を負担させろと訴えたりしてきたわけです。目的のために合理的な判断を下すのがトランプ氏の姿だと、私は思います。

過激な発言の真意

 実際、トランプと直接面識がある人は、彼を「とても紳士的な人物」と言っています。人の話をしっかりと聞く、とも。人の話をじっくりと聞いて、相手の求めるものを理解した上で、さらに高等な交渉をする。トランプ氏は賢いビジネスパーソンなんです。

 そう考えると、実は選挙期間中の過激な発言の「真の目的」も理解できるはずです。無名の一事業家が大統領になるためにはどうするべきか。ホワイトハウスまで駆け上がるには、目立つエキセントリックな発言を繰り返して注目を浴びる必要があった。問題発言で知名度を高め、国民の共感を集めることが、大統領になるための合理的な戦略だと考えたのではないでしょうか。だとすると、それもトランプ氏の環境適応能力の高さを示しています。

 そして、目的としていた大統領に就くことになった。今後は彼が掲げる目標も変わるでしょうから、トランプ氏の発言や行動にも変化が出るはずです。つまりトランプ氏のこれまでの問題発言を真に受けて、そんなに大騒ぎをする必要がないと、私は考えています。日本は今後、トランプ氏に対して、話せば十分、分かる相手だと思って交渉を進めるべきでしょう。トランプ氏は、目的にふさわしいという点で合意さえできれば、いくらでも柔軟に政策を変えるでしょうから。

 今回の大統領選では、多くのメディアがトランプ氏の過激な発言にばかり目を奪われ、「トランプなんか大統領になるべきではない」と考えました。そして、その意識がいつの間にか、「トランプなんか大統領になれるはずがない」という先入観とすり替わり、社会を見る目や、トランプ氏を見る目を曇らせてしまった。現実を直視せず、見たいものしか見ていなかったし、見たいようにしか見ていなかった。

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「トランプ氏、真の姿は柔軟なビジネスマン」の著者

日野 なおみ

日野 なおみ(ひの・なおみ)

日経ビジネス記者

月刊誌「日経トレンディ」を経て、2011年から「日経ビジネス」記者。航空・鉄道業界や小売業界などを担当する一方、書籍編集なども手がける。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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