集英社宣伝部は、ライトノベルの新レーベルの立ち上げにあたってViibarを活用した動画マーケティングに挑戦。今までにない新しい切り口による動画を制作し、Twitterや店頭などで配信することで、ファンや作家、書店から熱烈な反応を得ることに成功し、作品の認知を高めた。この成功を基に、今後他のコンテンツの宣伝においても動画活用を広げようとしている。

プロフィール

  • 濱岡諭史氏1988年生まれ。2008年株式会社集英社に入社。宣伝部書籍宣伝課に配属され文芸単行本やライトノベルレーベル創刊の宣伝施策に従事。2016年6月より雑誌宣伝課所属。週刊少年ジャンプの宣伝を担当している。

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「文句の付けようがないラブコメ」の動画広告に対する評価

—-具体的に動画を活用された場所と、動画を使用したプロモーションの期間について教えて下さい。

動画を使用したのは、「文句の付けようがないラブコメ」のランディングページに置いたのと、Twitter広告、あとは、都心の書店を中心に500〜600くらいだと思うのですが店頭で流す動画DVDを配布しました。期間については特に定めてなく、今でも動画を流してくれている書店さんがあると聞いています。新刊が出るたびに動画を流してくださるところもあるそうです。

動画制作が終わって、しばらくしてからViibarさんに動画をシリーズ用の広告に再編集していただいたのですが、あれをいただいてから、最新刊である5巻目が発売されたときにも流してくれている書店さんも多いので、毎回DVDに焼いて新刊と一緒に書店に再配布しています。

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出典:http://www.tonarinoyj.jp/manga/lovecome/

 

—-Twitter広告を実施した理由と、その効果ついて教えていただけますか?

本当はTwitter広告を実施する予定はなかったのですが、少し余力で出来る枠があったので、それを活用させていただきました。Twitterのキャンペーン広告期間中は、ユーザーの裾野が広がっていく効果を感じましたね。あれだけ高クオリティな動画なので、ファン層にひっかかって、そうした意味で、ユーザーのロイヤリティが上がったことも良かったと思います。
公開から2週間ほどのTwitterプロモツイートでのエンゲージメント率が15.09%と高い数字がでました。

ラノベの場合、どのコンテンツもそうなのですが、口コミで情報が広がり、ジワジワ売れていくという傾向があります。「文句の付けようがないラブコメ」も、そうしたジワジワ売れていく広がりを見せて、何度も重版が入っていますね。

—-動画に対するユーザーの反応はいかがでしたか?

興奮していましたね。Twitterで拾った感想なのですが、大半が「うわーっ、これすげぇ」とか「なんじゃこりゃ」みたいな感じで言葉にならない感嘆の声をあげていましたね(笑)良い時のユーザーの反応は、いつもそんな感じなので、やはり、他の業種とは、少し違うマーケットだと思います(笑)。

出版社の場合、作品のクリエイターとなる作家さんや漫画家さんは、基本的に外部の人間です。専属契約をさせてもらっているクリエイターさんもいますが、集英社の社員ではありません。どこまでマーケティング施策を集英社側でハンドリングできるのかっていうと、クリエイターの気分や、編集者との信頼関係などに依存している部分が大きい。

Viibarさんもクリエイターは外部の方だと思いますので、Viibar社員の方は当社でいう編集者のような立場で業務に携わられていると思います。その場合、出来上がってきたラフや絵コンテ、試作などに対して、そうじゃなくて、こうしてくださいみたいな指示や説明をするのは、非常に難しい側面がありますよね。

論理的な説明で説得できないこともありますし、果たしてその説得自体が正しいのかどうかも、正直わかりません。面白いものは何をしても面白いですし、理論で説明できない世界があるからこそ面白くて魅力的であると感じるときもあります。

しかし、そうした様々な問題を越えていけるレベルの高いクリエイターさんが集まってくると、矢継ぎ早のアイデアの応酬に、凡人の我々は入っていけないと感じることもあります。

良くも悪くも、既存の出版業界のマーケティングのやり方や、伝統的なワークフローのしがらみによる限界は個人的には感じています。ですが、常に新しいものを作っていくという気概のあるクリエイターたちとお仕事をさせてもらうことで、そうした動きづらい部分を打開していきたいですね。

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—-今回の動画について、作家さんの反応はどうだったのでしょうか?

すごく喜んでいましたね。私たち出版社の人間にとって、作家や漫画家といったクリエイターに喜んでもらうことも、大切な仕事の一つなのです。「ここの会社は、こんな面白いことをやってくれる」「他社ではやってくれないことをやってくれるからこの出版社で書こう」という信頼関係を築く方向に持って行きたい。

このようにクリエイターの皆さんに喜んでもらうことが、最終的にコンテンツに戻ってくるという良い循環があるので、それは意識していますね。特に、新人作家の方々は、今回のように動画制作し、声優さんを呼んでスタジオに入れたりすると、すごく喜んでくださいます。自分の作品に対して「こんなことやってもらえるのだ」といった風に思ってもらえたら、宣伝部としても本望ですね。
コミックは、雑誌がファーマーのような場になって、そこからクリエイターを育てていくというプラットフォームがあるのですが、小説の場合は新人賞以外にファーマーとなるプラットフォームがないので、外部から才能のあるクリエイターを発掘して、弊社で書いてくださいとお願いするケースが多いのです。

こうした表現が合っているかわからないのですが、言ってみれば出版社はキュレーターのような存在になっていると思います。競合他社さんも同様に、いろいろな作家にオファーをするわけですから、そこから、どこの出版社を選んでもらうかという判断材料に、こうした動画制作が役立つ可能性は非常に高いと思います。動画は、ウェブ等で目にすることも多いですし、クオリティの高さも伝わりやすいので、作家や漫画家にとっても、価値の高いものになっていると思いますね。

「文句の付けようがないラブコメ」の鈴木先生は、キャリア的にはかなりベテランの作家ですが、今回の動画を非常に喜んでくださいました。

新しい切り口の動画を制作していくことで、出版業界の宣伝手法に新たな方向性を見出す

—-動画については、達成目標などはあったのでしょうか?

出版業界独特の事情もあり、集英社の宣伝部では部署として数値目標を承認してもらう必要がありません。もちろん、担当者は自分で数値目標を決めるのですが、一つ一つの施策は3年くらいの長期的な宣伝期間の中にある一つアプローチでしかないので、単体成果をギリギリと計測するという発想はないんです。なので、動画制作についても、深く考えすぎず、数多くある施策の中の一つという意味で着手しました。

私が決めた数値目標は達成したのですが、そこから更に分析して改善につなげるといったことは今のところしていません。一般のマーケティング理論が、当てはまらないことが多いという部分が、出版業界の販促や宣伝を考える上で難しいところの一つだと思います。

—-現在ご担当の少年ジャンプで動画制作をするとしたら、どういった方がターゲットなのですか?

少年ジャンプは、基本的に少年誌になりますので、動画制作についても小・中・高校生といった子供たちをターゲットに考えています。ただ、読者のなかには20代の若者が占める割合も実際には増えてきています。

デザインのトーン&マナーに関しても、10代を意識しつつも、作品の内容によっては、もう少し上の年齢層を想定した体裁を採用するケースもあります。なので、動画についても若干20代向けの内容を意識しています。

いずれにせよ、10代~20代あたりがメインターゲットになりますので、ちょうどウェブ動画を視聴している世代と重なります。HD画質ネイティブと言われるくらい、今の子供たちは画質に厳しいという話も、最近はよく耳にします。ニコニコ動画よりも、YouTubeの動画配信が人気があるという理由も、画質の良さが関係しているのではないかといった見方もあるくらいです。

—-動画制作の切り口で何か意識されていることはありますか?

近年のマーケティングでは当然のことかと思うのですが、ネイティブ広告のように、ザ・広告というものではないが実は広告という、コンテンツライクなものについて非常に意識しています。

動画を使ったウェブ広告の場合、数秒でスキップすることも可能なので、ユーザーの注目を集めるような「え、そういうことやっちゃうの?」とか「ちょっと笑っちゃうんですけどww」といった感じの切り口が必要になります。予定調和で終わらないというか、ちょっと予想できない(他社がやっていない)切り口を、今このタイミングで、やったほうが良いのだろうなと思っています。

—-今後、宣伝部として動画活用について、方向性などはありますでしょうか。

あくまで現場の意見なのですが、出版業界でも動画を使った宣伝は非常に増えていると感じます。ただ、やっている内容は、既存の素材を流用し、作品に対するイメージをそのままPVにして流すといった手法が多く、少し新鮮味がなくなってきている印象です。

予算があればウェブは比較的簡単に制作できてしまうので、参入障壁は低いわけですが、一方で動画制作を導入しやすい分、ユーザーに刺さりやすい動画や、それを使った施策について、しっかり考えるのは難しい。

他社と差別化できるような動画作りという観点では、今回Viibarさんと一緒に制作させてもらった動画は、ラノベ業界でこんなに高クオリティの動画を作るのかという切り口でしたけど、少年ジャンプをはじめとしたコミック誌やコミックスに関する動画作りは、また別の面白い切り口が必要になると思います。漫画だとしても、動画も漫画である必要はなくて、実写でその作品の良さを伝えることやブランディングは可能だと思います。

例えば、ジャンプ+で連載されている「とんかつDJアゲ太郎」という人気作品があるのですが、この作品は、とんかつ屋の息子がDJを目指すという奇想天外なストーリーです。作品の中で、とんかつに添えるキャベツの千切りのリズムとこのステップは、BPMは同じなのではないかというシーンがあったりする(笑)。
それが本当にできるのかというのを、とんかつ屋さんに取材協力をしてもらって、実際のクラブシーンととんかつを作る音をミックスする、そのような検証動画も実例としてあります。

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出典:http://plus.shonenjump.com/rensai_detail.html?item_cd=SHSA_JP02PLUS00005411_57

個々のコンテンツに対して、それぞれの切り口を持って、面白いことをやるというのが重要だと思います。ジャンプに関しては、王道の媒体なので、そういう面白いことやれるチャンスは、いくらでもあります。

現場レベルでは、もっと遊び心のある施策を試してみたいと思っています。動画を一つのコンテンツとして捉えて、新たな切り口で、面白い動画や話題になる動画を作れたらいいなと思っていますね。

※本事例は、2016年7月に実施したインタビューに基づいて作成しました。
※本事例は掲載時点のものです。

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