インターネットに見る
海外スレイヤーズ事情
キューピー/DIANA
(2000年11月9日更新)

アメリカ韓国メキシコおよび中南米フランススペインドイツ
 1999年7月に発売された「スレイヤーズ」のDVDボックスには特典として、海外で紹介されたスレイヤーズの映像が現地語のセリフとともに収録されたDVDがついていた。それによると、アメリカは元より、スペイン、イタリア、台湾、香港などでもスレイヤーズが知られていることが分かる。
 知られていれば、当然、ファンもいる。ファンが居ればそれなりのアクションがあるのも当たり前で、インターネットで探してみれば、けっこうたくさんのスレイヤーズ関連サイトが見つかる。このレポートでは、そうしたサイトや、海外のスレイヤーズ・ファンとのメール交換を通して知った、「海外におけるスレイヤーズ」について独断と偏見に基づいて述べる。

■アメリカ

1)TVシリーズ

 アメリカでスレイヤーズTVシリーズはビデオで紹介された。TVアニメ通称「無印」と「NEXT」「TRY」はソフトウェア・スカルプター(Software Sculptor)(以下SS社/オフィシャルホームページはこちらが、字幕版と吹き替え版を出している。このレポートを書いている2000年11月7日現在、「無印」「NEXT」は全編、「TRY」は第6巻までリリースされている。ちなみに、アメリカではビデオ1本の収録話数が日本版とは異なるため、全26話は8巻組になっている。アメリカ版のビデオ・パッケージを見てみたい人は、レゾ中心サイト「レゾ神殿」のオーナーでもあるクイーン・メグミさんが、日本のスレイヤーズ・ファン向けに各キャラの音声データとどもにビデオ・ジャケットを、ローマ字と日本語で紹介している「日本のファンへのページ」がお薦めである。(Thank you Queen Megumi for your making this informative page for us, Japanese fans of Slayers. 日本のファン向けに情報のページを作ってくれたクイーン・メグミさんに感謝!)

 このSS社の親会社であるセントラル・パーク・メディア(Central Park Media)(以下CPM社/オフィシャルホームページはこちらは、無印のDVDボックスを9月19日に、NEXTのDVDボックスを11月7日に発売したが、パッケージ・イラストを見る限り日本のような「缶」ではない。中身がDVD4枚というのも、コスト削減なのだろう。しかも、これらの中に英語吹替え版・日本語版・日本語版(英語字幕付き)が入っていると言うから驚きである。特典として声優紹介やグラフィック・ノベル(アニメ・コミックのようなもの?)の冊子がついているそうだ。

 ところで、このSS社版スレイヤーズの無印ではビデオ、DVDとも、最終話の最後約1分が欠けている。これは最初に吹き替え版を作った際、ミスによって欠けたものであり、検閲などによるものではないそうだ。そのため、SS社は2001年初頭にリリースするTRYのDVDボックスに、欠けた部分の字幕版を収録することにした。なお、吹き替え版は声優の都合がつかないため、製作されないそうである。

 声優の話が出たところで、アメリカでの声優事情に触れよう。アメリカでは「声優」という職業は確立していないそうだ。アメリカ人はアメリカ映画を好むため、英語以外の言語の映画で良い物はかならずアメリカ版が作られるお国柄ゆえか、「言葉だけ」の俳優は一段低く見られるらしい。日本のアニメの吹替え版に登場する声優は、TV俳優か舞台俳優が副業でやっているし、中には自分が声優をやっていることを隠すために、ステージ名とは違う名前で吹替えに参加している者もいるという。ちなみに、アメリカ版スレイヤーズでゼルガディスの声を担当したクリスピン・フリーマンは、今年6月、約3週間シェークスピアの「真夏の夜の夢」の舞台でデミトリアス役を演じていることからも、現役の舞台俳優であることが分かる。

    アメリカ版スレイヤーズ声優リスト
    リナ=インバース……リサ・オーティス
    ゼルガディス……ダン・クロニン(無印途中まで)/クリスピン・フリーマン(無印途中から・NEXT・TRY)
    アメリア……ジョディ・ベイカー(無印11話〜14話)/ヴェロニカ・テイラー(無印15話〜26話・NEXT・TRY)
    ゼロス……デイビッド・ウー
    マルチナ……レイチェル・リリス
 ちょうどこのレポート(第3版)を書いている最中に、「フォックス・キッズ・ネットワーク(以下FKN/オフィシャルホームページはこちらがスレイヤーズの放映を計画しているらしい」との情報が入って来た。FKNは日曜日から金曜日までは毎日午後の2時間、土曜日だけ午前中4時間放送をしている子供向けのチャンネルで、「天空のエスカフローネ」や「ドラゴンボールZ」などを放映してきた。2000年11月の番組表を見ると、現在は「デジモン・アドベンチャー」を放映している。アメリカのTV事情を知らない人には分かりにくいかもしれないが、アメリカでは子供向け番組に関する基準は厳しく、たいていの日本のロボット・アニメは「暴力的である」とみなされて放映には至らないし、極端に短いスカートを着たキャラばかり登場するアニメも不適切とされる。評判の日本アニメのほとんどを、アメリカのファンはビデオの形で手に入れる以外無いのだ。そのような中で、スレイヤーズが放映されるということは、厳しい基準をクリアしていることを意味しているが、それでもなお、アメリカのファンは、このニュースを歓迎できないでいる。スレイヤーズに関する話題が飛び交う「スレイヤーズ・メーリングリスト(英語版)」やスレイヤーズに関しては随一の情報量を誇るサイト「スレイヤーズ・ユニバース」に寄せられたファンの声によると、FKN版のエスカフローネは、BGMが変えられ、血の流れるシーンはカットされるなどの改変が施されたそうだ。スレイヤーズにも同じことが起きる可能性がある。また、FKNに限らず、アメリカの子供向けアニメに共通する傾向に「チームリーダーは男の子であるべきだ」という概念が見られる。このため、FKN版スレイヤーズではBGMやセリフの録り直しの挙句、リナではなくガウリイやゼルガディス、ゼロスがイニシアチブを取るように作り変えられるのでは、との危惧がファンの間に広がっている。

2)OVAシリーズ・劇場公開映画
 TVシリーズと異なり、OVAシリーズ「スレイヤーズすぺしゃる」と劇場公開映画「スレイヤーズ・パーフェクト」は、ADVフィルム社(以下ADV社/オフィシャルホームページはこちらが配給している。日本では3本のビデオでリリースされた「すぺしゃる」だが、ADV社はなぜだか、「恐怖のリメラ計画」「ジェフリー君の騎士道」を1本にし、「鏡よ鏡」とアメリカ版のメイキングを一緒にした1本の2本だてでリリースしている。しかも、第1巻のタイトルを「Slayers : Dragon Slave」、第2巻のタイトルは「Slayers : Explosion Array」としているのだ。ちなみに「Explosion Array」とは「炸裂陣(ディルブランド)」の漢字を逐語訳した言葉。ADV社は著作権絡みなのか、それともSS社のTVシリーズと差別化しようとしたのか、ほとんどの呪文を漢字の逐語訳で表現している。「烈閃槍(エルメキア・ランス)」はSS社版では「Elmekia Lance」だが、ADV社版では「Flash Lance」であり、「魔族」もSS社版では「Demon」、ADV社版では「Monster」である。

 2000年に入りADV社は、OVAシリーズ「スレイヤーズえくせれんと」と、ほかの劇場公開映画のリリース権を獲得した、と発表されているが具体的なスケジュールはまだ発表されていない。

*非公式ビデオ*

 上に書いたように、2000年9月上旬現在、スレイヤーズの映像のうち、アメリカで公式に配給されているものは「無印」と「NEXT」の全話、「TRY」の約半分、「スレイヤーズすぺしゃる」の3話と劇場公開映画「スレイヤーズ・パーフェクト」のみである。

 しかし、非公式には去年のうちに、「TRY」の全エピソードが既に入手可能になっていた。これは日本で放映されたものを録画した映像、もしくは公式にリリースされたビデオに、勝手に字幕をつけたり英語でアフレコして売る、といういわば海賊版で、現地では「fansub」と呼ばれている。「sub」とは「subtitled」(字幕付き)の省略で、対して吹き替え版は「dubed version」と呼ばれる。インターネット上にはこのような海賊版を供給するサイトが複数存在し、公式版よりも早い時期に、かなり安くビデオを売っている。

 私が聞いた話では、CPM社が「TRY」の権利を獲得する、という情報が事前に流れた段階で、海賊版業者は「TRY」の販売を止めたそうだ。情報が届けば販売を止めるのが、アメリカにおける海賊版の仁義(?)らしい。商売の権利に厳しく、裁判が頻発しているアメリカのこと、アメリカ国内の業者が有する権利への侵害には気を使っているのだろうか?しかし、海賊版を買ったファンが改めてSS社のビデオを買うかどうか、ははなはだ疑問であり、その点でSS社は損害をこうむっている、と言えるだろう。

 海賊版についてはビデオのほかに、ネットでアニメをまるごとダウンロード、という手もあるそうだ。いくらかかるのか、は知らないが、この情報を提供してくれた人は、英語字幕付きの「スレイヤーズぐれえと」「スレイヤーズごうじゃす」をネットで鑑賞した、と言っていた。

3)小説・漫画

 アメリカでスレイヤーズの小説はいっさい翻訳されていない。漫画は日本でもあらいずみ版と義仲翔子版があるが、あらいずみ版だけが翻訳されている。

 このあらいずみ版コミックを出版しているのが、TVシリーズの配給権を持っているCPM社だというのが面白い。あらいずみ版のコミックをお持ちの方はご存知だろうが、それには全部で6話のエピソードが収録されている。CPM社はそれらのエピソードをバラバラにし、1冊1冊のペーパーバック(表紙の絵はこちらにして売っている。1冊3ドル弱(約 300円)だが、6冊全部購入すれば日本版の倍近い値段になってしまう。なお、1999年秋、CPM社は6冊を合冊したものを「Slayers Book One: Medieval Mayhem(スレイヤーズ:中世大騒動)」として、約2ドル割安にして発売した。(Merci beaucoup, Damien. 漫画の表紙のページへリンクを許可してくれたダミアンさんに感謝!Thank you very much, Damien, for your permitting me to have the direct link to your manga page.)

 日本で漫画と言えば右閉じ(セリフを右上から左下に読む)だが、アメリカでは左閉じ(セリフを左上から右下に読む)である。では、英語版「スレイヤーズ」コミックはどうか。これが傑作なことに、日本の漫画を逆版(ページを左右ひっくり返す)にして、アメリカ流にしているのである。つまり、リナはショルダーガードを左右逆に身につけているし、アニメでは左腰に刺しているショート・ソードを右腰に刺している。
 CMP社版「Slayers Book One: Medieval Mayhem」の画像はこちら(Thank you Peggy for your telling me about the images of English Slayers manga. アメリカ版スレイヤーズ・コミックの画像を教えてくれたペギーさんに感謝!)

4)ゲーム、CD

 ゲームもCDも、日本版がそのまんま輸入されている。つまり、ゲームの画面にあらわれるセリフ、コマンドは当然のこと、CDのライナーノーツも歌詞も全部日本語のまま。それでも外国のファンは、涙ぐましいまでの努力をしてそれらを手に入れ、ゲームをプレイしたり、音楽を楽しんだりしている。個人的にゲームの英訳に挑戦している人もいるし、日本語の歌詞を聞き取ってローマ字で掲載しているホームページも見受けられる。

5)インターネットに見る北米スレイヤーズ事情

 インターネットが日本よりも発達しているアメリカでは、好きなアニメのホームページを持つことは当たり前のようになっている。スレイヤーズもサイトの数の多さではベスト10にランク入りするのじゃないか、と思われるほどである。

*スレイヤーズ・リンク

 海外のスレイヤーズのサイトを捜したければ、まず「アニメ・ウェッブ・ターンパイク(以下アニパイク)」のスレイヤーズ・リンクを見るのが手っ取り早い。アニパイクは様々なアニメのサイトのリンク集で、ホームページのオーナーたちが登録して初めて掲載される。並みのアニメだと、まずアニメのタイトルをアルファベット順の目次から捜さなければならないが、人気の高い十数本のアニメは専用のセクションを与えられており、スレイヤーズもその一つである。英語のほか、スペイン語、イタリア語、中国語、韓国語のサイトも見つかる。

*リング

 インターネットでは「リング」というホームページの集団を見かけることがある。これは、同じテーマを持ったサイト同士が、一定のプログラムをサイトに組み込むことで、手を繋いだ輪を形成するというものであり、サイトに表示されているリングのバナーをクリックすることで、リング内のサイトを渡り歩ける、というシステムである。サイト側はこのリングに参加することで、スレイヤーズに興味のある人に見てもらえる、という利点があり、訪問者側は自力で探すよりもずっと楽に好みのサイトにたどり着けるメリットがある。
*メーリング・リスト

 電子メールを利用して、同好の士が思いを語り合う場がメーリング・リスト(以下ML)である。通常の電子メールは、いちいち宛先を入力しなければ複数の人間に送ることはできないが、MLは専用プログラムを利用して、誰かがMLにメールを送ると自動的に登録者全員にそのメールが配信される、というシステムである。リングではサイト同士はただ並んで、それぞれに独自のコンテンツを表示しているだけで、内容的な関連は薄い。これに対し、MLは発言の場であるため、それに反応する形で発言が続くことで、参加者の繋がりが非常に強くなる傾向がある一方で、時には論争が感情的になることもある。だが、質問などには誰かが答えてくれるので、情報を掴むのには有効な手段である。
 アメリカではスレイヤーズ関係のMLとしてピックアップできたのは一つ。サイトなどで公開募集をせず、スレイヤーズに関する情報を集めたリンク集に紹介されているだけ。スレイヤーズのオフィシャルな情報が英語で手に入るサイトがないため、あらゆる情報が飛び交っているらしい。99年10月初めに、SCFがスレイヤーズを放映する、という情報をもたらしたのはこのMLだった。

 The Slayers Mailing List
*参加申し込みは「subslay@rochester.rr.com」に「SUBSCRIBE SLAYERS-LIST」と書いたメールを、表題無しで送るだけ。

 なお、アニパイクには「Lina Inverse Mailing List」というMLも紹介されているが、試しにメールを送ってみたところ「宛所に尋ね当たらず」で返って来てしまった。恐らく消滅していると思われる。

6)宿命的誤解

 アメリカのファンは、TVシリーズやOVAなどは知っていても、原作小説についてはほとんど知らない。また、なまじアニメや小説中で英語っぽい言葉が使われている分、奇妙に解釈されていたり、いくら説明しても理解不可能なケースさえある。こうした情報不足を、アメリカのファンもはがゆく思うのだろう。スレイヤーズに関する、ありとあらゆる情報を集約する目的のサイトが生まれている。その名も「スレイヤーズ・ユニバース(Slayers Universe)」。そこの掲示板ではスレイヤーズに関する質問、ビデオの発売日時やレア・グッズの情報、どのCDのどの曲が好きか、などのアンケートが日夜飛び交っている。掲示板の発言を閲覧していて、見つけた様々な誤解についてレポートする。文化が違うと、同じアニメでも解釈が違ういい例だろう。

★赤の竜神の騎士

 赤の竜神の騎士はルビの通り、「スィーフィード・ナイト」(Ceipied's Knight)として紹介されている。この「ナイト」という言葉が曲者で、欧米人は「Knight」に一定の既成概念を持っている。それは、「修行を積んで騎士の地位を獲得した人間であり、特定の主人、もしくは神に仕える崇高な目的を持っている」といった感じらしい。赤の竜神の騎士もこの既成概念に基づいて解釈されるため、リナの姉は、ある特殊な任を帯びてこの世界に生まれた超人のようなイメージが強い。原作を読んだり、日本語の情報を読めば、「たまたまそうなった」だけで、本人には個人の意志があり、現在のところはウェイトレスのアルバイトが忙しい、という存在と受け取れるのだが、このイメージを欧米のファンに伝えるのは非常に難しい。

 なお、ルナ=インバースが「スィーフィード・ナイト」であるのに対し、魔王シャブラニグドゥの力を利用した竜破斬を使いこなすリナ=インバースを「シャブラニグドゥ・ナイト」とみなす誤解にも出会ったが、これは英語で書かれたパロディ小説「Slayers Trilogy(スレイヤーズ三部作)」の設定がいつのまにか広まったものだった。

★獣神官ゼロス

 読者の皆さんは、「NEXT」で初めてゼロスが登場した回のサブタイトルを覚えているだろうか?「ふざけた神官?その名はゼロス!」だったが、SS社のビデオはこのサブタイトルを「Trickster priest! The name's Xelloss!」と訳した。「Trickster」とは詐欺師のことで、エピソード中リナやゼルガディスを苛立たせた上に出し抜いたゼロスは、「詐欺師」的ではある。しかし、このサブタイトルがゼロスについて、思わぬ誤解を生むことになった。

 なんと、アメリカでは「ゼロスはもともと人間で、詐欺まがいのことをしながらあちこちを放浪していた。それを獣王ゼラス=メタリオムが気に入り、ゼロスも獣王に仕えることを望んだので、獣王が彼を魔族に転生させた」という噂がまことしやかにささやかれていたのだ。スレイヤーズの情報量では随一のサイト、「スレイヤーズ・ユニバース」のキャラクター紹介のコーナーでも「噂」と断りながらも、この説が紹介されていたが、現在では削除されている。

★レゾとゼルガディス

 原作でもアニメでも、レゾとゼルガディスの関係を示すのは、ゼルがリナに答えるセリフ一つしかない。我々日本人は彼のセリフをそのまま受け取り、レゾがゼルの祖父か曽祖父のどちらかだ、と考えている。

 しかし、レゾ中心サイト「レゾ神殿」のオーナー、クイーン・メグミさんによれば、レゾはゼルの「祖父であり曽祖父である」というのが、海外での通説だそうだ。彼女の話では、SS社のビデオは、ゼルがリナにレゾとの関係を尋ねられた時、ゼルの語るセリフを「祖父であり曽祖父である」と訳しているのだそうだ。

 また、別のeメール友達は、あのシーンでゼルが見せる落ち込んだ表情には、二人の関係にアブノ−マルな雰囲気を感じさせる、という。日本人は、ゼルが自分を合成獣に仕立てた人間と自分が血が繋がっている、という事実に落ち込むことを容易に理解できるが、アメリカ人にはアニメのキャラの表情はまた違った雰囲気に映るらしい。確かに、アメリカン・アニメ(Xメン・バットマンなど)のキャラよりも、日本のアニメのキャラは顔の表情が遥かに豊かだ。

★ヴァルガーヴの昔の名前

 ヴァルガーヴが古代竜だった時代、なんと言う名前だったか、はアニメの中では明かされていないが、キャラクター・グッズで「ヴァル・アガレス」と発表された。しかし、海外では「ヴァルティーラ」もしくは「ヴァルテラ」である、と信じられている。どこからどうしてそんな話になったのだろう、と思いつつ、ことあるごとに「ヴァル・アガレス」だ、と言い続けているのだが、とうとうカナダのサイト「金色の魔王の混沌王国(Lord of Nightmares' Realm of Chaos)」でその謎の鍵に出会った。なんと、ガーヴが傷ついたヴァルに出会った時、「ヴァルとやら」と呼びかけているのだが、日本語版を聞いたアメリカ人がセリフ全体を名前だと勘違いした、というのだ。これはアニメに限らず、日本と英語圏の国々が交流する時、必ずと言っていいほど生じる誤解の典型ではないだろうか?と同時に、この誤解一つを取っても、アメリカのファンがどれほど熱心に、知らない言葉を聞き取ろうと、ビデオを見ることに集中しているかを、思い知らされる気がする。

★「魔力容量(キャパシティ)」という言葉

 日本語を母国語とする我々は、カタカナで書かれた言葉をそのままうのみにして、スレイヤーズ専門用語として理解する。それが英語にもない言葉であれば、欧米のファンもスレイヤーズ世界独特の言葉と受け止めることができるが、現に英語として使われている言葉の場合、その解釈に大きな壁が立ちはだかる。

 私が直面した最も説明が難しい言葉が「魔力容量(キャパシティ)」である。しかも、スレイヤーズの中では同じ「魔力容量(キャパシティ)」が二つの意味で使われたこともあり、日本語ででさえ理解がしにくい。その二つの意味とは、「一人の人間が持つ魔力全体の量(別名バケツ・キャパシティ)」と「一人の人間が一回呪文を発動させるのに使う魔力量(別名コップ・キャパシティ)」である。前者は使うにつれて減少し、休息を取ることで回復する。後者の意味の最大量は一個人にとっては不変で、その限界を超える呪文を使うことはできない、というのがスレイヤーズにおける「魔力容量(キャパシティ)」の概念である。

 しかし、英語で書くと「magical capacity」ということになるが、"magic"も"capacity"も日常的に使われる英語であるため、特有の意味を持つ言葉として受け入れることが非常に難しいらしい。また、バケツとコップの喩えも今イチ理解の助けにはなっていない。
 私は、ガソリン・タンクを使った喩えで説明をしたことがある。つまり、個人の持つ魔力の全容量がガソリン・タンクの容量であり、アクセルを1回踏むことでエンジンに送り込まれるガソリンの量はエンジンの性能によって異なる。1回により多くのガソリンを使う方が、普通、瞬間的なスピードは速くなる。もしもエンジンほかの性能が同じなら、同じ道を走る時、ガソリン・タンクの大きな方がより遠くに到達できる。また、ある人は、「車がたくさんあるのに、郊外に出る高速道路が1本しかない大都市」の喩えを使って、「どんなに大きな魔力容量(自動車の最大数)を持っていても、1回に使える魔力の量(一定時間に都市から出る自動車の数)には限界がある」と説明を試みた。

(Thank you Avatar, Feather Fall, Queen Megumi, and the people in the WWWboard of Slayers Universe or the Slayers mailing list. You helped me a lot to understand about the Slayers in USA. アヴァターさん羽落ちさんクイーン・メグミさん、そのほか「スレイヤーズ・ユニバース」の掲示板や英語のスレイヤーズ・メーリングリストの皆さんに感謝します。あなたたちのおかげで私はアメリカにおけるスレイヤーズ事情がよくわかりました。)

■韓国

 韓国でも日本のアニメの人気は高い。本来、日本の歌や映画などは禁止されているはずなのに、スレイヤーズを初め、様々なアニメが放映されている。

1)TVシリーズ
 アメリカと違い、韓国ではスレイヤーズはTVアニメの形で紹介された。しかも、韓国語の吹替え版である。放映したのはSBSというチャンネルとトゥーニバース(Tooniverse、以下T局)の二つのチャンネルで1997年〜98年にかけて放映された。NEXT以降に人気が高まったそうで、TRYは3回以上リピートされたそうである。TVシリーズのビデオは、NEXTしか発売されていない。
    韓国版スレイヤーズ声優リスト
    リナ=インバース……チョイ・ドゥクフイ(SBS版)/チャン・ミスク(T社版)
    ガウリイ……ホン・スーンサブ(SBS版)/カン・スジン(T社版)
    ゼルガディス……キム・スーンジュン(SBS版/T社版)
    アメリア……ジー・ミアエ(SBS版)/リー・ミュンスン(T社版)
    ゼロス……グー・ジャヒュン(SBS版)/キム・ミンスク(T社版NEXT)、チョイ・ウォンヒョン(T社版TRY)
    ヴァルガーヴ……ホン・シホ(SBS版TRY)
    フィリア……ムーン・スンヒュイ(SBS版TRY)
    ガーヴ……ハン・サンヒュク(SBS版TRY)
    フィル王子……キン・ヒュンジク(SBS版TRY)
2)OVAシリーズ・劇場公開映画
 これらは公式には韓国でリリースされていない。しかし、日本やアメリカからの輸入版で見ているファンもいる。

3)小説・漫画
 スレイヤーズが初めて韓国に登場したのは、1996年に小説が翻訳された時だという。その後1999年までに13巻までが翻訳されたが、それ以降は翻訳されていない。同じ小説でも「スレイヤーズすぺしゃる」「スレイヤーズでりしゃす」は翻訳されていない。

 漫画は、義仲祥子版「超爆魔道伝スレイヤーズ」が6巻まで翻訳されているが、あらいずみ版「スレイヤーズ」は正式には発売されていない。

4)インターネットに見る韓国スレイヤーズ事情
 韓国にもスレイヤーズのファン・サイトがたくさんある。。ざっと数えても100はあろうか。ほとんどが韓国語で読めないが、中には英語や日本語のメニューを置いてあるところも見受けられる。前に述べた日本の「スレイヤーズ・ウェッブリング」には11月9日現在、二つの韓国のサイト「混沌の海(The Sea of Chaos, Slayers World)」と「スレイヤーズ闇市(Slayers Blackmarket)」が登録されている。

 韓国人の友人からのメールによれば、韓国語で書かれたスレイヤーズのパロディ小説はインターネット上におよそ5000(推定)もあるという、また、同人誌ではないが自作のパロディ小説を発表する集まり(fanfiction club)があり、ほかのアニメ(エヴァンゲリオンなど)と比較してもその規模・質においては韓国随一を誇るらしい。

 韓国では日本への関心が高く、日本語学習ブームも手伝って、日本のサイトをサーフィンし、時には掲示板に日本語で書き込みをするファンもいる。その頻度からすれば、韓国のファンは日本のファンよりも国際的だと考えられるかもしれない。やはり「本場物」に触れたい、という気持ちが強いのだろう。

(韓国におけるスレイヤーズ事情について教えてくれたユージンさんに感謝します。Thank you Eugene for your telling me about those situations in Korea. )

■メキシコ、中南米

 メキシコに住むスレイヤーズのファンから、2000年8月中旬にメキシコ及び中南米におけるスレイヤーズ事情を伝えるメールが届いた。以下にその要約を紹介する。

1)TVシリーズ

 1999年にメキシコのTVアステカが無印を断続的に26話放映した。それはベネズェラの会社が製作したスペイン語版で、タイトルは「Los Justicieros」、無印のDVD缶で紹介されたスペイン語版とはタイトルが違うことから別物(海賊版)と思われる。メキシコではNEXTの4話まで放映されたところで放送が中断、現在まで再開されていない。どうやらTV局が正式な放映権を獲得しないまま、放映したため中断に追い込まれたらしい。一方、ベネズェラほかいくつかの中南米の国では、無印、NEXT、TRYの全エピソードが放映されたそうである。とはいえ、ビデオまでは販売されていないという。
    中南米版スレイヤーズ声優リスト
    リナ=インバース……ハイディ・バルボーサ
    ガウリイ……フアン・カルロス・ヴァルケス
    ゼルガディス……カルロス・カスティーリョ
    アメリア……カルメン・オラルテ
    ゼロス……ルイス・カレーノ
    マルチナ……クラウディア・ニエト
2)OVAシリーズ・劇場公開映画

 OVAや劇場公開版のスペイン語版(中南米バージョン)はない。

3)小説・漫画

 これらもまったく紹介されていない。

 メキシコにもスレイヤーズのファンは大勢おり、彼らはいつの日か、TV局が正式に全3シリーズを放映するのを熱望しているそうである。

(Muchas gracias, Paty Mtz. Nava. メキシコと中南米のスレイヤーズ事情について教えてくれたパティさんに感謝します。Thank you very much Paty for your telling me about the Slayers in Mexico and the South America.)

■フランス

 フランスという国は、独自の文化にこだわる国民性が強く、そのため、長い間日本のアニメは閉め出されて来た。それが変化したのはTV局の大多数が公営化された1977年から1990年で、この間、「キャプテン・ハーロック」「スペース・コブラ」など日本のアニメや、「キャプテン・フューチャー」などアメリカのアニメが数多く放映されたという。しかし、日本のアニメを暴力的と考える団体などから批判を受け、現在は「ドラゴンボール」と「セイラームーン」だけが放映されている。
 「ポケモン騒動」はフランスでも大々的に報道され、日本アニメ排除の動きは強まっている。このような状況下、「スレイヤーズ」のフランス語吹替え版が作られ、TVで放映されることはなかった。
 しかしインターネットがフランスにも広まるにつれて、1990年までの間に日本のアニメを見た世代が、ネット上でアニメを擁護する活動を繰り広げており、かつて放映されたことのないアニメのビデオも出回るようになった。

1)TVシリーズ

 日本アニメ華やかかりし時代に、TV局に日本から輸入したアニメを供給していたのがIDP社(オフィシャルホームページはこちら)である。この会社が、TV版スレイヤーズのビデオ(フランス語字幕版のみ)をリリースしており、無印・NEXTの全エピソードと、TRYの7話までが発売されている。これらは全26話が8巻(1巻・8巻のみ4話、残りは3話収録)で発売されていることから、アメリカのSS社版の字幕を差し替えているのかもしれない。この情報を提供してくれた、「スレイヤーズ・プレザンタシオン(Slayers Presentation)」のダミアンさんによれば、画質も悪いとか。もしかしたらSS社版で使い古したマスターを元にしているのか?正規版で画質が悪いなら悲しいとしかいいようがない。

2)OVAシリーズ・劇場公開映画

 フランスで、外国(日本やアメリカ)のアニメビデオの老舗に、AKビデオという会社がある。ここが、「スレイヤーズ:パーフェクト」と「スレイヤーズすぺしゃる」を3巻のビデオに収めたボックスを売っているそうだ。これまたフランス語字幕版のみ。日本版を元にすれば4巻になるはずの組み合わせが3巻になっていることから、これもアメリカのADV社版の字幕を差し替えたものと思われる。

3)小説・漫画

 日本の小説を翻訳しても市場が小さいため採算が取れないらしい。したがって、小説は翻訳されていないし、漫画にいたっては目の敵状態である。アニメ関連グッズを扱う店では日本語版の漫画などが並ぶこともあるそうだが、フランス語翻訳版はない。

(Merci beaucoup, Damien. フランスにおける日本アニメを取り巻く状況やスレイヤーズ事情を教えてくれたダミアンさんに感謝します。Thank you Damien for your telling me about the situations of Japanimation and the Slayers in France.)

■スペイン

 昨年日本で発売されたスレイヤーズのDVDボックスの特典映像に、スペイン語版の映像があったことからも分かるように、スペインではスレイヤーズは正式な契約に基づいて紹介されていた。そのおまけDVDに表示されたタイトルを見ると、「Slayers」ではなく「Reena y Gaudy」(スペイン語の"y"は英語の"and")になっているが、どうやら「殺戮者たち(Slayers)」という言葉は嫌われたらしい。

1)TVシリーズ

 スペインでは1998年10月から翌1999年2月まで、無印・NEXT・TRYのスレイヤーズが立て続けに放映された。それも、最初は週末のみの放映だったのが、途中から月曜日から金曜日まで毎日1本ずつ、という放送だったらしい。その後、再放送もあったが、これは1ヶ月ほどで中断された。

 意外なのが、これらの3シリーズのオープニングには、すべてNEXTのものを使っていたということである。しかし、スペインのファンはインターネットの情報やCDマガジンで紹介されたりしたもので、3種類のオープニングがあることを知っているそうだ。

 スペインでも声優という職業は確立されておらず、さらにアメリカよりも人材不足が深刻らしい。聞いた話では、同じ人が同じアニメで複数のキャラ、それもかなり出番の多いキャラを掛け持ちしてるという。ちなみに、スペイン語版スレイヤーズでは、5人しか声優を使っていないそうだ!結果として、主要なキャラの声を同じ人が担当することになり、たとえばアメリア役はほかにマルチナ、フィリア、フィブリゾを演じているし、ゼルガディス役はガウリイ、フィル王子、魔竜王ガーヴ、ヴァルガーヴをこなしている。

2)OVAシリーズ・劇場公開映画

 これはもっぱら海賊版に頼るしかないらしい。スペイン語吹替え版があればいいが、時には英語版、中には日本語版で我慢しているケースもある。いずれにせよ、OVA・劇場公開版を見られるだけ幸運、という状況だという。

3)小説・漫画

 小説はやはり翻訳されていないが、漫画はアメリカとは逆で義仲翔子版のみが翻訳され、それもTVアニメとストーリーが重なる1巻から3巻までが出版されている。スペイン語も漫画は左閉じが原則なので、日本の漫画を逆版にして文字を換え、印刷している。

4)グッズ

 スペインではスレイヤーズのCDが何種類もリリースされている。また画集も出版されていると聞くし、下敷きやラミカードも手に入るという。インターネットを利用したスペイン語のメーリング・リストは中南米のファンも取り込んでいるが、スペインではやはりアニメ・ファン全体が少ないので、スレイヤーズのファンの数は多くはないらしい。

(Muchas gracias, Isabel. スペインのスレイヤーズ事情について教えてくれたイザベルさんに感謝します。Thank you very much Isabel for your telling me about the Slayers in Spain.)

■ドイツ

 日本製のマンガやアニメの人気はドイツにも広がっている。英語を第二外国語として学習する制度が根付いているため、英語版を楽しむことができるのも要因だろうと思われる。

1)TVシリーズ

 ドイツではまだスレイヤーズのビデオは販売されておらず、英語版(SS社版・ADV社版)を入手して楽しんでいるファンが多い。だが、2001年にはドイツの会社がスレイヤーズのTVシリーズをビデオでリリースすることが決まっているそうだ。

2)小説・漫画

 小説はドイツ語版は出ていないが、漫画はあらいずみ版も義仲版も翻訳されている。しかも、英語版のようにページを逆版にしたりとか、一話一話を一冊に分けるということもせず、まさに日本語版のスタイルのまま、セリフだけドイツ語になっているそうだ。上記のように、まだアニメのドイツ語版が出ていないため、ドイツのスレイヤーズ・ファンの多くは漫画のファンであり、アニメを見ていない人が多い。しかし、日本漫画やアニメのファンが集うとあるチャットでは、4割近くのメンバーがスレイヤーズのキャラをハンドルネームにしていることもある。それほどポピュラーな存在らしい。

(Danke, Selina!ドイツのスレイヤーズ事情を知らせてくれたセリーナさんに感謝します。Thank you Selina for your telling me about the Slayers in Germany.)

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 以上、偏った観点ではあるが、海外におけるスレイヤーズの受け取られ方について紹介した。スレイヤーズに限らず、日本で制作されるアニメは「ジャパニメーション」と呼ばれるほど認知され、評価もされている。インターネットはそうした世界に繋がる扉だ。一度機会があったら、その扉を開いてみてはいかがだろう。(2000年11月8日改訂)




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