トランプ氏を勝たせた「嘆かわしい人々」

共和党を自分の色に塗り替えたトランプ氏

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地元ニューヨークで投票を済ませ、手を振るドナルド・トランプ氏(8日) Photo: Chip Somodevilla/Getty Images

――筆者のジェラルド・F・サイブはWSJワシントン支局長

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 嘆かわしい人々が立ち上がり、世界を揺さぶった。

 「嘆かわしい人々」とはもちろん、ヒラリー・クリントン氏がドナルド・トランプ氏の支持者を侮辱した言葉だ。トランプ氏に忠実な彼らの多くは誇りを持ってこの侮辱を受け入れ、士気を高める道具として利用した。

 そうしたエスタブリッシュメント(既成勢力)による侮辱を名誉の勲章にして、トランプ軍団は8日、米国の選挙制度の中で暴れ回り、米国現代史上で最も劇的な勝利を共和党候補にもたらした。

 トランプ氏は単にクリントン氏を打ち負かしただけではない。一瞬にして共和党を自身がイメージする党へと変貌させた。同党が最も大切にしてきた政策や理念を書き換えた。民主・共和両党とも、トランプ氏は全国的な選挙で当選できるほどの支持を白人層やブルーカラー労働者層から得られないと考えていたが、彼はその常識を打ち破った。両党が抱いていた居心地の良い前提はすべて吹き飛ばされるだろう。

 トランプ氏の勝利で金融市場には襲撃が走り、混乱が生じている。先進諸国のポピュリストやナショナリストたちは新たな活力を得た。

 トランプ氏は米国政治に先行き不透明感をもたらした。それは少なくともロナルド・レーガンが巻き起こした1980年の保守革命以降で米国が経験したことのない類いのものだ。

 トランプ氏は、エスタブリッシュメントにも共和党の中にさえもわずかな数の仲間しかいない。共和党で大統領の次に力を持つポール・ライアン下院議長とも疎遠である。連邦議会の民主党議員にはほとんど知り合いがいない。

 トランプ氏はさまざまな政策において、共和党にとって全く新たな立場を提唱してきた。貿易面では自由貿易協定に意欲的になるのではなく懐疑的になること。移民政策では経済的な繁栄を支える労働力として移民をとらえるのではなく、深刻な経済的・社会的脅威として不法移民に焦点を絞ること。諸外国への介入についても同様で、共和党の前大統領はイラク侵攻を命じたが、それを大きな過ちだと呼んだ人物が党のかじ取りを担っている。給付金制度に関しても、かつての共和党は高齢者に対する給付金を削減するという苦い薬を飲む準備をしていたが、現在は逆の方向に導かれている。

保守政党からポピュリスト政党へ

 端的に言えば、トランプ氏とその仲間たちは伝統的な保守政党を公然たるポピュリスト政党へと、たった一晩で劇的に変貌させたのだ。

 こうした変貌を予想するのは可能だが、トランプ氏の傍らで一緒に働くのは誰かを予測するのは難しい。ヒラリー・クリントン氏が当選していれば、考え得る閣僚メンバーやホワイトハウスの側近らの長いリストを作成するのは容易なはずだったが、トランプ政権の場合はこうしたリストが少ない。

 最も近い助言者といえば、多くの側面で自分の子供たちだ。副大統領候補のマイク・ペンス氏はインディアナ州知事になる前は連邦議会のベテラン議員だった。同氏は通常の副大統領よりも重要な任務を担わざるを得ないかもしれない。ほかにアラバマ州選出のジェフ・セッションズ上院議員、ニュージャージー州のクリス・クリスティー知事、元ニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニ氏など、トランプ氏の味方についている共和党の重鎮もいる。だが、同氏の政策ブレーンは従来型の新大統領がワシントンで通常抱えることになる人数より少ない。

 トランプ氏の勝利は、ワシントンだけでなく米国全体に深い分断と激しい憤りを残すだろう。彼の出馬は、米国の政治・金融システムが自分たちのニーズや懸念を無視していると考える人々を喜ばせた一方で、暗い情熱も喚起した。

 ヒスパニック系やイスラム教徒の移民たちに関するトランプ氏の見解に、かすかにであれ、はっきりとであれ、人種差別意識を感じとった人は多い。女性たちの多くはトランプ氏の態度や発言に明らかな性差別意識を嗅ぎ取った。トランプ氏は多くの家庭の中にも激しい議論と感情的な分裂を招いた。

 こうした分断は選挙戦の終盤になるにつれ深まる一方だった。トランプ氏はその頃になると、有権者の幅広い層を取り込み、支持基盤を大きく広げようとする努力をほとんど投げ出していた。その代わり、反エスタブリッシュメントの怒れるメッセージに夢中な支持者たちを活気づけて勝利するという戦略に注力しているように見えた。

 8日の選挙で数千万人の支持者を動員したのはこの戦略だ。トランプ氏は支持者と同じくらいの激しさで自身を嫌悪する数千万の国民を味方に付けることができるのか。それが大統領としての最初の大きな試練になるだろう。

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