2016.10.30.Sun.
■[音楽][.Electronica] Grischa Lichtenberger “spielraum / allgegenwart / strahlung” (2016)
5枚の作品によって構想されているシリーズ。2015年にリリースしたアルバム “LA DEMEURE; il y a péril en la demeure” を起点とし、3枚のEPを経た後、アルバムもう1枚によって完結することが計画されている。
今回、中間を成す3枚のEP “spielraum” “allgegenwart” “strahlung” をひとつに収めて発表されたのがこの音源。EP-1が6曲、EP-2が5曲、EP-3が8曲の全19曲という構成で、合計87分。
繊細に構築されたエレクトロニカ。
EP-1とEP-2はパルスやインダストリアルなサウンドで前進するビート主体の楽曲が多く、無機的かつ乾いたサウンド。EP-2のBサイド最後の曲ではヴォイス・サンプリングが伴われる。
EP-3ではまた少し違った趣きとなり、グリッチ/ノイズを纏いながらも広大な情景を想起させる流麗なメロディの曲が現れる。
数学的思考を司る脳機能部位へ作用するかのような音で、理知的愉楽とも言うべき効果をもたらす。
かなり良い。
作者によるノートで、各作品のコンセプトが示されている。
http://www.grischa-lichtenberger.com/spielraum_allgegenwart_strahlung/
EP-1 : spielraum - invisible freedom(遊戯空間 ― 見えない自由)
EP-2 : allgegenwart - invisible presence(遍在性 ― 見えない存在)
EP-3 : strahlung - invisible force(放射 ― 見えない力)
ベンヤミン/エリアス・カネッティ/アポリネール/モーリス・ブランショなどを引用した長文のノート。
もっとも文量が多いのは EP-1。前半は時間、後半は空間について。まず、腕時計の発明以降、永遠を線形に目指すような権威的時間像が失われて個人の自由への可能性につながったこと。後半では、近代における芸術の新たな機能としてベンヤミンが提示した「遊戯空間 spielraum」の概念を敷衍。消費社会の進展ではベンヤミン的な遊戯空間が減退するとしながらも、遊戯の概念をドイツ語でのspielの語源である「ダンス」に結び直し、現代における遊戯の復権と意義を捉えようとする。前半と後半に共通するタームは「反復」。ダンスが反復による運動であること、また、現代の時間概念は、携行される周期運動の反復で刻まれるものであること。このような反復への関心には、ミニマル・ミュージックの含意が見て取れる。
EP-2では「声」というものに着目している。「スローガン」の語源は「亡霊たちの鬨」にあるというエリアス・カネッティの文章。つぶやき・ざわめきとしての現代のSNS。さらに「声」は距離を超えるというアポリネールの言葉から、物理的距離にとどまらず社会階層の距離をも超えて到達し得る「遍在性」への拡張。しかし現代においてはテクノロジーによる遍在性が過剰に希求されることで、断層を架橋するはずの遍在性は「スローガン」に屈するとされる。大衆的運動と死者の騒乱というふたつの意味で。
EP-3も引き続き「見えないもの」へ思考が向けられ、初めは恩恵として見出された原子力技術が個人の身体を害する危険物へ、やがて世界を滅亡する可能性を持つ破局的脅威へ変貌し20世紀冷戦の恐怖を導いたことに触れられる。
……こうした記述からは、20世紀現代思想がさまざまな分野で衒学的に消費された時代が思い出され、若干の気恥ずかしさを禁じ得ないところもある。とはいえ作品を思想に結びつけて表現しようとするこの熱意は懐かしくも目映い。実際のところ、こうした振る舞いが音そのものとどれほど関係があるかは疑問だけれども、5作品によるシリーズというコンセプト志向な発表形態も含め、作品を必要以上に複雑に見せる眩惑的なパフォーマンスはもっと世の中に増えてもいいとは思っている。
Grischa Lichtenberger
Information
Origin : Bielefeld, Germany Current Location : Berlin, Germany Born : 1983
Links
Official : http://grischa-lichtenberger.com Label : raster-noton http://www.raster-noton.net/releases/spielraum-allgegenwart-strahlung?c=12
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―Angela Mitchell