11月9日(日本時間)、共和党のドナルド・トランプ氏の優位が伝えられると、アメリカ大統領選で選挙特番を組んだイギリスBBCで何度もこんな言葉が繰り返された。
「誰がこんな結果を予想していただろうか」
世界が驚いたイギリスのEU離脱を報じた経緯があるにもかかわらず、彼らは特番が始まった頃はどこか余裕を持って伝えていた。状况はあっという間に変わっていった。トランプ”大統領”誕生に。
彼らは、なぜ接戦になっているのか、対抗するヒラリー・クリントン陣営がいかにナーバスになっているか、を口々に慌てて語り始めた。その様子が今回の大統領選を象徴している。
いよいよ現実となったトランプ”大統領”。彼はどう論じられてきたのか。最近の発言を集めた。
最後の最後まで、ヒラリー・クリントン氏と民主党予備選で争ったバーニー・サンダース氏は、論壇誌「世界」(2016年12月号)のインタビューでこう断じている。
「トランプは私の生涯で、主要政党から浮上した最悪の候補者」
「こいつはこの国にとって大きな災難であり、国際面では我が国の恥です。病的な大嘘つきの男です」
「特に言語道断で憂慮すべきなのは、トランプの選挙運動の骨子が偏見に基づいているということ」
同じく「世界」のインタビューに応じた、日本を代表する歴史学者にして元アメリカ歴史学会会長の入江昭さんは「トランプ候補が勝ってしまったら、やはり悲劇的だと思います」とし、こう続けた。
「(もしトランプ氏が勝ったら)友人たちはカナダに逃げるなんて言っていますけれども(笑)」。この(笑)にどこか、現実には誕生しないだろうという思いが滲んでいる。
入江さんのトランプ氏評価はこうだ。「無知で教養のない人が大統領になるということは、やはり極端な例とは言えると思います」
トランプ候補が勝つとしたら、それは「オバマ大統領が体現する人種的包摂性、あるいは女性であるクリントン氏の多様性を国民が受け入れていないことを意味するでしょう」
元共同通信ワシントン支局長の会田弘継・青山学院大教授は、朝日新聞のインタビューで、トランプ氏を「保守運動が生み出した鬼っ子」と位置付けた。
会田教授はこう述べている。
「タブーとして封印され、人々の心の中で眠っていた人種差別意識が、いまトランプ氏に揺り動かされ、人々の怒りと結合しつつあるように思えます。選挙の結果がどうであれ、その怒りはこれからどこに向かうのでしょう。特異なキャラクターが活躍した選挙だった、というだけでは済まず、米社会の転換点になる恐れを危惧しています」
実際に、トランプ大統領が誕生した。これからどうなるのか。「Newsweek」に興味深い論考が掲載されている。
「『トランプ大統領』は独裁者になるのか」。筆者は同誌ワシントン支局長のマシュー・クーパー。
彼は、トランプ大統領になったところで、アメリカの政治史制度には太刀打ちできないと予想する。つまり、トランプ大統領時代はごく地味で、政治家としての手腕はお粗末で、支持者を失望させたジミー・カーター元大統領のようになるのではないか、と。
彼の結論は辛辣だ。
「トランプが大統領になっても、強烈な個性と弱い者いじめだけが記憶され、取るに足らない存在として歴史の教科書に名を残すだけだろう」
トランプ氏は大統領選勝利宣言のあと、ローリング・ストーンズから使用停止を求められてきた、彼らの代表曲を大音量で流した。
「You Can’t Always Get What You Want」。邦題は「無情の世界」。曲の中で、ミック・ジャガーが繰り返し歌うのは、「欲しいものがいつも手に入るとは限らない」というメッセージだ。
この夜、本当に欲しいものが手に入ったと思うアメリカ国民はどれだけいただろう。4年後も思い続けられる人はどれだけいるだろうか。