香港の社会が動揺している。市民が選んだ議員に対し、中国が失格を宣告するという初めての事態がおきたからだ。

 この習近平(シーチンピン)政権の動きは、不当な介入であり、市民が反発するのは当然だ。香港の自治を最大限尊重すべきである。

 きっかけは、香港の独立を訴え当選した立法会(議会)の新人2人の宣誓だった。

 「香港は中国ではない」との横断幕を掲げ、中国をおとしめる発言をした。そのため宣誓は無効とされ、香港政府が裁判所に2人の失職を申し立てた。

 だが、その裁判所の判断が出る前に、中国全国人民代表大会(全人代)の常務委員会が「有効な宣誓をしなければ職に就けない」との判断を下した。

 2議員は失職する見通しだ。常務委の担当者は香港独立の主張を「国家の統一、主権と領土保全を脅かす」と非難した。

 常務委には、香港の最高法規である香港基本法を解釈する権限がある。それに基づいて見解を示したという意味では形式上問題がないようにみえる。

 しかし、公正な選挙によって選ばれた議員の地位が軽々に奪われてはならない。

 宣誓のやり方の当否や、それが議員資格にかかわる問題かどうかは本来、議会自身が判断すべきだ。基本法にもそのための手続きが用意されている。

 中国側の性急な判断は議会の自律性に対する侵害である。

 司法の結論を待たずに解釈を決めたことには、香港の法曹界からの反発もある。

 そもそも香港には、外交や軍事を除いて高度な自治が保障されている。その基本法の精神に習政権の介入は反している。

 香港が英国から返還されて間もなく20年。中国の領土でありながら異なる法制を維持する「一国二制度」は、当時の中国指導部の知恵が生んだものだ。

 だがそれは、中国の政権側が行動を慎むことによってこそ保たれる。基本法解釈の名の下に行われる強引な介入は、制度の安定性を掘り崩している。

 この間、北京の意を受けた愛国教育の導入が試みられ、メディアには圧力がかけられた。一昨年は、行政長官選挙のあり方をめぐり「雨傘運動」がおき、中国への反感が強まった。

 独立を求める主張は主流とは言いがたいが、こうした議員が現れたこと自体、香港社会の大きな変化を意味している。

 自由を享受してきた市民に対して、「国家の安全」をふりかざす共産党政権の体質が変わらなければ、香港の民心は遠ざかるだけだろう。