優れた経営センスでIT業界の旗手としてあがめられた機種をリードしたスティーブ・ジョブス。その経営力にたとえ、老舗の蔵元を再生させた手腕から「日本酒業界のスティーブ・ジョブス」と評される佐藤祐輔社長(41)は、創業160年以上の新政酒造の8代目当主。
東京大学文学部卒業で元フリージャーナリストという異色の経歴を持つ佐藤氏が、傾きかけた実家に戻って10年あまり。酒造りは秋田の米と水、寒冷地での低温発酵を可能にした先祖伝来の「6号酵母」にこだわる伝統と地域に根ざしたイノベーションだ。
意匠にも工夫を凝らした「No.6」など次々と新酒を発表して若年層をつかみ、いまや商品は入手困難。知名度は全国区になりつつある。
傾きかけた実家の蔵元を再建した佐藤氏の姿勢は、国内外で知名度が高まった「獺祭(だっさい)」の蔵元、旭酒造の桜井博志氏とだぶる。だが、山口県岩国市から東京、そして世界へと突き進む桜井氏を「日本酒の知名度を上げてくれた」と尊敬しつつ、同じ道はたどらない。「分かる人にだけ届けたい」という、秋田の土地に根ざした身の丈の酒造りは、差別化につながる。
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