第3回 火星探査車の着陸地点を選ぶということ
NASAのジェット推進研究所(JPL)に勤務する小野さんは、マーズ2020と呼ばれる火星探査機の計画に加わっている。小野さんが担当するタスクは2つあって、1つ目は前回、紹介した火星ローバーの自動走行プログラムの改良だ。
では、もう1つは何か。
「実はさっきのローバーの仕事と表裏の関係なんですが、着陸候補地点の選定の仕事にかかわっています。『Landing Site Traversability Analysis』というんですけど。科学者側が、おもしろそうな岩が露出してる場所とか、興味のあるところをバーッとリストアップしてきて、そこから『ここは無理』『ここも無理』って、エンジニアが切っていくんですね。僕は、その切る方で、嫌われ者なんですけども(笑)」
Landing Site Traversability Analysisというのは、直訳すると「着陸地点の走破可能性分析」みたいなものだろうか。科学探査だから、科学者がローバーを降ろして調査してみたい場所をまず挙げる。リストの中からどこか1カ所を選ぶ際に、科学的な価値はもちろん大事だけれど、それと同時に、そこに降ろして果たしてローバーが動き回れるのか、という問題もある。だから、着陸地点は、科学としての興味と、エンジニアリングとしての妥当性の兼ね合いで決まるというわけだ。
では、科学者側にとって、マーズ2020の着陸地点として望ましいところというのは、どんな場所なのだろう。ナショナルジオグラフィック誌が作成した最新の火星地図(2016年11月号特製付録)を見ながら小野さんは説明してくれた。
「まず地質学的におもしろい場所というのが1つ。そして、もう1つは、アストロバイオロジー、宇宙生物学ですよね。2020年のローバーの一番大きな目的が、30億年前にいたかもしれない生命の痕跡を探す。これが一番大きいミッションなんで、そういうものが残っていそうな場所です」
後者、宇宙生物学的な関心が、マーズ2020の新しい点だとして、科学者たちはどんな場所をピックアップするのだろうか。
まず、小野さんは、火星の東半球にある巨大なクレーター、イシディス平原の北東の際のあたりを指差した。
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