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第33話のナレーションとあらすじ
イゼルローン回廊で死闘が続いている頃、
ヤンとフレデリカはビュコックを訪ねていた。
自由惑星同盟は先のアムリッツァ会戦と、
救国軍事会議のクーデターによって、
多くの兵力を失っていたが、第一艦隊だけは辛うじて残っていた。
宇宙艦隊司令長官であるビュコックは、
国防委員長のアイランズに第一艦隊の出動命令を願い出るが、
衛星防御システムの「アルテミスの首飾り」がない現状では、
首都星ハイネセンを守ることができないと却下される。
ビュコックは軍内部でも反対意見が出たことを語り、
各地から寄せ集めた5000ほどの兵力をヤンに預けた。
それはかつての第九艦隊の副司令官や、
軍法会議にかけられた軍人がいるという、まさに寄せ集めの部隊だった。
ビュコックは使いづらいのはないかと心配するが、
ヤンはまったく意に介さなかった。
一方、イゼルローンでの戦いは、
互いに歩兵を送り込んで白兵戦を行うなど、小競り合いが続いていた。
ローゼンリッターの活躍で帝国軍の侵入は許さなかったが、
ケンプとミュラーはヤンの策略を警戒する。
そんななか。
イゼルローンに向かう途中のヤンはフレデリカに、
自分が査問会にかけられたのはフェザーンの陰謀だと語った。
フェザーンの狙いは、ラインハルトに銀河統一をさせることなのだ。
パトリチェフはこう着状態にある兵士たちを元気づけるが、
帝国軍はその間に陽動作戦を実行していた。
そしてついに、互いの要塞の主砲の撃ち合いがはじまってしまう。
だが、ガイエスブルグは引力を利用して、
流体金属の装甲を厚くしてしまい、
逆にトールハンマーを封じ込められたキャゼルヌは窮地に陥った。
さらにミュラー艦隊によって、
イゼルローンの外壁にレーザー水爆ミサイルが打ち込まれた。
帝国軍では勝利を確信したケンプが上機嫌だったが、
彼の副官は功を焦っているのではないかと言った。
さすがのシェーンコップも敗北を覚悟するが、
これまで全く口を開かなかったメルカッツが、
戦況を逆転させる策を提案した。
ミュラーはメルカッツの策にはまり、
イゼルローンにダメージを与えることはできなかった。
これを知ったケンプはミュラーを叱り付けるが、
どうやら功績をひとりじめにして、更なる出世を狙っているようだった。
一枚岩ではない帝国軍の陣営だが、
ミュラーのもとに信じがたい情報が入ってくる。
それは「ヤン・ウェンリーがイゼルローンにいない」というものだった-。
第33話の台詞
ケンプ「撃て!」
(ガイエスハーケン、イゼルローンを直撃)
同盟軍兵士「RU-75ブロック破損!」
キャゼルヌ「被害を調査しろ。それと負傷者の救出だ。急げ!」
同盟軍兵士「ブロック0生命反応なし!」
パトリチェフ「そんな・・・!あそこには、
4000人からの兵士が詰めていたはずだ!」
同盟軍兵士「・・・全滅です!」
ムライ「なんということだ・・・」
同盟軍兵士「外壁の修復は現状では不可能ですが、
流体金属層は自然回復します。ただし、RU-75ブロックにも進入します」
キャゼルヌ「やむを得ない。同ブロックは放棄。
非戦闘員に外壁に面したブロックへの立ち入りを禁止」
シェーンコップ「司令官代理、反撃はどうしますか?」
キャゼルヌ「反撃?」
シェーンコップ「・・・せざるを得んでしょう。
このまま座して第二撃を待つことはできません!」
キャゼルヌ「しかし、いまのを見ただろう?!双方で主砲を撃ち合えば、共倒れになってしまうぞ!」
シェーンコップ「・・・そうです!だからこそ、
その恐怖を教えれば、敵もうかつに主砲を撃てなくなるでしょう。
そうすれば、互いに手詰まりになって、つまりは時間を稼ぐことができる。
いま敵に弱みを見せるわけには行きません」
キャゼルヌ「・・・わかった。その通りだ。トールハンマー用意!エネルギー充填!」
同盟軍兵士「エネルギー充填完了!」キャゼルヌ「ファイア!!」
(中略)
コーネフ「誰でも悲観論より楽観論を好むものだ。それが士気ってもんだ」
(中略)
フレデリカ「昨年、イゼルローンに見えたキルヒアイス提督も立派な方でしたわ」
ヤン「ああ・・・私はね、彼の訃報を知った時、古くからの友人を失くしたような、そんな気持ちにさせられた。
戦う相手同士の偽善と言われるかも知れないが、
彼ならば同盟と帝国の共存のための架け橋になってくれたかも知れない。
そう思っていたんでね」
フレデリカ「閣下は帝国との共存を願っておられるのですか?」
ヤン「とりあえず、戦争が終われば良いと願っている。別に全人類社会が単一国家である必要はないさ。
同盟と帝国が並存していたって、いっこうに構わない」
フレデリカ「専制国家とですか?!」
ヤン「専制政治自体は絶対悪じゃない。ただの政治の一形態に過ぎないのさ。要はそれをいかに社会のためになるように運営してゆくかだ。
ローエングラム公は効率的で公平な善政を布くだろう。
現に帝国はその方向に改革されつつある。
実際、政治改革をドラスティックに進められるのは、
民主制より専制のほうなんだ」
フレデリカ「確かにそうですわね」
ヤン「だが、専制政治によって人類が統一されるのは避けるべきだと思う」フレデリカ「それは?」
ヤン「たとえばローエングラム公には、その力量があるかも知れない。だが、彼の子孫は?彼の後継者は?
常に名君が輩出するとは限らない。
むしろ彼のような存在は、何世紀に一人という奇跡のようなものだ。
そんな個人の資質にすべてを賭けるような制度に、
全人類を委ねるわけには行かないと思うのさ」
(中略)
シェーンコップ「コーヒーを1杯頼む。砂糖はスプーンに半分、
クリームはいらない。少し薄めにな。生涯最後のコーヒーかも知れんのだ。
美味いやつを頼むぞ」
同盟軍兵士「は、はい!」
キャゼルヌ「コーヒーの味に注文をつける余裕があるうちは、まだ大丈夫だな」シェーンコップ「まあね。女とコーヒーについては、
死んでも妥協したくありませんのでね」
メルカッツ「司令官代理。私に艦隊の指揮権を一時お貸し願いたい。
もう少し状況を楽にできると思うのですが」
キャゼルヌ「お任せします。やっていただきましょう」
(中略)
シェーンコップ「まあ、敵にばっかり優秀な人材が集ったのでは、
不公平というものですからな」
(中略)
ミュラー「優れた敵には相応の敬意を払おうじゃないか。少佐。
そうすることは、われわれにとって決して恥にはならんだろうよ・・・
それにしても、ヤン・ウェンリーという男、いればいたで、いなければいないで、
どれほどわれら帝国軍を悩ませることか。魔術師ヤンとはよく言ったものだ」
妙香の感想
イゼルローンといえば「難攻不落」が代名詞です。
だから、こんなにたいへんな状況になるとは驚きましたね。
留守を任されたキャゼルヌは有能な人なんですが、
どちらかというと事務方の才に秀でているので、
戦術の面では帝国軍に一日の長があったようです。
でも、同盟軍は人つながりで一枚岩になっていますが、
帝国軍はケンプの副官が上司の噂話をしたり、
ミュラーも疑心暗鬼になっていたりと、まとまりに欠けている印象があります。
メルカッツはミュラーとの戦いを有利に進めて、
封じられたトールハンマーの復活にこぎつけました。
彼がいなかったら、キャゼルヌたちはやられていたかも知れないので、
いいところで活躍したと思いましたよ。
ヤンは本気で帝国との共存を考えているんですが、
それにはまず、この戦いを終わらせなければなりません。
ただ、仮に停戦ができたとしても、
ラインハルトが同盟の存続を認めるのは難しいと思うんですよね。
彼は非常に聡明な人物ですが、
「民主主義」というものの本質は理解できないような気がします。
それにしても、専制政治のほうが政治改革が進むとは、
とても興味深い考えでありました。
確かに実際の歴史を振り返ってみても、
世襲による長期政権の国では創業者が有能なことが多いです。
しばらく経って国が澱んできても、中興の祖と言われる君主が登場して、
国のあり方を抜本的に変えたり、次々に新しい施策を打ち出していますよね。
わが国では徳川家がそれに当たると思いました。
家康・秀忠・家光で幕府の基盤を作り、
その後は少し停滞した時代があったんですが、
8代将軍・吉宗は享保の改革を行って、
目安箱の設置や小石川養生所の創設を行いました。
もし、江戸時代に「民主主義」が浸透していたら、
日本はまったく違う政治形態になったと思いました。
ヤンは銀河英雄伝説の作者である田中芳樹さんの意見を、
作中で代弁する存在だといわれています。
また、今回は名言が多かったですね。
とくにミュラーのセリフが気に入りました。
【優れた敵には相応の敬意を払おうじゃないか。
そうすることは、われわれにとって決して恥にはならんだろうよ】
こういうことがいえる人物とは、戦火を交えるのではなく、
手を携えて行けるといいですよね。
ただ、歴史というものはそれを許さないような気がしますが。
次回は「帰還」です。
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