1993年に開幕したJリーグ。これまでに数々の記憶に残る、そして語り継がれる素晴らしいプレーがピッチ上で生み出されました。そんなJリーグの過去を振り返る今回の企画。元日本代表ゴールキーパーの小島伸幸さんに、ご自身が決められた「これはやられた!」と思わせたゴールについてお話しをうかがった。小島さんが選んだ自身が決められたスーパーゴールとは。映像を交えてそれらのゴールをゴールキーパー目線で解説します。
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- GKとして活躍してきた小島さんは、現役生活の中で、数々のゴールを奪われてきたかと思います。あまり振り返りたくないかもしれませんが、なかでも「これはやられた!」と思わせるような記憶に残っているスーパーゴールベスト5について今回は語っていただきたいと思うのですが。
- 小島伸幸氏
- なかなか酷な企画ですね(笑)。まあ、確かに僕は打ってつけの人かもしれません。多くのスター選手に、歴史に残るようなスーパーゴールをたくさん決められていますからね(笑)。
- Jリーグ.jp
- ですよね。過去のスーパーゴールの映像を見ると、なぜか小島さんがGKとして映っている場合が多い気がするんです(笑)。
では、早速なのですが、小島さんご自身が決められてしまったゴールのベスト5のまず第5位から聞かせてください。
- 小島伸幸氏
- 5位はね~、藤田俊哉選手に決められたループシュートですね。あれはチームとして完全に崩されてシュートまでいかれたんですけど、最後に俊哉と1対1の場面になって。飛び込みに行ったらチップキックで脇腹のところを抜かれて、簡単にやられてしまいました。
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5位
「藤田俊哉選手のゴール」
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- なぜこのシュートを5位に?
- 小島伸幸氏
- 決して強烈なシュートじゃなかったんだけど、自分が止められると思って飛び出したら……。
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- 裏をかかれてしまったと?
- 小島伸幸氏
- ここまでいったらなんとか身体に当てられるという場面までもっていったのに、逃げられてしまったというか。普通に打って来たら、間違いなく止められましたよ。それが、「俊哉、打ってこい!」と思った瞬間、ふわ~んて。
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- 完全に想定外だったという事ですね(笑)。
- 小島伸幸氏
- すべてのシュートコースを消したと思ったら、その手がありましたかと。相手にプレッシャーを与えたのに、実は余裕がなかったのは僕のほうだった。本当に冷静で上手いという印象を受けましたね。そしてまた憎たらしかったんですよ、決めた後が(笑)。僕の方を向いてしてやったりの顔をしてきてね。
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- 嫌な記憶が蘇り、怒りがふつふつとこみ上げてきたかと思いますが(笑)、続いて第4位に行きましょう。
- 小島伸幸氏
- 4位はね~、横浜フリューゲルス時代の前園真聖選手に決められた左足ボレーかな。
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4位
「横浜フリューゲルス時代の前園真聖選手に決められた左足ボレー」
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- 95年の試合ですから、これは前園さんがキレキレの頃ですね。
- 小島伸幸氏
- これね、普通は浮いちゃうはずなんですよ。下から足を振っているから、間違いなくゴールの上を越える蹴り方なんです。でも、これを枠に入れてきたのが凄いのよ。
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- まさか枠に飛んでくるとは、という感覚ですか?
- 小島伸幸氏
- 一応、取りにはいっています。ポジショニングも取ってます。ただ正直に言えば、来る可能性は低いと思っていた。おそらく枠には来ないだろうなと。
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- それが枠に飛んできてしまったと。
- 小島伸幸氏
- そう。映像を見てもらえば分かると思いますが、あれだけのスピードで進入してきて、しかも追いつくか追いつかないかのところに何とか足を延ばしている状態だから、普通で考えればコースなんて狙えないはず。大多数の日本人選手なら、宇宙開発のごとく、はるか上にズドーンと行ってしまうはずのシュート。それが枠に飛んできたからね。
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- GKとしてはどうしようもなかった?
- 小島伸幸氏
- ゴールの天井に突き刺しているわけですから、これはちょっと反応できない。想像を超えてきたという意味で、思い出深いシュートですね。
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- それでは、第3位に行きましょう。
- 小島伸幸氏
- 3位は~・・・世界のジーコさんのフリーキックですね。これはたしか、ジーコさんが現役最後に決めたフリーキックだったんだよね。そういう意味では、歴史に名を刻んだのかなと(笑)。実はこの試合ではアルシンドのフリーキックを止めてるですよ。でもジーコさんの時は身体がまったく動かなかった。
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3位
「世界のジーコさんのフリーキック」
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- 確かに「一歩も動けず」状態ですね。
- 小島伸幸氏
- そう。もうジーコさんのフリーキックが飛んでいく~っていう感じで、目でボールを追うだけ。なんにもしていないですから(笑)。
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- オーラみたいなものですかね?
- 小島伸幸氏
- なぜか動けなかったんですよ。ただ技術的な側面で言えば、これは後からの反省なんですけど、左から2番目に立っている背の高い渡辺 卓がコースに来るように壁を作ればよかったなと。もう少し左に寄せるべきでしたね。でも、たぶんキックの軌道を見ると、大きい選手がそこにいてもボールは通ってきていたかもしれない。
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- ボールが見えなかったんですか?
- 小島伸幸氏
- いや、蹴ったタイミングも分かったし、ボールが出てくるところも見えたんですけど、身体が全然動かないの(笑)。
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- 結構スピードもありますね。
- 小島伸幸氏
- そう、速いんですよ。映像で見返すと速いなと。でも僕が受けた印象はスローだった。コマ送りですべてが描写されて、ゴールネットにパサっと吸い込まれるところまで僕は見ているから。映像で見ると速いけど、その時の印象はスローなんです。コマ送りの映像を見ているような感覚だったんだよね。
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- 金縛りにあってしまったような?
- 小島伸幸氏
- 予測を外された時は動けないこともありますが、これは予測は当たっていたはずなんだけどな(笑)。こっちくるだろうなと思っていたところに来たし、実際は速いんだけどシュートもコマ送りに見えた。なのに何もできずに終わったのが、今でも不思議でならないんですよね。まぁ、蹴る前から負けてたんだよねきっと(笑)。
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- まさに「神様の一撃」ですね。では、いよいよ第2位です。
- 小島伸幸氏
- 2位もフリーキックです。エドゥー・マランゴンにアウトで決められたフリーキック。
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2位
「エドゥー・マランゴンにアウトで決められたフリーキック」
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- 左足の魔術師ですからね。あの距離をアウトで蹴ってくるのは、ちょっと考えられません。
- 小島伸幸氏
- よく見ると、壁に入っている信藤(健仁)さんがよけてるんだけどね(笑)。ただこのフリーキックには布石があって。このひとつ前の節の試合で磐田の森下(申一)さんがエドゥーにインカーブでやられているんですよ。
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- 伝説の40メートルフリーキックですね。
- 小島伸幸氏
- そう。だから、これもインカーブ用の壁の位置なんですよ。アウトで蹴ってくると分かっていれば、壁はもっと右に寄っているはず。ただあのときは森下さんがやられたイメージが強くて、インカーブですごいのが飛んでくると警戒していたわけ。そしたらアウトで蹴ってきた。
- Jリーグ.jp
- 決められたあとの小島さん、凄く良い表情してますね。
- 小島伸幸氏
- えー、そっちかよーって感じだったもん。アウトなのー?っていう。アウトでこんなスピードボールを、しかも正確に蹴れる選手はなかなかいないよね。本当は磐田戦のフリーキックの印象だけじゃなくて、いろんなものを見ないといけなかったんですよ。
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- いろんなものとは?
- 小島伸幸氏
- 例えば助走を見れば、これはアウトで蹴ってくるというのが分かる。そういった部分までしっかりと見ておけば対応できたかもしれない。この後にエドゥーと対戦した時には、蹴る前に壁を右に動かしたり左に動かしたりと、駆け引きしたのを覚えています。でもエドゥーの嫌なところは、アウトカーブ用の壁にするとインカーブの助走をしてくるし、逆にすると戻してくる。1回のフリーキックで3、4回壁の位置を変えたこともありましたよ(笑)。
- Jリーグ.jp
- いたちごっこですね。
- 小島伸幸氏
- まあどっちにしろ、壁の上を超えてきちゃうんですけどね。インでもアウトでも正確に蹴れるわけだから。
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- やっぱり、横浜フリューゲルスと対戦する時は気を遣いましたか?
- 小島伸幸氏
- 自陣でフリーキックを与えたらやばい、というのはありましたね。30メートルくらいの距離なら、普通に枠に飛ばしてきますから。このフリーキックもそんなに曲がってないけど、取れないところを確実に射抜いていますからね。
- Jリーグ.jp
- それではいよいよ第1位を発表してください。おそらく、あれかとは思いますが。
- 小島伸幸氏
- そう、あれです。エムボマです。。
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- あのシュートはJリーグ史に残るスーパーゴールですからね。
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1位
「エムボマのJリーグ史に残るスーパーゴール」
- 小島伸幸氏
- それを決められたのが僕です(笑)。改めて見返しても、身体能力の高さには驚かされますし、後ろから浮かせたボールを枠に飛ばせる選手なんて、まず日本にはいなかった。見てもらえば分かるように、僕はシュートが飛んでくると思ってない。一応構えてはいますけど、ジャンプが『欽ちゃん飛び』みたいになっている(笑)。
- Jリーグ.jp
- たしかに、反応はしていますが取る気がないというか。
- 小島伸幸氏
- マリオがピヨーンと飛んだような感じでしょ(笑)。来るとは思ってないから、形だけ飛びましたよ、という感じで。
- Jリーグ.jp
- ちょっとこれは、反則ですよね。
- 小島伸幸氏
- 空中のボールをバランスを崩さないでコントロールしているのはやっぱりすごいし、しかも少し戻りながらのボレー。これは衝撃的でしたね。
- Jリーグ.jp
- GKとしてはどうしようもないですよね。
- 小島伸幸氏
- もしかしたら油断はあったのかもしれないですけど、まあ、どうしようもないですね(笑)。本当にいつ見てもすごいゴールだと思いますよ。これ以来、万博が若干苦手になりました(笑)。
- Jリーグ.jp
- 試合後のチームメイトの反応などはどうでしたか?
- 小島伸幸氏
- この選手はヤバいっていう話になりましたよ。ガンバとやる時は、ここを抑えないと絶対に勝てないなと。でもエムボマを抑えに行くと、今度は松波(正信)にやられちゃうんだけどね。
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- これほどのシュートを決められると、GKとしてはダメージが大きいのでは?
- 小島伸幸氏
- いや、ミスによる失点のほうがへこみますね。逆に、ここまで凄いと、しょうがないって割り切れる。あれは取れない、次、次って(笑)。
高卒ルーキー城彰二にもやられていた!
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- 5位から1位をご紹介いただきましたが、それにしても、インパクトのあるゴールが多かったですね。
- 小島伸幸氏
- 結局覚えているのは、自分の想像を超えるようなもの凄いゴールか、俊哉に決められたような、止められるって思ったのに、駆け引きで負けてしまったゴールですよね。
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- ほかにもそういうゴールはありますか?
- 小島伸幸氏
- 城(彰二)くんが、高卒1年目でデビューから4試合連続ゴールの記録を作った4試合目のゴールだったんですけど、そのシュートも俊哉にやられたのに近かったかな。
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「高卒1年目城彰二のゴール」
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- 高卒ルーキーに裏をかかれてしまったと?
- 小島伸幸氏
- そう。当時僕は29歳で、相手は高校を出たばかりの新人。1対1になったところで、大人がガッとプレッシャーをかければ慌てて外すだろうと思って飛び込んでいったら、ダブルタッチでパンパンと交わされちゃったんですよ。やべっ、こいつ落ち着いてる~って(笑)。このゴールをきっかけに、根本的な考え方を変えないと俺は成功できないなと思うようになりましたね。
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- というと?
- 小島伸幸氏
- この年はベルマーレが昇格した年だったから、僕にとってもJリーグは初めてのシーズンでした。日本のトップのレベルでは、たとえ高卒1年目だろうとレベルは高い。だから年齢差とか、一切考慮したらダメなんだと思うようになったわけです。
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- 高卒ルーキー相手と言えば、中村俊輔選手が1年目の時に初めてフリーキックを決めた相手も、たしか小島さんだったような・・・・。
- 小島伸幸氏
- そうです。中村俊輔くんにプロで初めてフリーキックを決められたのも、僕です(笑)。実は次の年にも同じようなところから決められてるんですが、彼のフリーキックはまったくタイミングが合わないんですよ。
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「中村俊輔がプロで初めて決めたフリーキックとその翌年に決めたフリーキック」
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- 蹴り方も特徴的ですからね。
- 小島伸幸氏
- 普通、助走は見ていれば、いつ壁の上からボールが出てくるか分かるんですけど、俊輔の場合は今出てくると思っても、出てこない。違うところを狙ったのかなと動きを止めると、思っていたところから出てくるんで、「あれっ?」となっちゃうんですよね。本当に彼はタイミングが合わなかったなあ。ちなみに2本目にやられたほうが、俊輔も完璧だったって言ってましたよ。
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- 自身の失点シーンを改めて振り返ってみていかがでしたでしょうか?
- 小島伸幸氏
- こういう経験が、僕を成長させてくれたんだと思いますよ。こんなシュートを打つ選手が実際にいるんだなとか、自分の考えの範疇を超えることをやってくる選手もいる。そうすると、これくらいじゃダメなんだなと思って、もっと練習し自分もレベルアップする。
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- 数々のゴールを決められながら、小島さんは代表にまで上り詰めていったわけですね。
- 小島伸幸氏
- 僕がJリーグに初めて出たのが29歳。そこから、素晴らしい選手たちと対戦しながら、成長させてもらいました。まあ、ただ代表選手としては、取られすぎではあるんですけどね(笑)。
小島伸幸(こじま のぶゆき)
1966年1月17日生まれ。群馬県前橋市出身のゴールキーパー。1988年に日本サッカーリーグのフジタに加入、Jリーグが発足しベルマーレ平塚(現湘南ベルマーレ)に在籍。1995年に日本代表に選出する日本を代表するゴールキーパーに。引退後も解説者など様々分野で活躍。
【成績】 | |
---|---|
1988年 - 1998年 | :フジタ/ベルマーレ平塚 |
1999年 - 2001年 | :アビスパ福岡 |
2002年 - 2005年 | :ザスパ草津 |
【日本代表】 | |
---|---|
1995年 | :3試合 |
1996年 | :1試合 |