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ニューロビジネス思考で炙り出せ!勝てない組織に根付く「黒い心理学」 渡部幹

過労死を防ぐ「マインドフルネス」瞑想の驚きの効果

渡部 幹 [モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授]
【第62回】 2016年11月9日
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ハードワークに疲弊しているのは
日本人もアメリカ人も同じ

 本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。

前回の記事では、「幸せな働き方」について述べた。

マインドフルネスは心のみならず、脳の疲労も取ってくれる効果があり、世界中で注目されている(写真はイメージです)

 筆者が述べたのは「幸せな働き方」を実現するためには、(1)やりたいことを具体的に描き、(2)自分の実力と付加価値を客観的に評価し、(3)必要なスキルと能力を身につけることが必要――ということだった。その記事を読んだ長年の友人から、感想をもらった。内容を簡単に言えば、

 「お前の言ってることはもっともだが、幸せに働くなんて、今の日本では無理。というか、高度成長時代でも、大多数の日本人の働き方は、幸せそっちのけのエコノミックアニマルだったぞ」

 というものだった。

 確かにうなずける批判である。会社や公共組織に勤める人々が、自分の裁量でできることは限られている。戦後の日本の雇用システムの中で、そういう選択ができる機会は狭められ、それが制度化していったため、今その弊害が顕著になっている。仮に自分の幸せな働き方をイメージできたとしても、それを実現できる選択肢は少ないのかもしれない。ただ、幸せに働くことが実際には「とてつもなく難しい」ことであっても、筆者個人としては「幸せに働ける可能性」を追うことは、止めてはいけないと思っている。

 そんな中、アメリカにいる別の友人からは、こんなコメントをもらった。

 「今、アメリカも似たようなもんだ。アメリカ人は、自分が大変だとは認めたがらないから、表向きは涼しい顔してるけど、忙しすぎてヒーヒー言ってるやつは、結構多いよ。さすがに過労死まではいかないけどね」

 前回の記事でも触れたが、グローバル化の進行とともに、企業は一時も立ち止まれなくなっている。常に創造性を発揮し、新しい展開を考えなければ、生き残れないのだ。

 家電市場における日本メーカーの没落が良い例だ。カルロス・ゴーン氏も最近のインタビューで「実は私は変化が嫌いだ」と述べている。にもかかわらず、彼が改革を行うのは、改革しなくては生き抜けないことを知っているからだ。そして、改革者として世界有数の成功を成し遂げた彼でさえ、それが嫌いなのだ。

 この意味で、日本のみならず、世界のビジネスパーソンは、昔よりもはるかに時間とプレッシャーと責任に追われるようになってきたのだと思う。その中で「幸せに働く」ことはどんどん難しくなっている。

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渡部 幹(わたべ・もとき)
[モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授]

UCLA社会学研究科Ph.Dコース修了。北海道大学助手、京都大学助教、早稲田大学准教授を経て、現職。実験ゲームや進化シミュレーションを用いて制度・文化の生成と変容を社会心理学・大脳生理学分野の視点から研究しており、それらの研究を活かして企業組織にも様々な問題提起を行なう。現在はニューロビジネスという大脳生理学と経営学の融合プロジェクトのディレクターを務めている。代表的な著書に『不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか』(共著、講談社刊)。その他『ソフトローの基礎理論』(有斐閣刊)、『入門・政経経済学方法論』、『フリーライダー あなたの隣のただのり社員』 (共著、講談社)など多数。


ニューロビジネス思考で炙り出せ!勝てない組織に根付く「黒い心理学」 渡部幹

この連載の趣旨は、ビジネスマンのあなたが陥っている「ブラック」な状況から抜け出すための「心」を獲得するために、必要な知識と考え方を紹介することにある。社員を疲弊させる企業が台頭する日本社会では、「勝てない組織」が増えていく。実はその背景には、マクロ面から見た場合の制度的な理由がある一方、日本人の持つ国民性や心理もまた、重要な要因として存在する。そうした深いリサーチが、これまで企業社会の中でなされてきただろうか。本連載では、毎回世間で流行っているモノ、コト、現象、ニュースなどを題材として取り上げ、筆者が研究する「ニューロビジネス」的な思考をベースに、主に心理学や脳科学の視点から、その課題を論じていく。あなたは組織の「黒い心理学」を、解き明かすことができるか。

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