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相談卓
最終発言2016/10/25 03:06:58 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/10/22 21:46:19
オープニング
●霧中
しとっりと葉を濡らした針葉樹林が続いていた。その隙間を埋める様に青ざめたような霧が辺りを覆っている。霧は濃いというより、まるで世界そのものを塗りつぶさんとする絵の具のように広がっていた。
下草は低く、草を踏む音は霧に吸い込まれるようにして消えていく。
ふと霧に黒々としたものが現れる。続いてそれが人影になり、人になった。
「ふぅ。まったく気がめいるな。みろよ、この青い霧。まるで冥界から漏れ出てるみたいだ。なんか霧から視線を感じる」
能力者らしい様相の男が言った。男の後ろのかろうじて影として認識できるぐらいの位置から声が返ってくる。
「ライヴスが充満している霧なんてものだからな。おまけに通信などの連絡ができないというおまけつきだ。人がいない所だったのは幸いだな」
「GPSのおかげで目的地までは何とかたどり着けそうではあるが。……おい、そこに大穴があいていて地獄に繋がってるなんてオチはないだろうな」
「いつからそんな信心深くなったんだ? 馬鹿らしいが考えるなら、地獄に似た他の世界、例えば英雄たちが来た世界なんてパターンだな」
「どっちにしろ地獄なのかよ」
「お前が言い出したんだろうが。一番ありうるのは人為的あるいは、愚神だろ。それでここまで遭遇していないのは奴が迷っているからと見た」
「そりゃあいい。迷子センターまで届けるのが俺達の仕事ってわけだ」
変わらない景色のなか、風が吹く。ジワリと水を吸って重くなっていた衣服が風に少し揺られる。霧は固定されているかのように晴れない。
男が寒そうに身を縮こませながら、その寒さを埋める様に声を出す。
「一旦休憩しないか。この霧の中進んでいくのは随分気がめいる」
「そうだな。なら、何処か建物を探すか。霧も建物の中までは入ってこないようだしな」
「山小屋ぐらいならあるだろう」
「思ったよりは長丁場になりそうだな。もう日をまたいじまう」
「俺の場合悪いことばかりじゃないさ。嫁の糞マジい飯から逃げるいい口実ができたしな」
「お前も大変だな、おい。自宅が毒物の製造機になってるとはな」
「ああ、そのくせ食ってやらんと拗ねる。あいつに拗ねられると、もう俺じゃあどうしようもない」
「惚気か。そこまでにしとけよ。独り身のつらさをお前は……ッ止まれ」
先頭の男が手で後ろにいた男を制する。
静かになった森の中に足音がかすかに。それは徐々に大きくなっていく。
男たちがそっと武器を構え、息を殺す。
霧を断つように現れたのは剣だ。担い手もなく独りでに浮いている……いや抜身の刀身が迫ってきている。
袈裟に切り下される凶器を受けながら先頭の男が声をあげる。
「敵だ! おそらく従魔。お前は後方の警戒を頼む!」
男はつばぜり合いになっていた凶器を弾き、叩き落とした。足で凶器を地面に押さえつけ、何発か銃弾をお見舞いする。
「次は持ち主もつれてくるんだな。お前のような奴を使いたい奴もいないだろうがな」
捨て台詞もそこそこに後ろにいた男に声をかける。
「はーこれは一回体勢を立て直した方がいいかもしれんな」
「……」
「おい、返事ぐらいしろ」
先頭の男が後ろを振り返る。視認できる程度の距離にあった人影が見当たらない。しかし、代わりに手が見えた。霧の中から突き出すように。同時に這いつくばるように地面にあった。
手を辿っていくと、胸を血で濡らした男が倒れていた。その隣に天を突くような偉丈夫。手には血がしたたる刃。
頭に撃鉄が落ちるように、状況がかみ合う。弾丸の代わりの悲鳴を押し殺すと、偉丈夫に向けて発砲しようとする。それより速く、偉丈夫が霧の中に滑るように消えていく。
「ちくしょう、ちくしょう。何んだあいつは。くそ、殺りやがった。いいやつだったのに」
言葉に答える様に、男が霧の中の影を捉える。人外じみた速度で滑るように霧を泳いている。サメのヒレのように霧から表れては消え、また現れる。
「そこか! 消えちまえ」
発砲と共に地に落ちる凶器。まだ、血塗られていない。
死の前の直観か。男が後ろを振り返るのと、赤い刀身を鈍色に光らせる武器とそれを振るう偉丈夫を見たのは同時だった。
軌跡は男を捉え、血を曳きながらそのまま霧に消えていく。激しく吹き出す血が霧と混ざり赤く染めた。
●ブリーフィング
「以上が回収された戦闘記録になります。お察しの通り、愚神の排除と霧の異常発生の原因究明と解決が依頼となります」
「具体的な行動指針ですが、それは先遣隊を継ぎます。その後の観測で霧には一定の流れがあることが分かっており、それは中央からであるという事実も判明しました。何らの原因が中心にあるとみて間違いないでしょう」
「問題なのは霧が現在も拡散中であることです。一定の流れというのは外に向かってのもので、街に達するのも時間の問題ということです。通信機器の無効化だけでも大損害となることは間違いないでしょうし、ライヴスが人体に悪影響を与えることも確認されています」
「これ以上の被害を出さないためにもご協力をお願いいたします」
解説
目的
霧の発生を止める。愚神の排除
場所
人里離れた山。なだらかなどちらかというと丘という方がしっくりくるような傾斜で標高もそれほど高くはない。登山道として道が何か所か整備されている。
霧の発生源と思われるところは山の中腹辺りであり、霧の範囲外である麓辺りから作戦開始となる。
状況一
霧はライヴスを帯びており、能力者の五感に干渉する。
具体的には自身から離れるほど遠距離攻撃の命中率が激減していく。
対象と自身の距離により変化し、一スクエア離れるごとに命中が100減少した状態で扱われる。
状況二
敵は霧に潜伏しており、遭遇時発見するためには下の方法のどちらか一つを選択し、成功しなければならない。一団の中で一人も成功者がいない場合、奇襲として扱い、なおかつ一団全員を含んだ乱戦エリアを形成する。
視認又は探知できなかった場合最初のラウンドの間、対象を認識することができない。(攻撃対象としてとれない)判定次第で従魔だけを認識し愚神を認識できないこともありうる。
1霧の影響に対する抵抗
特殊抵抗+1D10
15で従魔の位置を探知
20で愚神の位置を探知
2 命中による視認
[(命中/10)+1D100≧
120で従魔を視認
150で愚神を視認
敵
愚神 刀を持った偉丈夫。機動力と近接戦闘に長ける。クリーンナップスキル「一撃離脱」所持
「一撃離脱」:クリーンナップフェーズ中にスキル使用者を移動力+1D10移動させる。
従魔 刀を模した従魔。囮、攪乱、愚神離脱時の援護などを行う。愚神とのコンビネーションが強み。
総数20ほど。一度に使えるのは5~8体まで。
霧発生装置 中心に鎮座。戦闘力は皆無だが、耐久性に優れる。
敵行動パターン
愚神は敵と交戦すると2~5ラウンドを目安に離脱を試みる。奇襲回数は2~4で愚神の状況や従魔の数によって上下する。
霧発生装置まで能力者が到達時、霧発生装置を囮に全力で切り殺しにかかる。
プレイング
リプレイ
●安全帰還限界点付近
薄ら青い霧が果てまで広がっていた。霧が世界中を覆っているかのようにすら思えてしまう。霧が木々の合間に満ちる様は、普段なら神秘的な光景として見られるのだろうが、光一つない今はただただ不気味だった。静止した世界に足音が響く。
「視界は不十分、私はある程度影響は感じませんが……」
零月 蕾菜(aa0058)が注意深く辺りを見回す。非物理的な干渉に強い彼女にとっては、霧はそれほど支障となってはいないようだ。霧をスクリーンに共鳴状態に浮かびあがる赤や黄や黒の幻影が色濃く映える。
(一種のドロップゾーンが形成されていると思う方がよさそうです)
十三月 風架(aa0058hero001)が現状を分析する。戦闘がまだ遠いと感じているのか、分析というより世間話でもするかのようなおっとりとした話し方だった。
「影響を受けにくいなら、私たちが皆さんのカバーをしましょう。これ以上傷つく人がでないように」
「明らかに罠! って感じだね」
志賀谷 京子(aa0150)が可愛らしく英雄に語りかける。
(わたしたちを狩るつもりなんでしょう)
アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)が返事をする。
「どうせなら舐めてかかってきてくれたらいいのに」
(いずれにせよ、することに変わりはありません)
京子はお嬢様然とした雰囲気から一転して、好戦的な笑みを浮かべる。
「ふふ、借り換えされる恐怖を刻んであげるよ」
槍の名手の名を冠する三メートル超の槍を抱えるのは異形の掌。巨人の手を連想させるその大きさは、三メートルという規格外の槍の長さと釣り合っていた。その主はヴァイオレット メタボリック(aa0584)とノエル メイフィールド(aa0584hero001)だ。ノエルがヴァイオレットに声をかける。
「映像を見た限り、厄介な敵のようじゃが。まあ、やれることをやるだけじゃ」
「そんな不安がらんでええじゃろう。まったくおぬしは冷淡に見えて、根っこのところは常識人じゃのう」
ヴァイオレットの様子を察してかさらに声をかける。からかうような響きをあえて相手に伝える。相方の
情熱的な感情に火をつけるためだ。目論み通り相方の雰囲気が変わっていた。熱がこちらまで伝わってくる。満足げな笑みをノエルは浮かべた。
「『また』濃霧絡みの索敵妨害……対応がだるいことこの上ないっていうのに」
Arcard Flawless(aa1024) がうんざりした様子でこぼす。
「おまけに音の反響も匂いすら不鮮明にできるなんてな。ほら、投げた石の反響が反対から聞こえてくる」
嗅覚や音の反響での察知を試みていたArcardがお手上げだといわんばかりに肩をすくめる。
Iria Hunter(aa1024hero001)が普段意思疎通に用いるカンペに何かを書こうとするが、湿った紙に悪戦苦闘している。
「書けても読めないだろうし、止めておけ」
Arcardが制止した。
一団から心なし離れる様にして霧に紛れているのは人影があった。
殺気を散し、下草がたてる音を殺し、暗殺者のように存在を消しているのは能力者の魅霊(aa1456)。それと言われなければ、近くにいる能力者達ですら気付かずに過ぎてしまいかねないほどだ。
「今回、私たちは影として動かなければならない。霊力起因の霧に対してどこまで紛れられるか分からないけど……」
S.O.D.(aa1456hero002)が主に助言する。
(毎度ながら敵の戦場か。状況は一つずつ覆すほかあるまいが。歯痒いものだ)
一つだけやたらにちっこい影があった。小さい姿に見合った狭い歩幅を埋めるため時折、早歩きになって一行について行っている。
「さあ、始まるざますであります」
「いくでがんすであります」
美空(aa4136)とひばり(aa4136hero001)の陽気な掛け合いの後。
「フュージョン」
と叫ぶとともに既視感のあるポーズで共鳴した。とともにひばり愛用の軍用ヘルメットが変形して現れたパラポラアンテナで、敵を探ってるようなジェースチャーを時折している。
蕾菜やArcardの付近には依雅 志錬(aa4364)がいた。自分の耐久力のなさをカバーしてもらおうというのが狙いだ。闘う為に作り上げられた共鳴実体はよく切れる刃のように鋭さを纏っている。思わず、触れることに躊躇をするような外見とは裏腹に性格は……。以下、能力者が集まった時のワンシーン。
「主に体力面でご迷惑をおかけすることになりそうですが……。よろしくお願いしますね先輩っ」
と、S(aa4364hero002)が人懐っこさそうな笑顔で頭を下げる。
「……ん。出来るだけ、がんばる」
それに続いて志錬。
しっかり者の妹と無口な姉のような関係だった。
「装置を壊しに行く過程で奇襲されてやられそうアル。仲間と連携して出迎えるほう重視でいくアルよ……」
少し心もとなさそうにいたのが呉 淑華(aa4437)。手元には棒の両側から刃が出ている武器がある。
「得物は棒と同じように扱える。そら、棒術ならお手の物だろう」
いつも通りの尊大な口調の郭 雲深(aa4437hero001)の言葉。
「そうアルね。日ごろの鍛錬の成果を見せるときアル」
いつも通りの言葉、扱いなれた武器、よく知る相方。気を取り直したように、淑華が前を向いた。
●遭遇
かろうじて安全とされていた領域を抜け、能力者達は霧の濃い方濃い方に進んでいく。それにつれて、木々の輪郭が妖しくゆがんだり、たった今踏んだ足音が何処か別の方向で聞こえたりと怪異もより深まっていく。異常な空間がじわじわと精神を削っていく中、霧が不意に歪んだ。
それを察知した能力者達が構えると共に、美空が小さい体をいっぱいに膨らませて声をあげる。
「五時方面から敵であります! 接敵までわずか!」
美空の声と霧を割る飛来音。反射する光を置いていくような速度で飛び出してくる様々な凶器。
その先には頭数を増やすためにあえて共鳴状態を解いていた淑華。声に反応して共鳴こそ間に合いはしたものの、その周りには宙に浮く剣。
(狙われちまったか。だが、今回はメインの奴らの足になれればいい。割り切ってやるか)
淑華は虎を思わせる獰猛な笑みと共に従魔を迎える。さらに接近する風切音。未だ位置を察知できていないが、咄嗟に身をひねったのは野生のカンか。
長くなった金髪が風に攫われる。巻き上げられた髪の向こう側には間髪入れずに逃げ道を塞ぐように長剣が迫る。
迸る血。淑華の脇腹に熱と痛みが広がる。ぐらっと体勢が崩れるが、棒をつき身体を支える。痛みで逆に鋭くなった感覚が、自身に向かう三本目を感じる。というより、視認できるほど近くにあった。ふらつく足取りと敵の攻撃。それぞれがかみ合う。
(不味い。避けきれねぇ)
直撃を確信し、筋肉を引き締め痛みに耐えようとする刹那、鮮やかな色がチラリと視界に入ったと思うと、それが人型になった。
「私の前であまり人を、傷つけられるとは思わないでください」
四肢と頬をそれぞれ五色の神獣を纏った蕾菜の聖杖が刃と淑華との間に割って入る。ギンと硬質な音が起こる。従魔は強固な岩に当たったピッケルしかり、弾かれて宙に浮く。
蕾菜の隣をすり抜けて従魔に駆け寄ると淑華が従魔を切りつける。ぐらっと揺れた従魔を、美空が自分の腰丈以上ある盾からひょっこり顔を出して槍を突き出す。槍は従魔を捉えそのまま貫き通す。従魔は力をなくしただのモノのように地に落ちた。
「大丈夫でありますか。今応急手当をするであります」
現在進行形で血だまりを作っている淑華に美空が治癒の光をおくる。柔らかい光に包まれた脇腹から血の出血がとまり、次に傷跡が薄れていく。
「悪い。足を引っ張ちまったか」
淑華が蕾菜と美空に声をかける。
「いえ、こちらこそ敵の第一波を受けてくださって助かりました」
「衛生兵は美空の役割であります」
「俺も何とはなしに敵の位置が分かるようにはなった。今度はこっちが食い破ってやる」
「背中は任せてください」
「怪我をしたときは美空にお任せであります」
蕾菜は戦旗を高々と掲げる。美空が盾を構える。たなびく旗を背に淑華が次の獲物のもとに飛び出していった。
「見えているなら撃つだけ撃て。ないよりはマシだ」
Arcardは檄を飛ばしながら、自身もショットガンで従魔を狙う。おぼろげにしか見ない目標に向かっても弾幕を張る。 銃弾は空を裂き、従魔達は弾幕の間をすり抜ける様に距離を詰めていく。近づくにつれ、音が切り替わり硬質な音が混じりだすが、大半の影は健在のまま霧にあった。その霧が吹き飛ぶ。あとからロケットの発射音が追いかけてくる。
「これで射撃を封じたつもりならまだまだ甘いな!」
京子が銃口から煙を上げているロケット砲を再装填する。
(けれど博打はいりませんよ)
「おーけー! 距離を詰めて確実にね」
次から次に撃っていくロケット弾は、精密爆撃のようにピンポイントで従魔に当たる。その爆風がこちらまで届くたびに煌めくような髪が波打っていた。
吹き飛んだ霧が水がしたたるように再び集まってくる。とそこを愚神が白光をたなびかせながら霧を突き抜ける。地をすべるように一息で距離を詰めていく。
愚神のよどみない進行を遮る影。志錬が愚神をけん制するように放った矢がわずかに愚神の勢いを乱れさせる。
ついで、次弾。矢を三本手の指に挟むように持つと、一息で三本の矢を放つ。うち一本が霧の中を正確に進み矢は愚神の頭部に向かう。愚神は左腕で頭部に向かった矢を受ける。攻撃されたことで敵意が向いたのか志錬の方に向かって疾駆する。
志錬がSに問いかける。
「―手ごたえ、あった。……ソル、何か、掴めた?」
(愚神への命中は確認です! 効果は……軽微ですが、腕で庇ったのは頭が弱点だからかもしれません。引き続き分析します!)
「分かった。次は心臓部。それとArcard頼んだ」
もはや目前まで迫っていた愚神だが、宣言通りArcardに任せる様に一歩身を引く。
「むしろ敵から来てくれるなら好都合だ。近くなればこの忌々しい霧の影響を受けないからね」
背後から襲われることを嫌ったのかArcardに愚神の刀が鈍く光る。すれ違いざまの一閃。残光すら追い切れない鋭い音と風。Arcardの肩から腰に駆けてバッサリと血の線が走る。
血が吹き出すよりも尚速く愚神が足を踏みかえ、刀を構えなおす。そして第二撃が放たれる……前にに愚神の目前に銃口が突きつけられる。常人なら気絶してもおかしくない状況の中、Arcardは表情を歪めて銃を突きつけていた。撃鉄が落ちる。愚神は咄嗟に銃を跳ね上げ飛び退く。追撃する形になった志錬の攻撃をステップで避けるとざっと辺りを見回してからArcardの視界から消えていく。さすがにそれを追う余裕はないらしくその様子をArcardが言葉で見送る。
「だるい奴だ。逃がしちまった」
傷跡からは鮮血が流れ、命がこぼれだしていく。光がArcardに向かって飛ぶ。
「相変わらず、随分無茶しちょるのう」
光のもとはノエルからだった。そのまま、治療を邪魔されないように警戒しながらArcardの様子を窺う。
「いや、出遅れたわしが言う台詞じゃあないがのう。敵の位置が分からんことにはこうやって仲間の方を助けるしかないじゃろう」
ノエルが今度は光を線として当てるのではなく、膜のようにして纏わせる。纏われた光は温かくひかり、Arcardの傷が時間を逆戻しにしているかのように治っていく。
「これで大丈夫じゃ。敵さんはどうやら退いているようじゃし、とりあえずはしのげたのう」
愚神が霧に溶け込むように離脱しようとしたその時、愚神の隣に不意に魅霊が現れる。移動を控えたおかげで、霧に自然に溶け込んだ魅霊は虚を突くためにじっとチャンスを待っていた。仲間が戦っている音を背にもどかしい時間の末のチャンスだった。
「霧を利用できるのは貴方だけじゃない」
無機質な声が刃を追う。機械じみた精密な動作で毒とかしたライヴスを纏ったショーテルを振う。愚神は咄嗟に太刀受けするが、その太刀を毒が伝う。それを振り払うように魅霊を弾き飛ばす。愚神の腕の一部がかかすかに変色し、内側から弾ける様に出血しだした。
愚神はそれを無視し、そのまま霧の奥に奥に移動していく。従魔たちも徐々に能力者から離れていく。この短時間で聞きなれる様になったロケット砲の音が聞こえる。遠く離れても依然、精度はそれほど落ちていない。幾つかの従魔の退路を炎でふさいでいく。
「今度は私たちが狩る番ね」
京子がロケットをぶっぱなしながら楽しげに笑う。獲物を見つけた猫を思わせる笑いだった。
●幕間
敵が被害を被りながらも完全に撤退した後、その残骸の形状を注意深く記憶に止めようとしていたノエルが一つの発見をする。
「おかしいのう。わしが見たときは従魔はもっといる様に思ったんじゃが」
そして、京子のロケット砲で荒らされた木の中でかろうじて無事だった木が視界に入る。そこからぶら下がってピカピカ光る鏡を見つける。得心が言ったとばかりに頷くノエルが他の能力者達に伝える。
「――つまり、鏡でダミーを作っているということでありますか」
美空がぴょんぴょんと跳ねる様にして、ノエルの手の内の鏡を見ようとする。
「数は少ないようじゃがのう。霧の中で光るものというものはいかにも目立つ……じゃが、光れば逆に敵を引き付けられるということでもあるじゃろう」
「ああ確かに、動いていない従魔がいて変だなーって思ってはいたのよね」
そういえばっといった体で京子が頷く。
「では、対策は動かない光源は狙わないっということになりますね」
見張りについていた蕾菜が振り返る。
「それほど数もねぇんだろう? なら、その対策でいいだろう」
淑華がそれに答える。
「こだわると逆をとられるかも……。それぐらいの軽い対策でいい」
魅霊が影から抜け出てから、同意する。
「それと……愚神の弱点はやっぱり頭だった」
志錬がぽつりと伝える。
「銃声で伝えるんじゃなかったか?」
Arcardが若干残念そうに問いかける。
「……情報共有できる時間があるなら、口頭の方が確実」
●中心部
それから能力者達は二度の襲撃を受けるも無事退け、中心部まで到達することに成功する。
中心部はもともとキャンプ場があった場所で、木がそこだけ伐採され、少し開けた場所になっている。そして、その中央には全長5メートルほどの装置があった。巨大な発電機のような外見で稼働音が、暴風のように辺りにまき散らされている。開閉部が側面にあり、開閉するたびに濃い霧を放出している。
愚神は姿こそまだ認識できないが、こちらの様子を窺っているのは確実だろう。
その死地にArcardが無造作に踏み込んでいく。
「これ見よがしにデカい餌か……」
他の能力者達も適度に距離を取りつつ踏み入っていく。
キャンプ場は下草も綺麗に刈り取られている。今まで絶えず耳についていた草同士がこすれる音がなくなる。
そうなると、静かに押し殺された空気が漂う。自身の鼓動を打つ音が聞こえる。Arcardが逆手に双剣を持つと勢いよく、装置に切りつけた。
瞬間、装置の開閉部が音を立てて開き、そこから従魔が飛び出す。
文字通り目と鼻の先に出現した無数の影はうかびがると引き絞られた矢のように一直線に飛ぶ。能力者達に入り込み、瞬く間に自身の間合いにとらえる。
混戦の様相を呈してきた中、その合間を滑るように縫う影があった。その影は一番突出していたArcardに迫る。
「愚神を……止める」
再び霧に身を紛らわせていた魅霊が愚神の間合いに入り込む。ライヴスの針を飛ばしそれでもって愚神の動きを封じ込めにかかる。
が、愚神の手にしていた刀が独りでに浮くと愚神を庇うように進路をかえる。ライヴスの針で雁字搦めになった刀を背後に、愚神が徒手空拳でも動きを止めない。進路上にいた従魔を無造作に掴むとそのまま振るう。Arcardはその刃に自身の双剣を交差させて受ける。一際高い音の中、鉄と鉄が拉ぎ合う。数秒の拮抗の後、Arcardが相手の刃に倒れ込むようにして装置に押さえつける。刃を押さえつけたところからまたジワリと出血が始まる。
「さあ最後の決戦だよ。誘い込まれたのがどっちだったのか、はっきりさせようじゃない」
狙撃銃に持ち替えた京子がそこを狙う。気を取られていた愚神がそれでもArcardの身を楯にするようにして躱す。と、次の瞬間愚神の目が揺れる。京子が装置に跳弾させ愚神に命中させていた。背後から貫かれた愚神が、数秒の思考停止に陥る。わずかな隙間ができる。
「捕まえた」
口が裂けそうなほどの笑みと共に、自身に刃をを突き刺す。刃はArcardを貫通し、愚神を装置に縫い付ける。
体格に勝る愚神はすぐに武器ごと押し返してその拘束から逃れたが、腹部からは血が落ちてくる。染みが地面に広がっていく。と、愚神の周辺が不意に明るくなる。
「ここで終わりにしましょう」
蕾菜から放たれた幻影蝶は、愚神を中心にあたりを淡い光で包む。蝶が一羽ばたきするたびにライヴスが愚神や従魔から抜けて蝶に集まっていく。蝶に見入ったように愚神の動きが見るからに重くなった。
「衛生兵であります。今傷を塞ぐであります」
装置に寄りかかるように体を支えているArcardを庇えるように、美空が盾に隠れながら近づいて治癒の光を飛ばす。盾でArcardを覆いかくすようにしながら、治療を続ける。
主の危機に駆け付けようと従魔のいくつかがが一つの方向に向かって動き出す。
「あっちに行かせるわけにはいかんのじゃ」
その流れをせき止める様にノエルがいた。槍をすばやく振り回し槍の軌跡で十重二十重の結界を作り出す。その領域に入ると槍にぶつかり弾き飛ばされる。
「邪魔をさせるわけにはいかねぇ」
淑華がノエルを抜いた従魔たちの周りを駆け抜けていく。野生の虎を思わせる機敏さですれ違いざまに棒で従魔を打っていく。
「これ以上……やらせない」
魅霊が一点に精神を集中させた一撃は愚神の利き腕を貫く。愚神の腕から力が抜ける。力が抜けたのが伝線したように愚神が膝から崩れ落ちた。持ち手を失った従魔が宙に一度浮き、次の瞬間にただの剣となり、地面に落ちる。カランと虚しい音が響いた。
●デブリーフィング
「皆さんお疲れ様でした。作戦領域の霧の消滅を確認しました。従魔や霧の発生装置なども愚神の撃破と共に、無力化されました。どうやら、霧も含めて愚神由来のものだったようですね。つまり、愚神の撃破でこの一件は解決したとみていいと思います。依頼の完遂本当にお疲れ様でした」
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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