日没後も投光器を使って復旧作業が続けられる道路の陥没現場=福岡市博多区で2016年11月8日午後5時26分、野田武撮影
福岡市のJR博多駅前の市道で8日早朝に起きた陥没事故。通勤時間帯に重なって現場周辺のオフィス街は混乱し、ライフラインの供給停止で市民生活に大きな影響を与えた。市は地下鉄延伸工事との関連を認め、住民からは想定外の災害に戸惑いと怒りの声が上がった。【吉川雄策、青木絵美、佐野格】
ごう音とともに道路が沈み込んでできた穴は、近くの信号機などをのみ込みながらみるみる拡大した。周辺は交通規制が敷かれ、漏れたガスの臭いが立ち込めて物々しい雰囲気に包まれた。近くの自宅兼理髪店にいた女性(72)は「地震のように激しく揺れた。最初の陥没が通勤時間帯と重なっていれば大惨事になった。地下鉄工事が原因なら、どんな工事をしているのか」と怒りをあらわにした。
近くの派遣会社の男性(37)は「会社が入るビルが避難勧告の対象地域なので会社は休みになった。ビルのすぐ手前まで大きな穴が迫っていて怖い」と硬い表情で語った。音楽事務所の男性(52)は「メールや電話が使えず、取引先などと連絡ができない」。8階建てビルで清掃作業中に避難した女性(53)は「陥没が広がっているのでビルが倒壊しないか不安」と語った。
現場周辺ではガス漏れも発生し、福岡市は2次被害防止のために商業ビル10棟に避難勧告を出した。近くの介護関連会社の男性会社員(36)は「ガス漏れで爆発の危険があるので建物から出るように言われた。会社に入ってパソコンが使えないと仕事にならない」と語った。陥没した道路に面した会社で働く同市中央区の会社員、丸岡仁さん(53)は「荷物を取りにビルの中に入ったが、ガス臭いので危険を感じて同僚に解散を指示した」と疲れた表情で話した。
市は避難勧告に伴って市内2カ所に避難場所を設置。福岡市博多区の堅粕公民館には2人が身を寄せた。現場近くの旅館に宿泊していた松江市の安部秀雄さん(86)は「外出先から戻ったところで警察に言われて避難したが旅館に荷物があるので困った」と話した。
薄暗い中、帰宅ラッシュ
九州電力によると、陥没した現場に埋設された電力ケーブルが損傷を受け、周辺などで一時最大約800戸が停電。ビルのエレベーターが使えず、階段を利用した70代女性が転倒して頭などを打つけがをした。順次復旧したが、JR博多駅や福岡空港国際線ターミナルなど大規模施設で停電が続いて混乱に拍車をかけた。九電は9日にも復旧させる方針。
JR博多駅では、JR西日本の管理する筑紫口側の構内や新幹線ホームが午前5時過ぎから停電して駅職員が対応に追われた。始発からエレベーターやトイレの使用を中止し、自動改札や電光掲示板を予備電源で動かしていたが、午後1時ごろから予備電源も完全に停止。暗くなった新幹線ホームの安全確認に手間取り、山陽新幹線の上下線で午後1時過ぎ~午後3時前に約10~30分の遅れが出た。
電光掲示板も消え、駅職員が拡声機で出発を案内した。
混乱は帰宅ラッシュも直撃し、博多駅で新幹線から降りた福岡市南区の男性会社員(57)は「降りたホームは暗くて係員が電灯を持って照らしてくれたが、周りの人にぶつかりそうだった」と困惑。予備電源は午後6時前に復旧したが、その後も薄暗い状況は続いた。
博多駅に隣接する博多バスターミナルは、停電のためビル内の飲食店などが臨時休業したが、バスの乗降エリアだけは電源を確保して高速、路線バスともに運行を続けた。暗くなったビルの出入り口付近では、職員らが懐中電灯などを使って利用客を誘導した。
福岡空港国際線ターミナルでも非常用電源に切り替えたため、飛行機の発着に影響は出ていないが、照明を間引いたり、空調を停止したりしたという。