米国の企業は、ヒラリー・クリントン氏にもドナルド・トランプ氏にも強い不満を感じている。どちらも経済界の問題意識を受け止めていないとの理由からだが、それでもクリントン氏が大統領になるほうがいいと考えている。合計で3万社以上を代表する各業界団体への調査からわかった。
フィナンシャル・タイムズ(FT)が行った調査では、両候補が非難合戦に加え、企業に対する大衆迎合的な攻撃も始めるに及び、米国の企業が失望の度を強めたことが明らかになった。
■「どちらも選べない」45%
米企業の支持率はクリントン氏がトランプ氏を2対1の割合で上回り、5月のFT調査結果から大勢は変わっていない。だが、それよりも多かったのがどちらの候補にも満足していない、あるいはどちらも選べないという回答で、全体の45%に達した。
調査結果は、8日の投票でどちらが勝っても米企業は不安の時期に直面することを示唆している。トランプ氏が勝てば貿易戦争、クリントン氏が勝てば大企業に対する左派の攻撃という不安に火が付く。
「どちらも、とうてい理想的とはいえない。過去のどの大統領よりも下だ」と、アップルやウーバー、ベストバイなどが加入する全米民生技術協会(旧全米家電協会)のゲーリー・シャピロ会長は言う。「ひどい選択肢が2つ、どちらがよりひどいのかという選挙だ」
調査結果は、投票結果が僅差だったり異議申し立てが出たりすれば混乱に陥るという不安とともに、両候補とも膨らむ政府債務の削減策に触れていないことに対する軽蔑感も浮き彫りにしている。
FTはワシントンに本部を置く58の業界団体を対象に調査を実施し、うち18団体から回答を得た。加入企業の総数は約3万7000社、年間売上高の合計は8兆ドルを超える。
一流多国籍企業が名を連ねる団体でロビー活動を率いる責任者は、加入企業のほとんどは「ヒラリー・クリントン氏にまったく興奮を感じていない」と語った。その一因は、クリントン氏が以前は環太平洋経済連携協定(TPP)を支持していながら反対に転じたことだ。この団体の企業にとっては、同氏よりはトランプ氏のほうが落ち着けるという。
「貿易を支持する従来型のもっと企業寄りの候補のほうがよかったということだ」と、この人物は語った。「両候補とも貿易自由化を支持せずという大統領選は第2次世界大戦後で初めてという事実が、かなり強く意識されている」
■トランプ氏を支持、17%
トランプ氏は実業家として出馬したが、貿易協定を破棄する構えを見せ、共和党と支持層の企業との関係をこじらせた。アップルやフォード・モーターなどの海外生産にも批判の矛先を向け、企業ロビイストの影の影響力を糾弾している。
トランプ氏を支持すると回答した業界団体は17%にとどまった。規制と課税の大幅緩和という公約が支持する理由として挙げられている。トランプ氏が法人税の最高税率を現行の35%から15%に引き下げると公約しているのに対し、クリントン氏は課税見直しの有無について語っていない。
だが、トランプ氏支持と答えたある団体はこう述べている。「何であろうと、我々のためになることを実行に移せる政治的手腕があるのかは疑わしい」