ヒラリー・クリントン氏とドナルド・トランプ氏の大統領選に世界中の首都がどのように備えているか見てみよう。メキシコから中国、サウジアラビア、EU、英国、イランとドイツ、そして日本を取り上げる。
■メキシコ クリントン氏の支持率増で「よく眠れる」と高官
通貨ペソが砲火を浴び、経済が「トランプ勝利」に脅かされていることから、メキシコは8日に共和党候補が勝利した場合に備えたコンティンジェンシー・プラン(緊急時対応計画)を準備している。
メキシコ中央銀行のアグステイン・カルステンス総裁は、製品の8割以上を国境の北側へ輸出しているメキシコにとって、トランプ氏の勝利は「ハリケーン」になると言い、メキシコ政府は緊急時対応の次策に取り組んでいると話している。
「もし困難な状況が具体化したら、メキシコ当局が何らかの形で対応することは予測できる」。総裁はテレビでこう語った。「我々が財務省と協議しているのは、コンティンジェンシー・プランだ。それを使わなくて済むことを願っている」
カルステンス氏は「必要とあらば、我々の政策への見解を調整する」ということ以外、緊急対策がどんな内容か語らなかった。政府は何カ月もトランプ勝利の影響を和らげるためのコンティンジェンシー・プランに取り組んでいると主張しているが、具体的な計画は一切発表しておらず、長い間、放置しているように見えた。
だが、市場のボラティリティー(変動)が激しいなか、当座は為替市場に介入する見通しを撤回した。
少なくともあるメキシコ政府高官が常にデスクのパソコン画面を世論調査サイト「ファイブサーティーエイト」に合わせており、通貨ペソの市場価値を常時チェックしている。ペソは8日の大統領選を前にトランプ氏が世論調査でクリントン氏に並ぶと、新たな売りを浴びせられた。ペソは新興国市場の代理指標として広く利用されており、トランプ氏の勝算が高まるときに大きく下げる傾向があった。
野村証券は、もしトランプ氏が勝てば、ペソ相場は1ドル=22ペソ前後に落ち込む可能性があり、もしクリントン氏が勝利をつかんだら、約17.9ペソまで持ち直すと見ている。ペソは現在、1ドル=19ペソ超で取引されている。だが、市場はトランプ氏が勝利した場合にはさらに大幅な下落――1ドル=26ペソ程度への下げ――を織り込んでいると野村は指摘している。
メキシコ人が米国の選挙にかつてないほど大きな利害を持っている。トランプ氏の公約のためだ。大統領に選ばれたら、トランプ氏は北米自由貿易協定(NAFTA)を撤廃し、自動車輸出に法外な関税をかけ、1100万人以上の不法移民を強制送還し、メキシコのお金で国境に壁を建設するとしている。ある新聞の論説委員が書いたように、「これは我々(メキシコ)の選挙でもある」のだ。
エンリケ・ペニャニエト大統領はまだ立ち直れずにいる。8月に大統領宮殿でトランプ氏をもてなした後に冷笑を浴びた。メキシコ人を侮辱するトランプ氏の政策公約について、公然と批判しそこねたというわけだ。誰が選ばれても協力するとペニャニエト氏は誓ったが、メキシコ政府関係者の不安は明らかだ。トランプ氏のメキシコ訪問をめぐるさわぎが弱まり、クリントン氏が世論調査で切り返したとき、ある政府高官は、以前より安心して夜眠れると打ち明けた。恐らく今はもう、違うだろう。
11月17日、米大統領選挙の1週間ほど後に、メキシコ中銀は次の定例政策決定会合を開くことになっており、12月15日、米国金利の引き上げが示唆されている米連邦準備理事会(FRB)の会合の翌日に次回会合が予定されている。