金融庁は8日の有識者会議で、機関投資家が投資先の株主総会で各議案に投じた賛否を原則、個別に開示するよう求める案を示した。透明性を高め、投資先とのなれ合いや系列金融機関に配慮して、投資行動がゆがんでいるとの疑念を小さくするのが狙いだ。ただ系列の金融機関などから圧力が強まるといった副作用を懸念する声もある。
同庁の案には賛否両論が出たが最終的に了承された。いまの機関投資家の行動指針は取締役の選任など議案の種類ごとの集計・公表を求めている。新たな指針の基になる案では一歩進め、各企業の個別の議案に投じた賛否の開示を求める。
日本では機関投資家が大手金融グループの一員だったり、投資先と保険契約の取引関係にあったりすることが多い。このため本来はお金の出し手の利益を最優先に行使すべき議決権が、系列や投資先への配慮でゆがめられているとの疑念が生じやすい。個別開示はこうした利益相反への懸念を払拭する狙いもある。
半面、戸惑いの声もある。アムンディ・ジャパンの鎌田博光・日本株式ターゲット運用部長は「企業が反対姿勢を鮮明にした投資家との対話を拒むようになったら困る」と指摘。「企業や系列の金融機関から賛成を求める圧力がかかりやすくなる」(国内投資顧問)といった懸念もくすぶる。
このため金融庁は個別開示を「原則」とし、開示しない場合は理由を説明すればよいことにする考えだ。機関投資家は大量に株を保有しており、助言会社の助言に沿って議決権行使している例も多い。個別開示が機関投資家の質向上につながるか、助言会社の商機拡大にとどまるかは証券市場の将来を左右しそうだ。