今回は映画「THE WAVE」についての評論です。本作品は実際に起きたザ・サードウェーブ事件を元にした作品となっています。
テーマは「心理実験」
暴走する集団心理を描き、過度な演出をおさえつつも実に見どころのある本作、オススメだったのでご紹介しようと思います。
巧みな演出
本作ではクレジットタイトルにグラフィティを採用しているのですが、これがスタイリッシュな演出とはとはまた別の意味を持って来ることに気が付きます。物語の推進力となる大きな事件にこのグラフィティがリンクしてくるのです。実にやり口が玄人。
また音楽の素晴らしさも特筆すべきでしょう。本日現在(2016年)だとちょっと古いかなと思うビッグビートやデジロックが当時の時勢を感じさせてくれます。
Coldcutやっぱカッコいいな…
演出面で特に映画的だなぁと思わせてくれるのは本作品の主役であるライナーの登場シーン。
爆音でロックを聞きながら学校へ向かうライナー。服装、思想、行動、町の人からの反応。このカットだけで彼がこの世界の異分子であることを暗喩しています。見事。
Tシャツがラモーンズなのはやり過ぎな気がしますけどもw
ライツ・カメラ・アクション!
本作の魅力として、絵がとても美しい点があげられます。影が深めに出るライティングで輪郭が強めに描かれ、高コントラストな画面を作っています。そして深い彩色が緊迫感をうまく表しています。
そしてカメラワークが非常に優秀で、広い構図も壁ギリギリからのショットを狙っていたり、かなり低い位置からの煽りがあったりと、「どこかに隣接してる閉塞感」をうまく出しています。また本作最大の山場、演説のシーンのハンドカメラもブレすぎず、止まりすぎず。絶妙の一言。
見事な演技力
マッチョだけれど自己評価が低い人生観を持った教師ライナーと自分の居場所をどこにも見いだせずファシズムに傾倒していくティムの演技力が実に素晴らしい。
特にティムの授業で発言し、褒められたときの恍惚とした表情などは圧巻です。フレデリック・ラウ。すごい役者さんです。
舞台の変更
実際にはアメリカで起こった事件ですが、舞台をドイツに変更したのは良い変更だったと思います。背景説明を一気に短縮することもできますし、後の「白バラでも気取ってるのか?」というセリフも土着的な力強さを帯びていきます。
「もうドイツで独裁は起こらないと思う?」
このパワーワードも舞台がアメリカよりもより重みを持つでしょう。
渇望する者たち
本作のテーマである全体主義に傾倒していく若者たちは結局のところ持たざる者たちであったという点が残酷でありながら胸を打ちます。
印象深く描かれるのは特に 気弱な青年ティムと垢抜けず彼氏もいないマヤ(マルコに密かな恋心をいだいている)ですが、彼ら彼女らはスクールカーストにおいて持たざるものであり、常に渇望するものたちであったわけです。
それが、ファシズムのなかで立ち位置を与えられ強い肯定感を得る。悲しいかな、人には居場所が必要なのです。たとえそれがどんな場所であっても。
まとめ
肝心の「授業で何が行われたのか」についてはここでは詳しく述べません。どのシーンもきちんと映画的に描かれていて、言葉で説明するよりぜひ映像で見ていただきたいのです。
物語は悲劇的な最後を迎えますが、しかし彼は最後まで教育者たろうとした。そこに一筋の救いはあるのかもしれません。
最後に彼が見た景色はどんなものだったのか。
見てみたいような。見てみたくないような。
オススメです。