「私は変化が嫌いだ」 再建王ゴーン氏の本音 日産自動車社長 カルロス・ゴーン氏(上)
三菱自動車と資本業務提携するなど、改めてその経営手腕に注目が集まる日産自動車のカルロス・ゴーン社長。10月下旬、横浜市の日産本社で開いた次世代リーダー養成講座では、社内外の企業幹部候補生30人を前に、「信念はかたくなに、そして実行するときは柔軟に動くことが肝要」などと、自らのリーダーシップ論などを熱く語った。「再建王」ゴーン氏を相手に活発に質問が飛び交った会場でのやり取りを2回にわたり紹介する。
◇ ◇ ◇
――これまでの仕事で、もっともチャレンジングな仕事は何だったのでしょうか。
「一般的に、その次の仕事が一番チャレンジングです。過去の実績は、成功すれば簡単だと思えてしまう。みんな忘れてしまうのです。また、同じくらい難しい課題が同時に発生したら大変ですね。たとえば、品質管理のような内部的な問題があるときに、大震災のような外部的な危機が起きたら大変です。そこに自分の健康や家族の事情など、プライベートにも問題が重なってしまったら……。2011年、12年は東日本大震災にユーロ危機など、複数の危機が同時期に発生しました。しかも突然です。すべての課題に最大の時間を費やし、成果が見られるまでやり続けなければなりませんでした」
■日産のままで。ただし『成功する』日産に
――これまでに最も厳しかった決断はなんですか。
「『日産リバイバルプラン』(1999年にゴーン氏が策定した日産再建計画)です。いくつかの工場を廃止し、多くの会社を売却しなければなりませんでした。その上、結果にもコミットしなければならなかったのです。従業員に対しても、会社に対しても劇的な変化をもたらしました」
――リバイバルプランの実施にあたり、何を変え、何を変えなかったのですか。
「驚かれるかもしれませんが、私は変化が嫌いなのです。変えなければならないことは、最小限に抑えたいのです。よくなると期待するから変えるのであって、変えることが目的になってはいけません。私は日産のままでいたかった。ただし、『成功する日産』にしたかったのです」
「企業の文化は尊重しなければなりません。2つ例をあげましょう。まず、若い世代に対する明らかな差別は問題ですが、日本企業特有の『年功序列』は変えなかったのです。2番目は部品会社など『ケイレツ』のシステムについてです。これも日本の自動車業界の独自スタイルですが、私は『ケイレツ』のシステム自体は否定はしていないのです。問題がある部品会社との関係について、実績や必要に応じて変えただけです。何かを変えるとき、決める人は変化を嫌う人がいいですよ。慎重に動きますから」
■情熱を持ち続けられる理由
――困難な状況が続くなか、なぜゴーンさんは情熱を持っていられるのでしょうか。
「哲学的な質問ですね。情熱の源がどこにあるかは、皆さんにも聞きたい。私は、学ぶことが大好きなのです。多くの人からすでに実績があるでしょう、といわれますが、私は毎日学ぶことができるから意欲を持ち続けられるのです。どうやって解決策を見いだそうか、どうしたら従業員が力を合わせられるのか、考え続けられるのです。今、自動車分野では人工知能(AI)による自動運転やコネクテッドカー(つながる車)、EV(電気自動車)などの低排出ガス車など様々な革新的な技術が出ています。学ぶ熱意は止まることがありません」
「日産に来たとき、私は仏ルノーのナンバー2でした。『子供も家もあるし、パリも快適なのに、破綻寸前の日産になぜ行くのか』といわれました。もし失敗していたら、キャリアに大きな傷がつきます。しかし、私はそのとき『日本に行けば色々と学べる!』と思ったのです。日本の自動車だけでなく言語や文化……。様々なことが学べると思いました。『もう新しいことを学ばなくてもいい』と思うときは生涯を終えるときです」
――――今回、三菱自動車も加え、3社のアライアンスを作りました。ゴーンさんのビジョンを教えてください。
「自動車業界というのは競争が厳しいところです。製品力と技術力を育てるためには、投資し続けなければならない。しかも、自動運転の開発、安全性の検証などすべてに対応するには大きな投資規模が必要になります。我々は年間に1兆4000億円の投資をしています。それは日産とルノーだけではなく、新たに提携した三菱自動車にとっても大きなメリットがあります」
■ゴーン氏「3つの信念」
――ゴーンさんのビジネスリーダーとしての信念を3つあげると何でしょうか。
「単純です。1つ目は『解決のない問題はない』ということです。みんな嘘だろうといいますが、もしあなたがトップエグゼクティブなら、ただ問題を指摘するだけでは失格です。そんな人は子供と同じですよ。トップなら、『これが問題です、私の考え方は――』と、続けて対応策を示さなければなりません。これは基本ですが、多くのリーダーが実際はできていません。問題点をただ指摘すればいいと思っています。しかし、解決策を出す、これが1つ目です」
「2つ目は『危機はチャンス』ということです。これは本当です。多くの管理職は、好調なときを『今がチャンスだ』というでしょう。間違いですよ。危機のときこそ、付加価値が生み出せるし、上昇することができます」
「3つ目は『危険があるところに勝利がある』ということです。山の頂上に到着して、そこでリラックスしていると問題が起きます。一方で、山の裾野から頂上を目指しているときは、自分の努力だけが頼りです。ある組織に入ったら、強いところも弱いところも見なければいけません。そして、弱い部分を変える。これが私の3つの信念です」
――ゴーンさんが03年に中国の自動車メーカーに投資した際、不安要素も多かったと思います。しかし、当初の予定より大幅に増額しました。なぜですか。
「まず中国の自動車市場は非常に大きな成長を果たすと思いました。人口も多く国も大きい。中国は共産主義ですが、別の見方をすると、最も資本主義的な国です。世界中に中国人の実業家がいます。様々なアングルから見て、中国に経済のパワーがあることは事実でした。投資を踏み切った当時の中国の新車市場は200万台程度の需要しかありませんでしたが、ぜいたくが好きで、お金も大好きな人たちがたくさんいました。いずれ中国はブームがくると考えました。結果、もっと早いタイミングで中国経済が伸びたので、私たちは大きな利益を得ることができました」
■名著「アルケミスト」も最初は売れず
「リーダーはその信念に柔軟性を持ちつつも、固執しなければなりません。最初、周りから理解を得られなくても、時間がたてばわかります。世界的ベストセラーになったブラジル人作家、パウロ・コエーリョの名著『アルケミスト』は1カ月で1冊しか売れず、1年たってもうまくいかず、編集者に『これはダメだ』といわれたそうです。しかし、作者は売れると信じていた。今や世界中で読まれるベストセラーになりました。人生のなかで最も大切なことは、簡単にはいかないのです。皆になかなか認められない。私が07年に『EVの生産を決める』と話したときも批判されて大変でした。しかし、見てください。今、独フォルクスワーゲン(VW)など世界の自動車大手は競ってEVの開発・生産をやっています。信念はかたくなに、そして実行するときは柔軟に動くことが肝要です」
(松本千恵 代慶達也)
「リーダーのマネジメント論」は原則火曜日に掲載します。
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