「一世一代のスピード違反だ! 警視総監に言っとけ、パクれるもんならパクってみろってな!!」――相棒のジョナサンがトラックの重量オーバーと公務執行妨害で逮捕された。午後6時までに金沢から新潟へ積み荷を届けないと、3千万円の損害だ。残り5時間。「こういう時に助け合うのがトラック野郎だ。俺にまかしとけ」と名乗りを上げる“一番星”桃次郎。しびれる啖呵(たんか)に、小雨降る会場でスクリーンを見守っていた観客から大きな拍手が湧いた。

 今月6日、金沢市で開かれた鈴木則文(のりぶみ)監督を追悼する「度胸一番星」の野外上映会では、こんな拍手と爆笑が何度も起きた。「映画とは打ち上げ花火である」を信条に、娯楽映画一筋を貫き今年5月、80歳で亡くなった鈴木監督を夜空の下で偲(しの)びたいと、生前から監督と親しかった「かなざわ映画の会」が企画。その意気に応じたデコトラ団体「全国哥麿(うたまろ)会」所属の華やかなトラック10台をはじめ、全国各地からファン延べ500人以上が駆けつけた。

 会場でひときわ注目を集めたのは、映画で使われた本物の一番星号だった。シリーズ終了から35年が経つ老朽車。この日、会場へ向かう途中、富山県内でタイヤがパンク。到着が上映に間に合うかどうか、関係者をハラハラさせる映画顔負けの一幕もあった。最終作に登場した雄姿を保つが、車体サイドに描かれた鳳凰(ほうおう)は色あせ、一部はペンキがはがれかかっている。いとおしそうにそっと触れ、記念撮影する人が後を絶たなかった。

 運転席に座らせてもらった三重県伊賀市の自営業、城徳男さん(46)は、手を合わせてから乗り込んだ。「もう思い残すことないわ」と感無量の様子。父親は長距離トラックの運転手。子どもの頃にテレビで見て以来、ビデオやDVDで何度も見返してきた憧れの存在。自身、一時期トラックに乗っていたこともある。「命より大事な自分の車がボロボロになろうと、仲間のために走る。当時だって現実なら交通違反でアウトだけど、文太さんがやるからリアリティーがあった。今の時代には絶対にないその熱さがたまらない」

 一番星号は今年3月、病床にあった鈴木監督を励まそうと、「全国哥麿会」会長の田島順市さん(66)が、前のオーナーから譲り受け、整備を続けている。10年ほど前から鈴木監督と交流を続けてきた田島さんの願いはもう一度、トラック野郎を撮ってもらうこと。新作の舞台は震災後の東北。復興のため走るトラッカーと震災孤児の交流を描こう……そんな構想を2人で語り合っていたという。

 「もうかなうことはないが、監督と一緒に夢を見られたのは幸せな時間だった。せめて俺らの世界では国宝級の一番星を、完全に修復して、全国の人に見てもらいたいと思っている。それが供養にもなるはず」

 鈴木監督の作品は、すべて弱い者の味方だった、と田島さんは振り返る。交通遺児のチャリティーや、東北はじめ災害被災地への支援活動を同会が息長く続けているのも、そんなトラック野郎の心意気なのだ。

 時代と世代を超えたファンの熱い思いが、今も一番星に輝きを与え続けている。

文・山内浩司 写真・小玉重隆