今日は、あるCMにとてつもない違和感を覚えたので記しておきたいと思う。完全なる私見になるので、その点はご容赦いただきたい。
そのCMとは、掲題の通りユニクロの「人はなぜ服を着るのか?」を問うコマーシャルのことである。観る度に背中がむず痒くなるような気分に襲われていたのだが、その理由がわかったので考察していく。まずは当該CM「ユニクロのニット すべての人に上質を」バージョンを紹介したい。
字幕を抜粋してみよう。
セーターであなたは何を主張する?
まだまだ若いってこと? 思ったより大人だってこと?
同じ服でも全く別の気分になることはできるだろうか?
だとすると今日はどんな気分でいたい?
主役でいたいか?脇役か?
なぜ、その服を着るのだろう?ユニクロは問い続ける
生活を良くするための服 LifeWear
端的に言って、このCMは何も言っていないのと同じだ。強いて挙げるとすれば、最後のセリフ「生活を良くするための服」という点を強調したいことはわかる。しかし、生活を良くするために服を着ることは当たり前なのだ。むしろ生活を悪くする服を着る方がおかしい。
せっかくこれだけ疑問符が並べてあるのだから、文章を分解してみたいと思う。
セーターであなたは何を主張する?
まだまだ若いってこと? 思ったより大人だってこと?
この疑問そのものは至極真っ当なものだ。ちなみに私は童顔なので、どちらかと言えば後者である。つまり、ユニクロのニットは着こなしによって人々を若々しく見せたり、逆に大人びた見せ方もできるということであろう。お仕着せがましい気もするが、ここまでは特に引っ掛かることはない。
同じ服でも全く別の気分になることはできるだろうか?
これはユニクロの服を着れば気分を変えられるということを示唆する反語なのだろうか。しかし、同じ服でも気分が変わることがあるのは間違いないだろう。差別化を図るセリフなのだろうが、意図がわかりづらい質問である。
だとすると今日はどんな気分でいたい? 主役でいたいか?脇役か?
主役でいたいか脇役でいたいかは別として、私のなかでユニクロは脇役として活躍している。インナーをヒートテックで統一しているからだ。洋服ひとつで主役になれるのであれば、私は全身をユニクロでかためるだろう。しかし、私のユニクロがインナーである限り、ヒートテックが主役になることはないし、はっきり言ってしまうと大きなお世話だ。
なぜ、その服を着るのだろう?ユニクロは問い続ける
ユニクロが「なぜその服を着るのか?」を問い続けるのは勝手なのだが、それを消費者に問うのはおかしいのではないだろうか。ブランドイメージはアパレルメーカーが築くべきもので、メーカーが消費者に投げるのは本末転倒な気がしてならない。そして、オチに持ってきたのが
生活を良くするための服 LifeWear
である。キャッチコピーを考えた方に大変申し訳ないが、何を伝えたいのかがまったくわからない。わからないだけならいいのだが、はっきり言ってしまうとブランド価値を毀損する恐れすらある。
なぜなら、ユニクロは機能美を追求した商品を低価格で提供する「良品廉価」というスタイルがウケて売れ続けてきた歴史があるからだ。つまり、主張すべきブランド価値が完全に確立されているのだ。視聴者は今さら「生活を良くするための服」などと抽象的なキャッチコピーを持ってこられても困惑するのみである。
ユニクロのヒット商品とはなんであろうか。詳しくは知らないが、ヒートテック、ウルトラライトダウン、フリース、サラファイン、ジョガーパンツ等々といったところだろうか。共通しているのは、全て着心地や保温性、速乾性など、ユーザビリティに配慮した製品ばかりであるということだ。ブランドイメージだけを前面に押し出したCMを流されても何も伝わらない。
試しに、このCMの主役をマクドナルドに置き換えてみたらどうなるだろうか。
ビッグマックであなたは何を主張する?
まだまだ食べられるってこと?
思ったより大きいってこと?
同じ食事でも全く別の気分になることはできるだろうか?
だとするとフライドポテトはどんな気分で食べたい?
主役にしたいか?脇役か?
なぜ、その食事を食べるのだろう?マクドナルドは問い続ける
生活を良くするための食事 LifeFood
響かない。響くわけがない。しかし、マクドナルドでもなんとなく収まってしまう。「生活を良くするための食事」というオチによって、頭の中をクエッションマークで埋めてしまったかも知れないが、食事のクオリティや食費を少々抑えて空腹が満たされるという意味では、生活を良くするための食事だということは間違いない。
これは何もマクドナルドに限ったことではない。上記の文章に大手自動車メーカーを持ってきても同じことである。
つまり、ユニクロのブランドは「機能美」という点でほぼ確立しているのだから、これまで通り、あくまでも消費者に商品の機能美を訴求すれば良いのではないだろうか。それを今になって「人はなぜ服を着るのか?」などと本質的な問いかけを消費者に訴えかけるようでは、かえって顧客を当惑させてしまう可能性がある。
私は企業批判がしたいのではない。ユニクロの強みは機能性という点で明白なのだから、自問自答を視聴者に投げつけるような必要はないのではなかろうか、という建設的な提案である。同じセーターをCMの出演者たちに着せて個性も主張もない。
もう少しうまいやり方があったのではないかという違和感を覚えたので、あえて書かせていただいた。
以上