トレンディドラマの時代からおよそ20年。いまや恋愛至上主義のドラマは一部を除いてほとんどない。厳しい現実と向きあっている視聴者は、浮き世離れした男女の恋物語など興味がないのだ。
「今年の夏はリオ五輪があったため、各局とも秋のドラマに大物俳優を起用して勝負をかけていました。その結果はテレビ朝日の完勝に終わりそうですね。マーケティング担当者のシミュレーションでも、これで今年のゴールデンタイムの年間視聴率1位はテレ朝でほぼ確定しました。勝因は『恋愛ナシ』と『安定感』でしょう」(大手広告代理店社員)
テレ朝は、米倉涼子がフリーランスの天才外科医を演じる『ドクターX ~外科医・大門未知子~』の第4シリーズが、初回視聴率20・4%を記録し、大台を超えた。
「『ドクターX』は、極端なキャラクターがたくさん登場し、主人公には『私、失敗しないので』という決め台詞があり、最後には難手術を成功させて患者を救って結果を出す。毎回そんな分かりやすいストーリーだから、F2層(35歳~49歳の女性)やF3層(50歳以上の女性)が安心して見られるんです。
もし主人公が恋愛をしたら、女性視聴者は賛否に分かれて、ドラマは途端にダメになるでしょう。色恋沙汰はナシと大胆に割り切ったからこその人気なんですよ」(コラムニスト・ペリー荻野氏)
同作の主要キャストは、米倉のほか、西田敏行、泉ピン子、岸部一徳、吉田鋼太郎、生瀬勝久、草刈民代と実力派揃い。恋愛の要素はまったくなくても、見応えは十分だ。
「優等生の女優が多いなかで、私生活でも奔放なイメージがある米倉に、権力に媚びずに言いたいことをズバズバ言う女医役はハマリ役です。
作り込まれた明快なストーリーに、役柄に合った俳優を起用していけばドラマは当たるんですよ。どんな設定のドラマでも必ず男女の色恋を入れなければヒットしないというセオリーはもう古いんです」(テレ朝関係者)
テレ朝の早河洋会長が、9月の定例会見でSMAP解散に関連して、記者から「事務所の力は強いか?」と質問され、「プロダクションはいっぱいあるわけで、その中の優れた俳優をそろえて編成していく」「事務所の影響力で(テレビ局が)右往左往しているように見られるのは、ちょっと残念です」と答えたことが、テレビ業界で話題になった。
「ジャニーズのタレントに頼らなくてもヒットドラマは作れると言っているわけです。ジャニーズの若手を起用すると、ターゲットがF1層(20歳~34歳の女性)になり、どうしても恋愛がテーマになる。
しかし、その層はもはやテレビドラマを見ないので、数字が取れない。早河会長は米倉のことを『涼ちゃん』と呼ぶほど信頼を置いている。今回の『ドクターX』第1話において、米倉が大好きなニューヨークでロケが行われたのはまさにご褒美です」(前出・広告代理店社員)
さらにテレ朝は今クールに『相棒』シリーズ15作目と『科捜研の女』シリーズ16作目を投入している。これらも15%前後の高視聴率は確実だ。『ドクターX』と共通するのは、20代の人気俳優はほとんど出演せず、「恋愛」「結婚」といったテーマは皆無なことだ。
「『相棒』には人気女優の仲間由紀恵がエリート警察官として3番手で出演していますが、もちろん色恋はない。仲間はここで主演の水谷豊に認められれば、反町隆史の後釜に座る可能性もありますから、気合が入っています。
他にも山本耕史が後釜という声もあり、次の相棒役は誰かというのも視聴者の楽しみの一つです。『科捜研の女』の沢口靖子は中高年男性にとって、永遠のアイドル。もはや『笑点』と同じレベルで、中高年層に視聴習慣がついているんです」(テレ朝関係者)
今クールでこの3本以外に高視聴率を獲得したのが、初回が13・1%だったTBSの日曜劇場『IQ246』である。
「家族で安心して見られることが、日曜劇場のウリですから、恋愛はナシ。ただし局側はシリアスな『相棒』を意識していて、一方、主演の織田裕二はコメディドラマをやりたかった。今後、テレ朝の3本に迫れるかは微妙です。ちなみに来年1月からの日曜劇場は木村拓哉主演ですが、設定は外科医。キムタクドラマでさえ恋愛は封印します」(テレビ誌ライター)