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プロローグ
ゴート=ナルガドール大陸。
力ある龍の骸に降り積もった土が、そのまま大地となったと伝えられている。
その”背びれ”に相当するのがシンシア王国。
厳しい冬と切り立った山脈により不作の大地と知られているこの国は、魔道学問に力を入れる者を厚遇すると大陸中に謳い集め、その知性を大陸に還元することで繁栄していた。
また、大陸唯一の天馬生息地としての側面もあり、天馬騎士を目指すものならばシンシアの門を叩け、という言葉が知れ渡っていた。
世継ぎを待望されていたシンシア王バズーラムに、頭の痛くなる吉報が届いた。
第二王妃アンナローズに待望の子が身籠ったとわかった同じ月、王宮侍女の一人が同じくバズーラムの子を身籠ったのである。
宮廷を揺るがすかと思われた一件は、第一王妃マーニャの執り成し、そしてアンナローズ自身の進言によって、侍女を正式に王妃とすることとして決着した。
侍女は第三王妃ラムとして王からの指輪を賜った。
翌年、王国は二人の王子の誕生に沸いた。
アンナローズの子の名を、ハルスト。
ラムの子の名を、キルバイン。
ハルストが先に生まれ、一番安堵したのはラムに他ならない。
王位継承を見据えて野暮を口にするものもあったが、両王妃、そして両王子とも、バズーラムの愛を受け幸せに暮らしていた。
二人の王子が12歳になる時。
王宮から市街へ、そして諸国へ、バズーラムの後継はハルストだと正式な発表があった。
他国間ではどちらが後継に指名されるのかで揉めるだろうと思われていたが、当の宮廷内では何の波風もなく決まり、異を唱える者はいなかった。
これはハルストが銀髪に生まれ、キルバインが黒髪に生まれたときに、シンシア王国民の大半が予想できたことだからである。
体毛が銀であれば魔道の素質が高いと言われるが、髪まで銀なのは珍しい。
魔道を極めていう過程で銀髪になっていくことはままあるが、生まれた時から銀髪とは、つまり魔道の神童である証なのだ。
加えてキルバインには先天的欠点があった。
どういうわけか、天馬に嫌われるのである。
魔道と天馬騎士で成していると言ってもいいシンシア王国で、わざわざキルバインを担ぎ上げるのは、負け戦に無策で挑むようなもの。大勢は当の昔に決していたのである。
もっとも、ラムとキルバインはだからこそ平穏な王宮生活を送れていることを理解しており、むしろ天の采配に感謝をしているのだった。
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