東映を代表する俳優たちによるド迫力の傑作活劇の数々を、月に1作品ずつ4ヶ月にわたりお届けする特集「東映活劇番外地」。第2回目は千葉真一のアクションが冴えわたる人気コミックの映画化作『ゴルゴ13 九竜の首』。
上映中の映画『太陽』が話題沸騰の入江悠監督が、その愛すべき世界観を語り尽くす!
今回の映画人
映画監督
入江悠
いりえ・ゆう●1979年、神奈川県出身。大学在学中から数々の映画祭で注目を集め、2006年 に『JAPONICA VIRUS ジャポニカ・ウイルス』で長編監督デビューを果たす。その後、「SR サイタマノラッパー」シリーズや『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』(11)、『日々ロック』(14)、『ジョーカー・ゲーム』(15)など話題作を連発する注目の若手監督。
今回の1本
『ゴルゴ13 九竜の首』
香港ロケを敢行しているのに全員日本語…
贅沢さをわざと削いでいる感じが最高!
もう、「すごい」のひと言ですね。久しぶりに観直したんですが、もうムチャクチャな作品じゃないですか(笑)。香港ロケとか壮大なスケールのことをやっているのに、なぜか全員日本語で喋っていて…あれは何なのでしょうね(笑)。せっかく海外の人を使っているんだから、そのまま英語なり現地の言葉で話させればいいのにっていう。しかも、出てくるのが香港人なんで、日本語で話されたらもはやどっちがどっちか分からなくなってきちゃって。
しかしまぁ、香港勢の面構えは最高ですよ。全員、邪悪な顔してますからね。だからこそ、最後のほうになってくると、全員柄シャツに悪人顔で、いよいよ香港人と日本人だけじゃなくて、警察側と犯罪組織側の境目さえ分からなくなっちゃうという(笑)。敵味方の区別がムチャクチャ。せめて警察はそれらしい格好してくれよ!っていう。
しかしこういった、贅沢さをわざと削いでいる感じというか、わざとチープにしているような感じというか、やっぱり最高ですよ。「あれ? これ日本人でキャスティングして日本でも撮影できたじゃない?」と思わせるのがすごいですよね。
ゴルゴってこんなに空手の名手だっけ…?
観ている側を戸惑わせる千葉アクション!
「ゴルゴ13」は高倉健さんバージョン(1973年)もありましたが、健さんのキャリアの中でも異色と言えますよね。というのも、僕らの感覚だとまず「ゴルゴ13」を映画化する時点でもあり得ないことじゃないですか(笑)。だからもう、内容とかはすべてOKというか、何でもありというか。
今は「ゴルゴ13」を映画化するなんて勇気、日本映画界広しと言えども誰もないですよ。今だったらちょっと有名原作を映画化するだけでネットなんかですぐに叩かれる。…改めてこの時期の東映の力技というか、底力というか、そういうものを感じさせますよね。
今回は千葉真一さん主演ですが、ゴルゴがちょっと空手過多になっているのもいいですよね(笑)。千葉さんのキレッキレの空手アクションの魅力が存分に楽しめるんだけど、「ん? ゴルゴってこんなに俊敏に動くんだったっけ?」と一瞬戸惑います。
しかも、アクションが残虐なんですよね。いちいち急所を突いている感じというか、もはや人体破壊なんじゃないかと思わせるっていう。気のせいかもしれないですが、痛がっているやられ役の俳優も、結構長い間悶絶している気がするんですよ(笑)。
あとはやっぱり、「あぁ、この女の人は抱かれるために出てきたな」っていう大人のお楽しみというか。「お! オッパイ要員が出てきたぞ!」っていうワクワク感がたまらないですよね。
これだけ好き勝手にツッコめるのも
高いクオリティを誇っているからこそ!
それにしても、アクションに関しては結構金をかけてやっていますよね。香港アクションにあこがれて向こうまで行ったんだろうなって感じが伝わってくる。金はかかっているんだろうけど、最後の狙撃シーンなんかはやっぱり愛すべきバカさ加減で「あぁ、俺は今東映作品を観ているんだな」というのを存分に感じさせてくれます。いや、あれはツッコみどころ満載ですよ! 「他にもっといい手段あるだろう!」って(笑)。
しかしそうは言ってもやっぱり、昔の腕の立つ職人さんがスタッフに入って作っているので、脚本とかも漫画原作に忠実かつオリジナリティもきちんとあるし、カメラワークも的確なことやっていってすごいクオリティなんですよ。しかも上映時間が90分ちょっとでしょ? 内容はたっぷりなのに、すごくコンパクトにまとまってますよね。そういう先人たちのしっかりとした仕事、それに裏打ちされた娯楽の基本部分がきっちりあるからこそ、僕らが今観直しても安心してツッコめるんでしょうね。
●取材・文:松岡良和
●撮影:大川晋児
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太陽
2016年4月23日(土)公開
21世紀初頭、ウイルスによって人口は激減。人類は、進化したことで太陽の下で生活できなくなった新人類“ノクス”と、その管理下にある旧人類“キュリオ”という階層に分かれ生活していた。キュリオの青年、鉄彦(神木隆之介)と幼馴染の結(門脇麦)は、貧しくもたくましく生きていたが、ノクスへの転換手術の募集が行われたことを機に、運命の歯車が徐々に狂い出す。
2016年4月29日 配信