東映を代表する俳優たちによるド迫力の傑作活劇の数々を、月に1作品ずつ4ヶ月にわたりお届けする特集「東映活劇番外地」。ラストを飾るのは白熱のカーチェイスが見ものの『暴走パニック 大激突』。
 最新映画『太陽』が多くの支持を得ている若手実力派監督、入江悠が自分流の見どころを指南!

今回の映画人

映画監督
入江悠

入江悠

いりえ・ゆう●1979年、神奈川県出身。大学在学中から数々の映画祭で注目を集め、2006年 に『JAPONICA VIRUS ジャポニカ・ウイルス』で長編監督デビューを果たす。その後、「SR サイタマノラッパー」シリーズや『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』(11)、『日々ロック』(14)、『ジョーカー・ゲーム』(15)など話題作を連発する注目の若手監督。

今回の1本

『暴走パニック 大激突』

『暴走パニック 大激突』

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こちらの予想を大幅に覆す展開が圧巻!
タランティーノも真っ青の裏切り方ですよ

「資金源強奪」でもかなりの迫力のカーチェイスがありましたが、“カーチェイスの真骨頂”と言えば、この『暴走パニック 大激突』ですよ。これを最初に観た時のショックは、東映アクション作多しと言えども、群を抜いていましたね。

前半想像していた映画と、後半ガラリと変わるじゃないですか! その変わり方は『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(1996年、監督ロバート・ロドリゲス×脚本クエンティン・タランティーノ)かこれかってくらい(笑)。「そんなつもりで観始めてねーよ!」って言うね(笑)。

カーアクションという意味でももちろんすごいんですが、やっぱり、あのギアが入ってどんどんドライブしていく感じと言うか、観てる側をグイグイ持っていく感じが素晴らしいです。これも『資金源強奪』と同じく、深作欣二監督が「仁義なき戦い」シリーズで起用している渡瀬恒彦さんと組んでやっているんで、ノリノリと言うかね…撮っている最中に変な物質が脳から音を立てて出ている感じが全編を通してしますよね(笑)。

入江悠
渡瀬恒彦の狂犬っぷりは必見ですね
その反面、キュートな部分も見逃せない!

改めて観なおすと、この時期の渡瀬さんは相当すごいですよね。狂犬っぷりがハンパじゃないです。『狂った野獣』(1976年)にしてもそうですが、自分でカーアクションもかなりこなしている感じがビンビン伝わってきます。

今作は渡瀬さんの“車モノ”としては間違いなく歴史に名を残す作品です。渡瀬さんって北大路欣也さんとか、菅原文太さんと比べても、僕らの近くにいるような“あんちゃん感”があって、そこも魅力。新橋あたりで飲んでいそうな感じと言うか(笑)。あと、走っているときが内股で、さらに小股なんですよ(笑)。その可愛らしさも愛すべきところなんです。

あとはやっぱり、川谷拓三さんが今回もはじけてますよね。もう、赤塚不二夫の漫画に出てくるような演技じゃないですか。緊張感の中にあるコメディ要素として抜群に効いていますよね。川谷さんに対して、ノリノリで登場したのにあまりにもあっさり死ぬ小林稔侍さんもいい! 死に方もまた最高なんですよ。観てる側に「あぁ、死んだんだな」って一瞬で分からせると言うか(笑)。

今の映画って、“死”をある意味ごまかそうとするんですけど、やっぱりこの時代の映画はドンっと“死”を出して来ますね。“死”に対してちゃんとしていると言うか、背筋がピンとします。「人って、案外こんなにもあっさり死ぬもんなんだ…」というのが伝わってきますよね。

入江悠2
無駄な描写が入っているように思えても
この上映時間! 本当にすごいですよ

コメディ要素もありつつ、死とかバイオレンスもちゃんと描いているから、ずっと緊張感が保たれているんですよね。あと面白いのが、脚本家の色が出ている。今作は神波史男さん、田中陽造さん、深作欣二さんが共同で脚本を書いているんですけど、日活ロマンポルノとかに通ずる場面も出てくるじゃないですか。切ないヒロイン像が描かれている一方で、深作さん的なアクションもある。

深作さんってあまり女性を描くイメージがないんですが、やっぱり脚本の力なんでしょうね。ドライなカーアクションとウェットな女性の情念のドラマ…その辺のバランス具合もまた絶妙です。…しかし途中で挿入される同性愛の描写…あれ、何で入れたんでしょうね(笑)。耽美派と言うか、そういう要素は今作には特にいらないんじゃねーかっていう…けど、そういう一見無駄に見える要素を入れても、上映時間は1時間半くらいでしょ? もう、すごいとしか言いようがないですよ!

それにしても、この映画を実現するって、アクションチームも相当しんどかったでしょうね。誰か絶対に大怪我しているだろうって(笑)。今観てもどうやって撮影しているのか分からないですよ。車が人の前にギリギリで停まるとか、観ているこちらが冷や冷やしますよね。いやぁ、今作を観て改めて思いましたけど、やっぱりこの時代の東映の底力って、恐ろしいですよね(笑)。

●取材・文:松岡良和
●撮影:大川晋児

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太陽

2016年4月23日(土)公開

太陽

21世紀初頭、ウイルスによって人口は激減。人類は、進化したことで太陽の下で生活できなくなった新人類“ノクス”と、その管理下にある旧人類“キュリオ”という階層に分かれ生活していた。キュリオの青年、鉄彦(神木隆之介)と幼馴染の結(門脇麦)は、貧しくもたくましく生きていたが、ノクスへの転換手術の募集が行われたことを機に、運命の歯車が徐々に狂い出す。

映画『太陽』公式ページ

2016年6月24日 配信