東映を代表する俳優たちによるド迫力の傑作活劇の数々を、月に1作品ずつ4ヶ月にわたりお届けしている特集「東映活劇番外地」。第3回は深作欣二監督によるエネルギッシュな一作『資金源強奪』。
現在最新作『太陽』も絶賛公開中の気鋭の若手監督・入江悠は今作をどう見たのか?
今回の映画人
映画監督
入江悠
いりえ・ゆう●1979年、神奈川県出身。大学在学中から数々の映画祭で注目を集め、2006年 に『JAPONICA VIRUS ジャポニカ・ウイルス』で長編監督デビューを果たす。その後、「SR サイタマノラッパー」シリーズや『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』(11)、『日々ロック』(14)、『ジョーカー・ゲーム』(15)など話題作を連発する注目の若手監督。
今回の1本
『資金源強奪』
脂の乗っている深作欣二の演出が見事
ヤバさ満載の大阪でのロケも痛快です
このころの東映アクションすべてに言えることですが、これも演出のテンポが半端じゃないですよ。昔、下北沢でリバイバル上映を観たんですが、改めてすごい衝撃を受けたのを覚えています。
このころの深作監督は「仁義なき戦い」シリーズも並行して撮っている時期で、本当に脂が乗っていますよね。また、深作組というか、レギュラーメンバーとも言える北大路欣也さん、室田日出男さん、川谷拓三さんらとの呼吸もばっちり。ファミリー感が出ているんですよ。その中で、どう面白くしていくか?というアイディアやチャレンジも見え隠れして、飽きさせないですよね、まったく。
しかし観ていて思ったのが、自分が製作者側になって余計にそうなんですが、大阪でのロケなんですけど「これ、絶対にゲリラ撮影だろ」ってシーンが無数に出てきて、大丈夫なの?って言う(笑)。右往左往している一般の方もそのまま映画に出てくるし…しかし、そこがまたリアルだし、見ごたえがありますよね。
当時の大阪の本当にヤバいっていう雰囲気が伝わってくるんですよ。「これは、ここに足を踏み入れたらヤバいぞ…」って言う(笑)。劇中にもおかしな人がたくさん出てきますが、一般の方も巻き込んでの撮影現場はすごいカオスなことになっていたんじゃないでしょうか。作品名は「資金源強奪」ですが、現場では“撮影機材強奪”という事態にもなっていたんじゃないかと推測させる、ギリギリな感じが見どころの一つです。
それとやっぱり、津島利章さんの音楽もムチャクチャいい! ジャパニーズファンクというか、ジャズと演歌が混じっている感じというか、この時代の東映活劇の音楽は本当に格好いいんですよ。クエンティン・タランティーノもオマージュをささげていますけど、ムードがありますよね。
まさに「アウトレイジ」の原点とも言える
悪人しか出てこない感じがハマるんです!
梅宮辰夫さん扮する刑事が出てきてからの展開もまた面白いですよね。梅宮さんが演じた刑事もそうですけど、『県警対組織暴力』(1975年)とかあのあたりの作品にも通じる“誰も善人じゃない感”と言いますか。『アウトレイジ』(2010年)の源流とも言えるような、警察もみんな悪人(笑)。
僕が10代のころ、社会に何か言いたいとか、クサクサしたときに観ると、「あぁ、こんなどうしようもない人間が居るんだ」ってド直球でハマってくる感じが最高ですよね。もう、絶対に文化庁推薦にはならない(笑)。これが、深作さんの真骨頂ですよね。
しかし、不器用な人がいたり、したたかな人がいたり、いろんな人が登場しますが、みんなずるいけど生きることに必死と言うか。日本の高度経済成長の時代…近年の韓国映画で描かれているみたいに、日本人も生きることに必死な時代があったんですよね。みんなギラギラしていて、今の僕らにはない野性味とか、ハングリーな感じが画面から伝わってきて、一種のうらやましさもありますね。“時代が動いている感じ”が分かるんですよ。
そしてもちろん、そういうダメな男に惹かれる女性も、また色っぽく描かれていて。彼女たちも、ちゃんとしぶとく生きていますしね。やっぱり映画からあふれる得体のしれないエネルギーは、登場人物、それに扮する役者たち、それに加えて、時代や街自体のエネルギーもフィルムに焼き付いているからなんでしょうね。
撮影所のシステムが生かされているいい時代
点と点が線でつながっていく観方も一興!
改めて思ったんですが、このころは撮影所がきちんと機能していた時代と言うか。決まりごとやお約束があったと思うんですよ。今作で言うと、通天閣からの狙撃のシーン。あれも、ほとんど「ゴルゴ13 九竜の首」ですもんね(笑)。年間でかなりの本数を作っていたんで、例えば「あれ、良かったから今度また使おうぜ」という風になっているんでしょう。演出とか撮影のいいところが引き継がれていると言うか、一本で完結せずに、点と点がつながって線になっている感じがまたたまらないです。
こういう視点で、東映アクションを観て行っても面白いでしょうね。特に深作監督は本数が多いので、ある10年間を切り取って観ただけでもさまざまな“線”が見えてくるだろうし。途中で『ゴルゴ13 九竜の首』とか、横道に逸れても違った発見があって面白いと思いますよ。
●取材・文:松岡良和
●撮影:大川晋児
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2016年4月23日(土)公開
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2016年5月13日 配信