米Adobe Systemsが開発中のクリエイター向け新技術が、10月31〜11月4日(米国時間)に開催されたイベント「Adobe MAX」(カリフォルニア州サンディエゴ)の「Sneaks」というプログラムの中で公開された。今回公開された技術は11個。その、ぞくぞくするような技術たちを紹介したい。
はじめに、「3Dモデル」に色を塗るための新技術「Stylit」を紹介する。この技術は、紙に塗り絵をしそのデータを読み込むと、それが3Dモデルにリアルタイムで反映されるというもの。デモでは、指定の紙に色を塗った場所に応じ、あらかじめ用意された恐竜やゴリラなどの3Dモデルに色が反映されていった。
色だけではない。筆圧や素材感も再現し、漫画タッチやクレイ素材風の3Dペイントを簡単に行える。影やアニメーションにも対応しており、作成した3Dモデルの各パーツをばらばらに動かしても耐えられるだけの表現力を持っている。
Stylitはデモサイトから試すことができる。
続いては「SyncMaster」という技術。音楽に合わせた映像を作成するのに便利なツールだ。
仕組みは、音楽クリップを高音域、中音域、低音域に分解し、音楽の雰囲気が変わるポイントに「ガイド」を自動生成する。そのガイドに合わせて映像をドラッグ&ドロップすれば、音楽と映像の切り替わるタイミングを簡単に同期できる。
また、プロモーションムービーなどでロゴを音楽のビートに合わせて動かすことも可能。例えば、大きいロゴと小さいロゴを動画編集タイムライン上に載せると、ビートに合わせて大小のロゴがピクピクと動く。
撮影場所やライトの当たり具合によって写真の色調をそろえるのはひと苦労――そんな手間を解決してくれるのが「ColorChameleon」というツールだ。何も考えずチェックボックスにチェックすれば、イメージの一貫性を保ちながら一瞬で色調を統一してくれるという。残したい色がある場合は、カラーマッピングを外せばその色を保つことも可能だ。
色調を合わせるためにこれまで1枚ずつ写真を編集していた来場者からは歓声が上がった。
楽曲の長さに合わせ、短い動画を繰り返し再生したいときのために生まれたのが「LoopWelder」。これは、映像のループを継ぎ目なく作成できるというものだ。
仕組みは、映像を自動で解析し、映像中の継ぎ目なくループ可能な部分を全て抽出。楽曲に対して映像が短すぎる場合などに利用できる。
「ConceptCanvas」は、画像を探したいときにぴったりの機能だ。これまで、イヌの画像を探したいときは、たとえそれ以上のイメージがあったとしても検索窓には「Dog」と入力するしかなかった。しかし、ConceptCanvasではそれ以上の検索ができる。
ConceptCanvasは、白紙スペースにオブジェクト(風景、生き物、物体など)の位置関係を書きこんでいくと、それに応じた構図の画像を探してくれるツール。例えば、「左にヒト、右にイヌ」がいる画像を探したいとき、左に「Person」と書いたボックスを置き、右に「Dog」と書いたボックスを置く。すると、左にヒトが映り右にイヌが映った写真をAdobe Stock(ストックフォトサービス)から引っ張ってきてくれる。
気分が変わって右にヒト・左にイヌの画像にしたいと思えば、それらのボックスを入れ替えればいい。瞬時にイメージした画像が手元に届く。検索条件は2つだけでなく、3つ以上の指定も可能だ。
写真を解析し、点や直線、曲線などを自動で抽出してトレースしてくれるのが「InterVector」。ブラシツールでひとなでするだけでギザギザだった線をきれいにしてくれたり、背景に合わせて色調を調整してくれたりする。
筆の何本もの毛先を表現し、油絵のテカりを再現、油絵独特の混色(色混ぜ)もできるブラシツール「WetBrush」も登場した。このツールでは凹凸を表すことができ、キャンバスを斜めにしてビューを変えれば、実際の油絵のようなテカりを確認できる。色を消してテカりだけをチェックすることも可能だ。
凹凸情報はデータとして記録されるため、3Dプリンタで出力することもできるという。
ポスターなどのデザインでよくあるのが画像の入れ替えや、画像サイズの変更、レイアウト変更だ。それらを自動でやってくれるのが「QuickLayout」である。
QuickLayoutでは、例えば同じ列に違う画像を2つ置きたいときと3つ置きたいときの画像幅の調整を自動でしてくれる。もう用紙の幅を気にして1つ1つリサイズする必要はないのだ。
2つの画像が隣り合ったときは、その間にあるバーをずらせば画像データを崩すことなく自動でサイズを調整。バーを動かすだけですぐにプレビューでき、イメージに合ったレイアウトができるという。
写真のアングルやトーンを1クリックで“いい感じ”にしてくれるのが「SkyReplace」。ディープラーニング技術を用いて、空のトーンや光の具合、被写体のアングルをユーザー好みにしてくれるという。
例えば、Adobe Stockから画像を持ってきて曇り空をブルースカイにしたり、ユーザーがブルースカイが好きだと分かれば他のいくつかの青空画像をAdobe Stockからピックアップしてくれたり――といった機能が付いている。空の色だけでなく、選んだ画像によって光の反射も自動で調整してくれるのがSkyReplaceの特徴だ。
音声編集も画像編集のようにできたら――そんな思いから生まれたのが「VoCo」だ。VoCoでは、自動解析技術によって変更したい音声部分がテキスト化され、そのテキストをカット(コピー)&ペーストで入れ替えることで自在に編集できる。ありそうでなかなかなかった新しい技術だ。
さらに何度見ても不思議なのが、テキスト化された言葉をいったん消して他の単語を書き込むと、その人がもともと発していなかった言葉までも自然な音声データとして作り替えることができるという機能だ。これはぜひデモ動画で見てほしい。
最後に「CloverVR」を紹介する。CloverVRはVR画面に対応する動画編集ツールで、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を付けたまま編集したり出力結果を確認したりできる。これまでは映像の確認と編集のためHMDを付けたり外したりしていたが、これがあればそんな無駄な体力を使う必要はない。
これらの技術を目の当たりにしたクリエイターたちは歓喜の渦に包まれていた。
この「Sneaks」で発表された技術の数々はまだ開発段階。製品になるのか、いつ公開されるのかも未定だが、それだけにプレビューを見た人たちの興奮は冷めやらなかった。
(太田智美)
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