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村上春樹とイラストレーター ほか [本]

最近読んでた本です。

村上春樹とイラストレーター -佐々木マキ、大橋歩、和田誠、安西水丸-

村上春樹とイラストレーター -佐々木マキ、大橋歩、和田誠、安西水丸-

  • 作者: 村上春樹
  • 出版社/メーカー: ナナロク社
  • 発売日: 2016/07/03
  • メディア: 単行本

村上春樹の本を彩ったイラストの数々が載っている本で、芸術の秋にピッタリの本でした。村上春樹ファンなら結構楽しめると思います。佐々木マキ、大橋歩、和田誠、安西水丸の4人のイラストが、懐かしくもほのぼのとしました。特に私は「羊をめぐる冒険」から春樹ワールドの虜になったので、この本の羊男を描いた佐々木マキのイラストが大好き。羊男の絵本とかも懐かしく思いました。また何といっても安西水丸が圧倒的に村上春樹と組んでたくさんのイラストを描いてきたので、そして本当に可愛らしい絵なので、見ているだけで楽しい気分になる。イラストレーターのそれぞれの思いや、対談なんかも書かれてある本でした。

奇跡の生還へ導く人―極限状況の「サードマン現象」

奇跡の生還へ導く人―極限状況の「サードマン現象」

  • 作者: ジョン ガイガー
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/09
  • メディア: 単行本

角幡唯介の本の中でも度々出てくるこの本のことや、いわゆる「サードマン現象」のこと。今回やっと読んでみました。探検家の多くが生命のぎりぎりのところで生きていた時、しばしば「サードマン現象」が起こると言われています。いるはずのない第三者がすぐそこにいる、というのです。海に出て遭難した7人の乗組員が人数を数えたら8人いたとか、自分一人で骨折し凍傷になりながら下山する時、確かに自分に寄り添って一緒に下山し的確なアドバイスのようなものをもらえたとか、それはそれは多くの人たちが体験しているサードマン現象。日常生活においても医学部に入るための勉強を猛烈に行い、ほとんど寝ていず、夢の中でも勉強するくらいに根を詰めてやっていた時、サードマン現象を体験したと著者の友人がまえがきにも書いています。

脳のある特定部を刺激すれば同じようにサードマン現象を作れるという実験が行われたり、それは守護天使であるとか、幽霊ではないか、あるいは極度の疲労に苦痛、欠乏があったとき、あるいは単調さと隔離、できれば一人という条件にストレスが加わったときなどサードマン現象が起こりやすいといっています。それは激しい体力消耗や単調さで感覚上の幻影や幻覚ではないか、そして血糖の濃度低下や高所脳浮腫、低温ストレスのよる症状ではないか、あるいは窮地に立たされた人しか使えない普段は隠された力を引き出すもの(心理学では補完的存在というらしい)なのか、依然として謎ですが、たくさんの経験談も書かれていてとても面白いと思いました。

何よりこのサードマンは皆、好意的で、時に予言めいたものまでしてくれ、いい方向に導いてくれ、出会った人は皆全く怖くはなかったと言います。

腕を切ってしまったのにまだ腕があると思ってしまう幻肢体験や、金縛り体験にも似通ったことかも知れません。体が疲れているのにもう起きないといけないと思って起きれないときに、私は良く金縛りになっていました。特に学生の時、夏休みで水泳を思いっきりした後、昼寝していた時は特に。こういう本は本当に興味深く大好きな種類の本だなあと思いました。

そういえば角幡さん、先日たまたま見たNHKで取材を受けていました。北極圏への単独冒険に出かける何日か前の様子の取材だったのですが、自分でチョコレートときな粉とごま(だったかな?)を入れた高カロリーですぐに食べることのできる食べ物を自宅で作っていました。GSPなどの文明の利器を使うことなく、六分儀という天体の位置によって自分の位置を割り出すものを使って冒険をするとのことで、今ごろ、これを使いながら冒険の真っ最中だろうなと思います。可愛らしい奥さんとお子さんのためにも無事に戻って、わたしたち読者をまた楽しませてほしいなあと思います。それにしても縁あるものとか人には、たまたまかけるテレビでもこうして出会ってしまうのが、やはり楽しいなと思った出来事でした。

海外旅行熱、急上昇して急降下 つれづれノート 30 (角川文庫)

海外旅行熱、急上昇して急降下 つれづれノート 30 (角川文庫)

  • 作者: 銀色 夏生
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2016/09/22
  • メディア: 文庫



2016年の1月から6月までのつれづれ。今回は、ベトナム(フエやホイアンなど)ニュージーランド(ワイタハ族のセレモニー)、スリランカ(仏像と寺院巡り)、ベトナム(再びのホイアン)、インドラダック(アンズの桃源郷)の旅行記と、ジムでの運動、英語の短期授業、宮崎に戻って温泉に入り、整理整頓に火がつき、ものを片付けたり、アロマに凝ったりの日々。

個人的には旅行ではニュージーランドとインドは私も行っているので雰囲気はわかったけど、ニュージーランドの彼女の旅は結構スピリチュアルな旅だったので、ちょっと知らない世界だったので面白かった。インドラダックは、だいたい彼女と観てきてるものは一緒かなあと思ったけれど、私自身は全部個人で廻りしかも長期なので(ニュージーランドも2か月くらい、インドに至ってはラダックだけで1か月、他のインドの地域も含めると一番長くいたときで半年、他にも3か月とか、2か月とかいろいろなので)彼女が半年の間によくもまあこんなにいろんなところに、一つの国に1週間くらいで行っているというのが何となくもったいないかなと思ってしまいました。でも思い立ってすぐに実行できるというのは、やはり恵まれていて、自由を手に入れている彼女ならではなんだなあと感心してしまいます。こんなにも時間的にも金銭的にも周りの状況に自由にあるのは羨ましい。

彼女のこのつれづれに期待するのは、普通の日常生活なんだなあと今回のこのつれづれを読んで強く思いました。でも彼女の感じ方、物の見方など共感したりホッとすることが多く、やはり新刊が出るたびにワクワクして読む本の一冊です。

そういえばこの本ではシンクロがあり楽しかったです。彼女が出会ったおばあちゃんが、「60歳の時は楽しかった、70歳はもっと楽しいはず」みたいなことを言っている文章があったのですが、つい先日新聞で見た記事に「65歳から75歳までは至福の時よ」と言われたと読者の方の投稿記事を目にしたばかりだったし、また「100歳の世界」というつい先日観たテレビ番組では、100歳以上生きているお年寄りが身体能力も何もかもが劣ってきているにも関わらず「今が一番幸せ」と言っているというのを観て長生きするのも悪くないかも、100歳まで生きてその境地を覗いてみたいと思ったばかりだったでした。つれづれノートはやはり、私にとっては読むべき本なんだなあと思ったのでした。


おまけ: 

1か月以上もブログ更新せずにいました。特に理由はないのですが、書く気分になれなかったというのが一番です。かなりストレスが溜まっていて、そのストレスを発散させる手段に有効だというちょっとした運動を再開し、またマインドフルネス=いまここにいる、気づき(瞑想、呼吸法)も再開させました。本当は日記もつけるといいらしいので、時々気が向いたら書いてます。こんなことは若い時バックパッカーをして世界旅行していたときは普通にやっていたことでした。そしてストレスの発散の仕方も良く知っているし、自分ではそういうことのコントロールがとってもうまいと思っていたのですが、どうもそうではなかったようです。

既に旅行中に学んでいて知っていたのに、すっかり忘れていた自分がちょっとショックでした。でもそこは昔取った杵柄とばかり、やり始めると楽しくなってます。皆さん、運動+マインドフルネス+日記はすごくいいです。ストレス軽減にお勧めです。特にマインドフルネスは、ストレスを軽減するだけでなく、睡眠の質も高まり(たった10分ほどの瞑想で2時間ほどのレム睡眠に匹敵するらしい)記憶力、集中力もアップします。海馬も大きくなるとか。お勧めです。


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カリエール展  [絵画・美術館展・博物館展]

損保ジャパン日本興亜美術館で「没後110年 カリエール展~セピア色の想い」を観てきました。絵画展は本当に久々なので、嬉しく、また楽しかったです。

20160910_poster 

公式サイト:http://www.sjnk-museum.org/program/current/4196.html

19世紀フランス象徴主義を代表する画家ウジェーヌ・カリエールの絵画展。「セピア色の想い」と副題にしているように、カリエールの絵はほとんどセピア色で、題材も彼の奥さんや子供たちが多く、彼の絵を観続けているとどこか不思議にホッとし心の奥が癒され、そして次第に気持ちも落ち着いて穏やかになる、そんな感じになりました。今回展示された80点近い彼の作品は、白黒写真がどこか趣があって素敵なように、この絵画もとっても趣があり素敵で、派手な色使いの絵も魅力的だけれど、セピア色の絵も魅力的だなあと改めて思いました。

この展覧会で彼のことを始めて知り、今回観れて良かったです。絵画の所蔵先をみるとほとんどがフランスの個人所有のものばかりで、わずか数点のみが新潟市美術館所蔵のものでした。道理で、あまり目に触れることもなく、知らないはずだ、とも思いましたが。ルノアールがモデルにした女の子の家族を描いたり、生前親しかったらしい彫刻家のロダンの肖像画があったり、ゴーギャンが亡くなったときにオマージュとしてピエタを描いたり…と、印象派の時代の人たちの名前が出てくると、つながりが見えて楽しくなりました。

また常設展のゴッホやセザンヌ、ルノワール、ゴーギャンも良かったけれど、私はいつもこの美術館に行くとグランマ・モーゼスの絵が楽しみです。行くたびに違ったグランマ・モーゼスの絵が飾ってあるのが嬉しい。係りの人に聞くと30点くらいこの美術館には所蔵されているとのこと。まるで大草原の小さな家の世界を描いているような絵なので、本当に気分がアップします。

やっぱり美術館行くのいいなあと思いました。


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函館珈琲 [日本映画 ドラマ]

汐留FSにて「函館珈琲」を観てきました。 

ポスター画像

映画公式サイト:http://www.hakodatecoffee.com/

舞台挨拶付きの特別試写会でした。プロデューサー、監督、脚本のスタッフの方々や出演者の皆さんが登壇しました。ふつう一般の人の写真撮影はこういった場所では許されないのですが、「どんどん撮ってぜひ拡散してください」というので、私も写真を撮ってきました。

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左から、夏樹陽子さん、中島トニーさん、片岡礼子さん、黄川田将也さん、Azumiさん、あがた森魚さん、西尾孔志監督。

(夏樹陽子さんが細くてきれいでした。私の席の3つ前くらいに座って、その後も映画を観ていかれました) 

映画は函館を舞台に、古くて洒落たアパート翡翠館に集まる若者たちを描きます。翡翠館のオーナーの時子(夏樹陽子)は、「一か月無料でアパートの部屋を貸すけれど、その後ここに住んでいいかどうかは私が決めます」 と新たに翡翠館にやってきた桧山(黄川田将也)に言い放ちます。時子は若い才能を後押しする意向でこの翡翠館を開いていました。桧山は表向きは古本屋を生業とすると言いつつ、本当は一作書いてそのあと書けなくなってしまった小説家でした。

このアパートにはトンボ玉ガラス職人の一子(片岡礼子)やテディベアアーティストの幸太郎(中島トニー)、ピンホールカメラの写真家の佐和(Azumi)が住んでおり、それぞれが何らかの事情を抱えつつ、自分の夢に向かって活動していました。

函館の雰囲気がとっても素敵でした。そして古びたこの翡翠館も。路面電車があり、教会があり、坂道があり、海があり、キラキラ輝く美しい夜景があり、「この街は流れる時間が違う…」とプロデューサーがこの映画を紹介するときに言っていましたが、本当にそんな感じのちょっと緩やかな映画で、レトロ感も満載でした。

行き詰った主人公の桧山は、最終的には函館珈琲というカフェをこの場で開き、その一方で小説を書き始めていました。時間が止まったままの時がまた動き始めたのです。素敵な映画でした。

この映画は函館イルミナシオン映画祭オープニング上映の映画だとのことで、函館でも映画祭があるのだなあと初めて知りました。函館はツアーでしか行ったことがないので、今度はゆっくり個人で行きたいなあと思います。


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漂流 [本]

漂流(角幡唯介著)を読みました。

漂流

漂流

  • 作者: 角幡 唯介
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/08/26
  • メディア: 単行本

この本は小説新潮に連載された「ある鮪漁師の漂流」をまとめ「漂流」とタイトルを変更して本になりました。1994年2月に沖縄の漁船第一保栄丸の船長本村実と8人のフィリピン人乗組員が行方不明となり、3月に入って救命筏で漂流した全員がフィリピンの漁師たちに発見され全員無事であったという記事を手掛かりに、角幡が元新聞記者の本領発揮とばかりに様々な取材を行い、鮪漁師という生き方にスポットを当てています。

漂流の末、生き残った船長の本村に話を聞こうと沖縄まで出向く訳ですが、初っ端から出端をくじかれます。本村の奥さんの話では本村船長は助かったあと8年のブランクのあと海に出て、それからまた戻っていないと知らされるのです。

沖縄の宮古島のすぐ近くにある伊良部島の佐良浜出身の本村実の育った環境や、マグロ漁全盛の時代、ダイナマイトをしかけての沈船の解体やダイナマイトでの漁などその背景が示されます。実際に当時本村船長と一緒に乗っていたフィリピンの船員が今もなお現役で仕事をしていることもわかり、船会社の好意でグアムから漁船に乗せもらいもします。そこでフィリピンの船員に話を聞くことは勿論ですが、フィリピンにも行って残りの船員たちにも話を聞きます。

人間が生命にかかわる極限状態を体験したときに、「サードマン現象」の報告がいろんな場面でされているようですが、ここで漂流したフィリピンの乗組員の一人も何度も少女の幻影を見て、自分たちが助かることがわかったと証言していて面白いなあと思いました。

また漁師たちは漁に出てはたくさんのお金を稼ぎ、陸に戻るとそのお金で飲めや歌えの宴会が半端なく、また港には大判振る舞いで買った女性たちがいて、最後には一銭も残らないような派手な生活をしていることも良くわかり、また船を持って経営することも大きな稼ぎになる時もあれば時に大きなリスクを背負っていることも良くわかり、この本には単なる漂流の話にとどまらない漁師たちの生き様や漁業そのものがわかる本でした。実に読みごたえがあり、しかも全く飽きさせることのない文章でグイグイ引き込まれました。やっぱり彼の本は面白いと思いました。

死が隣り合わせにある世界に角幡はとっても興味があるらしい。確かに生きていると実感できるのはそういうことかもしれないというのも何となく理解できます。でもどうかあまり危険な場所に足を踏み入れてそれに飲み込まれないように、そして長く読者を楽しませてくださいと思ってしまいます。


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水源 [本]

水源(アイン・ランド著)を読みました。

水源―The Fountainhead

水源―The Fountainhead

  • 作者: アイン・ランド
  • 出版社/メーカー: ビジネス社
  • 発売日: 2004/07/08
  • メディア: 単行本

NHKの実践ビジネス英語を普段聞いているのですが、その講師である杉田敏先生が何年か前のテキストに「アイン・ランドの本にとても影響を受けた」と書いてあるのを読みずっと読みたいなあと思っていました。

ちょっと古いデータですが、1998年のアメリカ出版社のランダムハウスが実施した20世紀の小説ベスト100の1位、2位、7位、8位をこのアイン・ランドの本が占め、2位にこの「水源」が入っています。(ちなみに1位は「肩をすくめるアトラス」)アメリカの教養ある人なら誰しもアイン・ランドの本を読んでいて、彼女のその本はいろんな人に影響を及ぼし、アイン・ランドを熱狂的に愛している人たちもかなりいるとのことです。

さて、1000ページ以上もある「水源」の感想ですが…。

久々の長編小説。まずは面白かったです。

建築家ハワード・ロークの信念を貫いた生き様を描く物語であり、そこには恋愛物語もあり(でもかなりロークとドミニクの恋は不可解でしたけれど)、ある種の思想が書かれていて、物語もいろんな展開をするので結構楽しく読み終えることができました。

自己中心主義者であるか、あるいはセコハン人間(セコンド・ハンド人間=中古人間)であるか?これが主要なテーマでもありました。

ロークは自分の信念を曲げずそのため、世間の風当たりをまともに受けてしまいうまく立ち回れません。大学は中退になり、師事した建築家ヘンリー・キャメロンはそのあまりの独創性を世間に認められずかなり落ち目です。それでもキャメロンに師事し続けます。そして友人キーティングの誘いにも乗らず、生活を安定させる道を歩みません。そして工事現場で働くようなこともします。でも最後には信念を貫いたおかげで、全てのものを手にするのです。彼が法廷で語っている言葉を借りれば、彼は自己中心主義者の仲間の部類に入る人間です。

一方、そんなロークに比べ、絶えず優等生で周りの期待どおりに行動し社会人になってからも大手の企業で成功を収めるピーター・キーティング。成功のためなら今まで付き合って自分が一番ホッとできるキャサリンとの結婚の約束も反故にし、突然言い寄ってきた美女のドミニクと電撃的に結婚もしてしまいます。従来あるものをうまく融合させることには長けていますが、オリジナリティがありません。いろんなところでオリジナリティあるロークの設計図を基本に使っては、自己流にまたアレンジしています。ルークはこういった人たちのことをセコハン人間(セコンド・ハンド人間=中古人間)と言っています。そして悲しいかなキーティングは最後には人生がうまくいかなくなっていきます。

「創造的仕事、たった一人で考え働く自己中心主義者に対し、誰かに依存し、強奪、搾取、支配を生むセコハン人間」「創造者が否定され、抑圧され、迫害され、搾取されつつも、前に前に進み自らの活力を人類に与え、進歩させてきたのに対し、セコハン人間は人類の進歩に何の貢献もしてきませんでした」…ロークは貧しい人たちのための公共住宅を作ることが夢であり、そのためならお金も要らない、しかし完全に自分の思い描いたもので作りたいという願っていました。しかしその公共住宅を作る話は当時成功を収めていたキーティングへと依頼が来ます。キーティングは低予算でそんな公共住宅を作ることができません。いつもゴージャスなお金をふんだんに使った建物を設計していたからです。そしてキーティングはロークにやらないかと話を持ち掛けます。ロークにしたら願ったり叶ったりです。無報酬でも引き受けたい仕事なのです。ロークはキーティングに約束させます。自分の設計に一切付け足したり削ったりしないこと。しかし、実際にはキーティングの事務所ではロークの設計に余計なものをつけてしまうのです。そしてその結果、自分の作品ではないものになってしまったと思ったロークはその建物に火をつけ燃やします。そして法廷に引っ張り出され、自己中心主義者とセコハン人間の功罪を述べるのです。

ロークと同じような生き方をしたのはロークが師事したキャメロンや彫刻家のスティーヴン・マロニーでした。彼らは、自己中心主義者たちでした。そして多くの人たちがセコハン人間でした。特にキャサリンの叔父であり、コラムニストのトゥーイは、オピニオンリーダーであり、ロークを社会的に抹殺しようと画策します。自己犠牲を推奨し利他主義を主張し、マスコミを使って人々を操作します。トゥーイ自身がセコハン人間の代表格でした。

訳者の藤森かよこ氏が「「水源」においては、奴隷を必要としない自由で独立した個人と、奴隷によって支えられる支配者という名の奴隷と、単なる奴隷が、数々の戦いを繰り広げる。「水源」とは、このような政治思想小説である」と言及しています。

一方、恋愛小説の部分では分かりにくかった部分がありました。ロークとドミニクの関係です。二人はお互いに好き同士にも関わらず、全然一緒になろうとせず、最後の最後にやっと一緒になりました。特にドミニクはロークが好きなのに、キーティングと衝撃的に結婚し、その後バナー新聞の社主のゲイル・ワイナンドのこちらも急な求婚に即座に応えてキーティングとの籍から抜いてすぐさまワイナンドとの籍を入れ、彼女の本心がどこにあるのか、全く良くわかりませんでした。謎の美貌の女性という感じ。それでも物語の展開としては色んなことが急展開して面白くはありましたが。

皆それぞれの胸の内にあるその信念なり、信条に沿って、好きに生きたらいいなあと思いました。ロークのように生きたければそれもあり、キーティングのように生きたければそれもあり。何でもアリだよ、と私は思いながら読み進めました。

長編なので時間をじっくりとれるときに読むのがお勧めです。


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