Zildjian S Family Cymbals feat. Katsuma、KOUHEI 〜ジルジャンSシリーズ
- 2016/11/02
〜コンデンサー実験〜
“コンデンサーを替えれば、ギターの音は大きく変わる”──これ、ギター・マニアの間では常識のようになっていますが、実際はどの程度変わるのでしょうか? わかった気になっている方、本当に同じ条件でコンデンサーを比較できていますか? そう言われると自信がない? では我々が試してみましょう!
コンデンサーは、切ない──少なくとも私にとっては、コンデンサーは切ないパーツです。“あまり満足していないギターを少しでも良くしたい、あわよくば、あまりお金をかけずに”ってことで目が行くのがコンデンサーなんですね、私の場合。ある程度お金があってどこかを替えるならピックアップを替えますし……。そもそもそのままで最高にいい音がするギターなら、コンデンサーのことは気にしなくて済むわけです。
過去には個人的に“コンデンサー実験”まがいのことをやったりしたんですが、途中でハンダ付け作業が入るために、きちんとした比較ができません(前の音を覚えてられない)。そこでコンデンサーを替える毎にひとりでちまちま録音したりして、それがまた切ない……。コンデンサーについて「音、変わるよねー」とか軽〜く言ってる人は、一体どんなやり方で比較したのでしょうか?
私 「最近、改めてそんなことをウジウジと考えているんですよー」
赤鬼 「相変わらずダメダメですね、室長。ここはビシッと実験室で“ちゃんとしたコンデンサー実験”をやりましょう!」
私 「えー、できるのかなぁ。もじもじ」
赤鬼 「いや、室長おひとりでは無理でしょう。でも大丈夫です、アノ強力な助っ人陣を呼んでおきました」
……多少引っかかるものを感じつつ、助っ人の名を聞いたのですが、おお、それは確かに強力です! まずは『エフェクター写真館』の主として、また『THE EFFECTOR book』の連載「マニアの極北」、『ギター・マガジン』の連載「Vintage Effector Cafe」での解説などで知られる細川雄一郎さん! 配線材実験でもお世話になりました。
細川さん 「コンデンサーはそれだけで大きく音が変わる魔法のアイテムみたいにイメージされていますが、それはちょっと違うと思っているので、そこをきちんと伝えられるといいと思います。段ボール何箱分かのコンデンサーを持っていますので、定番とオススメを織り交ぜてお持ちします!」
た、頼もしい! さらにもうひと方、こちらもお馴染みESPギタークラフト・アカデミー東京校の水島亮二先生です! ナット実験でもお世話になりました!
水島先生 「僕もちょうど今、コンデンサーをいろいろと試しているところなんです。ちょっと面白いコンデンサーがあるので、それを持って行きますよ」
なになに、面白いコンデンサーって? なにしろ以前は“タバスコ漬けナット”を持ってきてくださったドへんた……方なので、今回もとんでもないものが出てきそうで、これは期待しちゃいましょう!
赤鬼 「どうですか、この鉄壁の布陣! これなら(室長でも)実験できるでしょう!」
私 「へへぇーっ!」
鬼に金棒とは、このことか(しかも2本)。それじゃ実験with金棒’s、始めるよー!
■使用機材
◎ギブソン・カスタム ヒストリック・コレクション1958 レス・ポール(ギター)
◎フェンダー 68 Custom Deluxe Reverb(アンプ)
◎ベルデン9778(ケーブル)
◎フェンダー・ティアドロップ・ミディアム(ピック)
◎現行品各種(コンデンサー)
※「楽器店などで手に入れやすい品」にて揃えたところ、次のようなラインナップになりました。ビンテージを含め一部、細川さんの私物となります。
・安価コンデンサー(フィルム/50VDC)
・DEL RITMO Black Candy Vitamin-Q(ぺーパーインオイル/630VDC)
・MONTREUX Sprague Orange Drop 715P(フィルム/600VDC)
・MONTREUX Retrovibe Cap“G64”Black Beauty(フィルム/400VDC)
・MONTREUX Retrovibe Cap“G59”BumbleBee(フィルム/400VDC)
・RS GUITARWORKS Paper in Oil RSOC22(ペーパーインオイル/200VDC)
・EMERSON CUSTOM 022 PIO Yellow(ペーパーインオイル/200VDC)
・JUPITER CONDENSER Red Astron Type(フィルム/400VDC)
・ARIZONA CAPACITORS Type C50309 Blue Cactus(ハーメチックオイル/600VDC)
◎ビンテージ各種(コンデンサー)
・1960’s Sprague Cera-Mite(セラミック/100VDC)
・1950’s Sprague Black Beauty(フィルム/600VDC)
・1950’s Sprague BumbleBee(ペーパーインオイル/200VDC)
・1950’s Cornell Dubilier Grey Tiger(ワックスモールド/400VDC)
※セッティングについて
■ギターはアンプに直結し、クリーン・サウンドで弾いています。ピックアップはリアのみを使用し、トーン10と、少し絞ったトーン7の2種類で比較しています。
■コンデンサー以外のセッティングは一切変えずに比較検証しています。
■コンデンサー交換時のハンダ付け作業を省略するために、細川さん所有のギブソン・カスタム・ヒストリック・コレクション1958 レス・ポールの配線を改造しています。改造点は、ボリューム・ポットとトーン・ポットの間のデフォルト・コンデンサーを外し、各ポットからワニ口クリップを出して、そこに新しいコンデンサーを挟むだけで通電するようにしてあります。
■今回はルーパーを使用できませんので、手弾きとなります。同じフレーズをできるだけ同じようなタッチで弾いていますが、どうしても弾きムラが生じることはご了承ください。
■地下実験室ではルーパーを使用した時のみ、波形を取って比較しています。今回は手弾きですので、波形分析は行なっていません。
■本企画では動画再生の際、ヘッドフォンでの視聴を推奨しています。
では、実際にコンデンサーを付け替えていきましょう。ここで比較するのは、楽器店やネット上で手に入れやすい、現行品のコンデンサー9種類です。まずはトーンを一切絞らない“10”の状態で比較していきます。この状態でも、音の違いは出るのでしょうか?
これが基準なので、なんとも言えないですが……細川さんは以下のように話してくれました。
細川さん 「これは、安価なギターに普通に付いている安いフィルム・コンデンサーで、ごく一部では“カスコン”と呼ばれています」
カ、カスですか。でもとりあえず、これを基準に考えていきましょう! 動画もこれのみの動画を用意していますので、気になったモデルがある時は一度カスコンのトーンに戻って聴き比べてみてください!
続いて、ビタミンQのレプリカです。アレ……こうして聴いてみると、カスコンとは高域の感じがずいぶん変わりましたね! マイルドな感じがしますし、コードの音は深みがあるように感じます。
こちらも有名なオレンジドロップです。カスともビタミンQとも違う感じです。強いて言えば、その中間といった感じでしょうか? アタックがはっきりしています。
次は、60年代のギブソン・レス・ポールなどに採用されていたことで有名なブラックビューティーのレプリカです。これはマイルドな感じです。ここまで聴いてみて、トーンを絞らなくても、コンデンサーを付け替えるだけで結構音が変わっていることがわかりますね!
こちら最も有名なコンデンサーではないでしょうか、1959年製レス・ポールに取り付けられていたことで知られるバンブルビーのレプリカのひとつです。これもマイルドですね。ビンテージ感が出るようにチューニングされているのでしょうか。しかし、ブラックビューティーよりはアタックが強く出ているように感じます。
遊び心と実用性を両立させたギター・ブランド、RSギターワークスのコンデンサーです。バランスが良く聴こえます。
水島先生 「味があるし、リバーブ感もありますね」
私は今回の実験まで知らなかったのですが、エマーソン・カスタム・ギターズというオクラホマのブランドの製品。これはかなりマイルドで、低域が出る感じですね。
ジュピター・コンデンサーによるレッド・アストロンという製品です。その名からわかる人はわかると思うのですが、フェンダーのツイード・アンプなどに使われていた、アストロン製コンデンサーのレプリカになります。アタックが出て、バランスも良く感じました。
アリゾナ・キャパシターズというブランドのもので、なんでも1967年製CPV09を復刻したモデルだそうです。1967年製とピンポイントで攻めてきたということは、その前後の年代の特性も熟知しているはずで、細川氏はそのストーリーに激しく萌えておりました(笑)。とにかく音、でかいです!
細川さん 「これはパワフルで、解像度も高いです」
ここでは実験1と同じ製品を使用し、トーンを7まで絞って聴き比べてみます。トーン10では違いがわからなかったという方も今度はその違いがわかりやすいかもしれません。また、トーン10で好みのコンデンサーを見つけた方は、ここで改めて傾向を確認すると良いかもしれませんね。では、レッツラゴー!
音、こもっていますね。これは最初に登場するのでわかりにくいですが、他の音を聴いたあとで再度聴いてみてください。音が平面的で、カスと呼ばれる理由がわかります……。
水島先生 「確かにレンジは狭いですが、コンデンサーの役割は十分に果たしています。なんというか、努力家ですね」
先生、コンデンサーに努力家って(笑)。
これも当然トレブルは落ちていますが、カスに比べるとアタックが心地良く、音楽的に感じます。
かなりまろやかな印象です。トーン10の時はここまでまろやかな印象はなかったので、このコンデンサーの絞った時の特性かと思われます。
これはオレンジドロップ以上にまろやかですね。トーン10の時もマイルドな印象でしたので、このコンデンサーの個性だと思います。ちなみにトーン10、9、8、7と段階的に絞っていくと、スムーズに音が変化しましたよ(そうならないものが多いのです)。
正直な感想を書きますと、弾いた直後はあまりにも有名な割に“微妙なコンデンサー”だと思いましたが、録音されたものを聴くと、特段悪くはないですね。
トーンを絞ってもアタックがはっきりしていますね。動画ではほとんどわかりませんが、弾いた直後は3弦が弱く感じました。
これ、不思議な感覚なのですが、ブラッシングした音だけが弱く感じました。どういうことなのだろう? 現場で聴いていた水島先生も「和音は高級感がありますが、ブラッシングは別モノですね」と仰っていたので、たぶん気のせいではないはず……。
これはトーンを絞っても明るく響きます。最後のコードの音も非常に良いですね! 以下のとおり、おふたりとも高評価です。
水島先生 「上下ともしっかり出ていて、解像度が高いです」
細川さん 「トーンを絞ると嫌なところだけが落ちて、美味しいところはしっかり残っていますね」
やっぱり、これ音量でかいですよ! トーン10でも思いましたが。音量でかめの不思議なコンデンサーです。
ここからはビンテージもののコンデンサーをチェックしていきましょう。高価かつ入手しづらいモノもあるので、その音を確かめる貴重な機会だと思います!
こちらは60年代のスプラグ製セラミック・コンデンサーです。明るくて、乾いていて、ちょっとぶっきらぼうですが、味があります。
水島先生 「固いけど、レンジが広くて良い感じ」
細川さん 「セラミックは固い傾向があって、これは典型的ですね」
これ、はっきり言ってフェンダーの音ですよね。このフレーズだけではわかりにくいかもしれませんが……。
なるほど、こうしてビンテージ・モデルを実装して聴いてみると、ギブソンとはよく合いますねぇ。
水島先生 「まろやかで、太くて、いい感じです」
細川さん 「中域にピークがあって、エロいです」
この実験用のフレーズ以外にもいろいろと試してみたのですが、サステインの感じや余韻が非常に心地良かったです!
最初は上が気持ち足りないかと思いましたが、そんなことないですね、しっかり出ています。
水島先生 「ややミッド寄りという感じですが、バランスが良いと思います」
細川さん 「これ、実はギターだけじゃなくオーディオにも使われるくらい、自然な音がします。上がソフトで耳障りなところがないんですよ」
ちなみに動画には撮れませんでしたが、実はトーン9くらいがすごく良かったです!
これはかなりまろやかですね。でもハイが出なくてつまらない感じはありません。
水島先生 「トーン10でも丸いですね。でもキレイに響いています」
細川さん 「ワックスモールドはこもる傾向にありますが、これはバランスが良いと思います」
ま、簡単に言えば、エロい熟女という感じです。
次にビンテージ・コンデンサーのトーンを7に絞ってチェックしていきます。
弾いた本人としては、やっぱり“フェンダー感”を感じますが、なんと言うか、トーンを絞ることでグッと良くなるタイプのコンデンサーではないなと感じました。
ハイは出ませんが、こもっちゃって使えないという感じはしません。色っぽさはありますね。
同じトーン7でも、ブラックビューティーよりだいぶ明るい音です。個人的にはトーン9くらいにするのが心地良かったです。
やっぱり丸い! トーンを絞ってもキレイに鳴っています。このまろやかな感じは他のモデルにも通ずるところがあり、“ビンテージの音”というひとつの傾向なのかもしれません。
ここから先の実験は、座談会動画の中で行なっていますので、そちらをご確認ください。
ここでは同じジュピター・コンデンサーの200VDC/800VDCという耐圧の違いによる音の差を比較してみました。よく聴くと、200VDCの方がローが締まっていることがわかります。同じコンデンサーでも耐圧が違うだけで結構音が違うんですね。
細川さん 「耐圧が高いほど、肉厚で低域が豊かになる傾向があります」
水島先生 「これ、例えばフロントには耐圧が低いものを、リアには高いものをと、使い分けるのはアリですね」
なるほど! 確かに好みのコンデンサーを見つけたら、あとは耐圧の違いで使い分けるというのはすごく良さそうです! これは勉強になりました!
また、対談動画後半の水島先生による手作りコンデンサーについて。いやあ、こちらも本当に楽しい世界ですね。これだけお手軽にできてしまうんですから、ぜひ皆さんも各自で試してみてください。
結論:コンデンサーでギターの音はほどほどに変わる
音、変わりましたね。でも、細川さんが言うように、コンデンサーは“魔法のアイテム”ではないと思います。おまけ映像のコンデンサー座談会の中で興味深かったのが、「ギター・サウンド全体の中でコンデンサーの影響が占める割合」について、ゲストのおふたりとも「多く見積もっても2%くらい、下手したら小数点以下のパーセンテージ」という見立てをしていたところです。これについては、私も完全に同意です。
コンデンサーによって音は確かに変わりますが、その影響は決して大きなものではない──これをどう考えるかは、人それぞれでいいと思います。個人的にはピックを変える影響の方が大きいとは思いますが、コンデンサーも無視できないので、皆さんが買い占める前に自分用のジュピターを買っておこうと思います(笑)。それでは、次回、地下34階でお会いしましょう!
井戸沼尚也(いどぬま・なおや)
大学在学中から環境音楽系のスタジオ・ワークを中心に、プロとしてのキャリアをスタート。CM音楽制作等に携わりつつ、自己のバンド“Il Berlione”のギタリストとして海外で評価を得る。第2回ギター・マガジン・チャンピオンシップ・準グランプリ受賞。現在はZubola funk Laboratoryでの演奏をメインに、ギター・プレイヤーとライター/エディターの2本立てで活動中。