つらい入院生活の続くユキの唯一の友達が、小泉八雲の『怪談』に出てくる「耳なし芳一」というパンチ力のある設定が用意されてある。芳一はなぜか少年の姿でユキの前に現われ、しかもなぜか耳がある。ユキに連れてこられた動物園で、芳一が檻の中の動物たちを怖がって空をぴょんぴょん跳ぶシーンが延々と続く。本当に『仁義なき戦い』(73)の名脚本家・笠原和夫がシナリオを書いたのだろうかなど、いろんな疑問が湧いてくるミステリアすぎる作品だ。心臓停止状態に陥った明菜にマッチがなぜか上半身裸になって人工呼吸を施すシーンがあったことを忘れさせてしまうほどのインパクトがある。芳一に気を取られているうちに、ドラマはあれよあれよと終盤を迎えてしまう。現実世界では思うようなゴールを迎えられなかった2人だが、映画の中では永遠の愛を誓い合う。当時の2人にとっては、それだけで充分だったのかもしれない。本作はDVD化されておらず、今はレンタルビデオ店にVHSがひっそりと残されている状態だ。
アイドル映画を語る上で外すことができないのは、やはり大林宣彦監督。「若い女性の美しいそのままの姿を映像として残しておきたい」という素晴しい考えの持ち主で、多くの新人女優たちが大林作品でヌードに応じている。子役時代の宮﨑あおいが裸になる『あの、夏の日 とんでろじいちゃん』(99)など、児童ポルノに対する規制が強い現代では撮れない作品だろう。そんな大林監督の尋常ならざる映画愛と美少女への情熱がほとばしっているのが商業デビュー作『HOUSE ハウス』(77)である。この斬新すぎるホラーファンタジー作品で、清純派(懐かしい言葉)として売り出し中だった池上季実子は中盤の入浴シーンとクライマックスで2度おっぱいポロリを見せている。10代の女の子たちの性への憧れと恐怖心が戦争の悲惨な記憶が刻まれた田舎の屋敷で化学反応を起こし、怪奇現象を呼び寄せる。CM界出身の大林監督が映画の所作に縛られない奔放なビジュアルセンスを炸裂させ、ピアノや大時計が少女たちを食べてしまうというシュールな残酷シーンを生み出した。池上季実子演じるオシャレは、『魔法少女まどかマギカ』の魔法少女が魔女に変貌したような妖艶さを感じさせる。クライマックス、屋敷の中は血の海となり、ファンタ(大場久美子)ら生き残っていた少女たちも血の海へと沈んでいくことになる。大人になることで少女たちの中の処女性が失われることの悲しみと喜びを、大林監督はトリップ感のある映像詩として朗々と歌い上げている。
深夜ドラマ『エコエコアザラク』などに主演し、ホラー界のアイコンとして人気の高かった佐伯日菜子と新人時代の尾野真千子が共演したのが塩田明彦監督の『ギプス』(01)。ギプス&包帯姿の佐伯日菜子が妖しい色香をふりまき、親切心で近づいてくる男たちを餌食にしてしまう犯罪サスペンスだ。平凡な女の子・和子(尾野真千子)も環(佐伯日菜子)のサディスティックな魅力に惹かれ、彼女に従属することにマゾヒスティックな喜びを感じるようになっていく。NHK朝ドラ『オルゴール』でブレイクしてからは実力派としての貫禄が漂うようになった尾野真千子だが、この頃の彼女は小動物系の初々しいかわいらしさがある。『月光の囁き』(99)でフェティッシュな描写が冴え渡った塩田監督は、本作でも若い女性2人の心のバランス関係を繊細に描いてみせる。塩田監督は宮﨑あおい主演作『害虫』(02)以降はメジャーシーンへ移行していったが、『月光のささやき』『ギプス』のようなフェティッシュさを扱った作品を再び撮ることを期待したい。