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ナツのお死らせ 作者:原作:凸もりmk-2 著:ガラパゴス諸島。
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賑やかな不快感

夏のとある日ーーー俺は、自分の過去に決着をつけるための狼煙が上がることになる。始まりも終わりもいつだって・・・・・唐突に訪れる。
夏の日差しがダイレクトに照りつける。額から汗が滴り落ち、水溜りができている。ここ最近で一番の暑さである。今すぐ家に帰って涼しみたいが、そうはいかない。なぜなら俺、藤田凸もりは警察官であり、今はパトロール中なのだ。警察官とはいえど、半径5キロ圏内にコンビニがない超ド田舎勤務だが。ふと畑に目を向ける。あの生い茂っている草は風で揺れているのか、はたまた陽炎なのか。頭がクラクラし、何も考えられなくなり・・。遠のいていく意識を引き留めるように、こちらへ声が掛けられた。

「なーにだらしない顔して惰性な公務をしているのだね?」

俺はその台詞に聞き覚えがある。これは、巡査部長の・・・。

「す、すみません!巡査部長!決してだらけてパトロールをしていたわけでは・・」

とそこで俺はあることに気がつく。この人は巡査部長などではない。

「アハハハッ!凸ちゃんてば本当にビビってる!」
「お前は・・・」

日光に照らされて輝いている透き通った白い肌。風に揺れる自毛の茶髪。一般的に美女と呼ばれる美貌を持った、俺の天敵ともいえる幼馴染。戸越ひなこである。

「だって凸ちゃんがあまりにもしんどそうな顔して仕事してるから、ついからかいたくなっちゃって。」

そんな理由でからかわれるなんて、やられる側からしたらたまったものではない。この典型的なS体質。やはり俺の天敵だ。

「まったく、公務の邪魔をするなよ。」
「邪魔とは失礼な。私は職務怠慢な警察官に一市民として喝を入れてあげたのだよ。」

またからかうような口ぶりで言ってくる。

「余計なお世話だ!さっさと帰れよ。もうそろそろ日も暮れるし、変質者にでも出くわしたらどうするつもりだ!」

ひなこのからかいに耐えられなくなり、反論すると、

「なんだ凸ちゃん!カワイイ幼馴染の私のことを心配してくれるの?やっさしーーー!」

俺は警察官としての注意を促しただけのはずなのに、なぜそうなるのだろうか。いままで読んだ本やドラマでも、こんなに面倒臭い幼馴染など見たこともない。

「仮に俺が警察官などやっていなかったら、お前の身など案じるものか!」
「はいはい、そうですね♪凸ちゃんは善良な市民を守る心優しい警察官だもんね♪変質者にあったら全力でわたしのこと守ってくれるんだもんね♪」

こいつはおれの立場を最大限に生かしてからかってきた。警察官でなかったらゲンコツを食らわせていただろう。しかしからかい方がうまいのがまたイライラするところだ。全日本からかいグランプリがあれば優勝間違いなしだと思う。

「いいから早く帰れよ。おばさんも心配するぞ!」
「はーい!分かりました。それじゃあ頑張ってね♪町の安全を守る正義の警察官さん?」

そう言うとひなこはその長い髪を翻し、去っていく。最後まで俺をからかおうとするあたり、やはりひなこは性格が悪い。俺は幼少期からひなこに馬鹿にされ続けてきた。時には俺も言い返したりもしたが、いままで一度たりとも口喧嘩で勝った記憶がない。同じ環境で育ったはずなのに、どうしてひなこはあのようなひねくれた性格になってしまったのだろうか。そんなことを考えていると、ひなこが急に足を止めてこちらに振り返った。

「あ、そうだ!凸ちゃん!今日ご飯食べにおいでよ!今日は私お手製の麻婆豆腐だよ♪凸ちゃん 私の 麻婆豆腐すきでしょ♡」
「俺が好きなのは麻婆豆腐であって、別にお前がつくったって何の魅力もプラスされないぞ。」
「もう、素直じゃないんだから」

さっきのは俺の素直な感想なのだが。どうしてひなこはこうもおかしな解釈をしてしまうのだろう。まったくもってめでたい頭だ。

「とりあえず麻婆豆腐が好きなことに変わりはしないんだから、今晩私の家に食べに来てね♪絶対だよ?」
「なんでそんなことお前が勝手に決めるんだよ!こっちの予定だって・・」
「あれー、いいの?どのみちまた私のお母さんが凸ちゃんの家に駆け込んで、説教するはめになるとおもうけど?」

俺はひなこのお母さんには頭が上がらない。なぜなら、ひなこのお母さんは俺の恩人なのだ。俺は、両親が俺が小学生の時に交通事故にあって亡くなってしまい、それ以来じいちゃんの家で暮らすこととなった。しかしじいちゃんはそのガサツな性格のせいか、家事や育児などができない人で、大変不憫であった。そんな俺たちの身の回りの世話や、家事などを全般的に手伝い、生活を成り立たせてくれたのがひなこのお母さん、冴子さんなのである。しかし俺ももう社会人であるし、公務員という立派な職にも就くことができた。俺一人でも充分にやっていけるため、そんなに気を遣わなくてもいいのだが。

「それじゃ決まりね!七時にはご飯できてると思うから、仕事が終わったらまっすぐ家に来るのよ?」
「分かったよ!分かったからさっさと家に帰れ!」
「やった♪それじゃまたね!」

はぁ、といつも以上のため息が出る。ひなこと関わるとロクなことがない。そしてまたひなこの思い通りになってしまった。何故俺はひなこに対してこんなに弱いのだろう。まあ夕飯自体は悪い話ではないし、むしろありがたいのだが。はあ、ともう一度大きなため息をすると、どこからか声が聞こえてきた。また、面倒臭いのがやってきたようだ。

「ああ、うらやましいな~。」

どこかおちょくるような口調で、

「いいよねー。幼馴染設定がある主人公ってのは。」

なにやら、見せ物への感想のように言ってくる二人組。
声のする方には饅頭のような形の頭部が浮いている。二人とも女で、一人は巫女のような格好をしており、もう一人は金髪でバナナのような髪型に、魔女のような帽子をかぶっている。前者の名前を霊夢、後者を魔理沙というらしい。普通の人がこんなのをみたら、驚いて腰を抜かしてしまうだろう。しかし、俺は驚きもしない。慣れとでも言うべきだろうか。そう、こいつらは昔からよく俺の前に現れる。そして不思議なことに俺にしか見えないのだ。まさに超常現象である。

「魔理沙、しかも料理まで作ってくれる世話好き幼馴染だよ!男だったら一度は夢見るよね~」
「しかもこれまた超絶美女ときたもんだ!くうぅーーーっ憎いねにいちゃん!」
「うっさいぞ、お前ら。昼間は俺の前に現れるなって言ってんだろ。」

そうなのだ。こいつらが昼間に現れるととても厄介だ。こいつらが見えてるのは俺だけであるから、相手にしてると俺は完全におかしい奴だと思われてしまう。

「このまま家でご飯食べてデザートは わ・た・し♡ というベタな流れになるのかな?」
「いやいや霊夢さん、そんなベタな流れは今時ないでしょ!どうせなったとしてもコイツヘタレだからどうせなにもできないでしょ~」

勝手に話が進んでいくが、完全に方向が間違えている。ひなことそうなったとしてもうれしくないし、想像したくもない。そして別に俺はヘタレじゃないもん!

「お前らあと三秒のうちに消えないとぶん殴るぞ?いいな?お前らには日本の法律は適用されないから、俺は余裕でお前らに暴行を加えられるんだぞ!」
「あーやだやだ!これだから日本の警察ってやつは。」
「霊夢、警察とか関係なしに学がない奴は暴力に訴えるしかないんだよ。」

「「もはやそんなの原始人レベルじゃん!!」」

大声同士でハモると、不快感が増す。それにこんな奴らに学がないなど言われたくない。そもそもこんな饅頭共に学なんて無いであろう。そこで俺はある異変に気が付いた。心なしかこいつらが光り始めたような気がする。すると、

キュポォンッ

と間の抜けた音とともにあの饅頭共が消えていった。散々人の感情を逆なでした挙句こっちが行動する前に消えてしまった。何て奴らだ。もうストレスは散々だ。あんなのが見える能力なんていらない。小悪魔な幼馴染といい、不愉快な饅頭共といい、どうかこの溢れ出るため息をとめる能力をくださいと願うことしかできなかった。そして重い足取りで、半ば忘れかけていたパトロールを再開するのであった

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