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マスター:牛男爵
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:6人
サポート:0人
リプレイ完成日時:2016/10/31


みんなの思い出

1
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オープニング


 ここは、とある山奥の温泉。
 人里離れた大自然にひっそり佇む、幻の秘湯だ。
 と言えば聞こえは良いが、現実はほとんど客が寄りつかない閑古鳥温泉に他ならない。
 温泉を保有する旅館も絶賛赤字路線で、もう十年近くも右肩下がりの経営が続いている。このまま行けば、いずれ破綻は確実だ。
 原因は色々あった。
 十年前、近くに大手旅行会社の運営する旅館が参入してきたこと。
 何年か前に最寄りの街を天魔が襲って犠牲者が出たことも、悪印象を植え付けた。
 今年たてつづけに上陸した台風の被害で、道路が断絶した箇所もある。
 または『若者の温泉離れ』などというのも長期的かつ深刻な問題だ。
 手を打たなければどうにもならないのだが、その資金もアイディアもない。
 今日もまた、たった一組の客しか宿泊してない現状に頭を抱えながら、女将は溜め息をつくばかりだ。

 そのとき。温泉のほうから女性の悲鳴が聞こえてきた。
 さては野生の猿でも出たかと、急いで駆けつける女将。
 なにしろ人手不足なので、こんな対応も女将自身がやらねばならぬほどなのだ。
 すると彼女の目に映ったのは、バスタオルを体に巻いて震えている女性客と……一頭の巨大なツキノワグマ。
 見たところ女性にケガはない。というか、クマは悠々と温泉に浸かっているではないか。
「なんて図々しいケダモノ……はっ、お客様お怪我はありませんか?」
「ケガはないけど、こんなクマが出る温泉だなんて聞いてないわよ!」
「申しわけありません。すぐに対処しますので……」
「もういいわよ! こんなおっかない温泉ごめんだから! 今夜の宿泊はキャンセルさせてもらいます!」
 客が怒鳴るのも無理はなかった。のんびりと温泉をたのしむ予定でやってきたら、野生のクマと遭遇である。シャレにならない。

 こうして本日一組だけの客は、「クマが出る最悪の温泉ってネットに書きまくってやるから!」という捨てゼリフを吐いてチェックアウトしていった。
 もしかするとこれがとどめになるかもしれない……そう思いつつ女将が温泉に目をやると、クマは頭に手ぬぐいをのっけて湯に浸かっているのだった。
 ともかく退治してもらおうと、村役場に電話する女将。
 だが返答はといえば、「ただいま担当の者がいませんので……」とか「ほうっておけば山にもどるのでは」などという杜撰きわまる対応。「まぁ負傷者もなく実被害はありませんし……」とまで言われる始末だが、もちろん被害はある。客に宿泊をキャンセルされたうえ、ネットで悪評をばらまくと宣言されたのだ。その件も相談してみる女将だが、役場の対応はどこまでも他人事。しまいには「数日ほど様子を見てクマが居座るようなら再び連絡してください」と言われて電話を切られてしまった。
 無論そんな悠長に構えている余裕はない。いますぐどうにかしなければ、この旅館はおしまいだ。

 そこでふと、女将は思いついた。
 そうだ久遠ヶ原に相談してみよう、と。
 ろくな報酬も出せないが、噂によれば撃退士の行動はとにかく迅速だという。クマ退治を依頼するのは当然だが、できれば経営を立てなおす知恵も借りたい。うまく行くかは別として、役場よりは頼りになるだろう。なんなら愚痴を聞いてもらうだけでも……と考えて、女将は黒電話を手に取るのだった。




プレイング

歴戦の戦姫・雫(ja1894)
中等部1年1組 女 
【心情】
「さて、調教は初めてなので上手く行けば良いのですが」

【行動】
最初に熊を屈服させる為に闘気解放を使用して完膚無きまで叩きのめしてからヒールや癒しの風を使用して回復させる
熊の反抗心が無くなるまで続けるが、回復スキルが切れるまでの従順にならない場合は鍋の具材にする
「さあ、鍋の具になるか従順になるか選びなさい」

従順になったら宿の女将に処遇を提案
女将の許可が下りたら女中としての調教を開始、許可が下りなかったり調教が上手く行かない時はペット的な存在にする どちらの許可も下りない場合は鍋の具材に

女中調教の手始めとして、山に住む他の熊を売らせる
「命が惜しいなら他の巣穴に案内しなさい。私も鬼ではありません、貴方の家族の安全は保障しましょう」
判明した巣穴を襲撃、見どころのある熊以外は鍋の具材にして残りは同じ様に調教する
「これで、山には貴方の居場所は無くなりました。裏切者と襲われたくないならここでの生活になれる事です」

女中教育はスパルタ式で短時間で戦力になるようにソーンウィップでシバキながら行う
「お客さんに出す料理を食べも女中がいますか!」
「身だしなみに気を配りなさい、毛を料理に落としたら丸刈りにします」

※アドリブOK

ティアーズ・ムーン・Rehni Nam(ja5283)
高等部3年1組 女 
白くまーで参加
会話は「がお」や「くま」「うが」辺りのみ
プラカードで意思疎通を図ったりも


熊については熊さん逃げてー?! 派だったり熊鍋派だったり
つまり、どちらでも良い
が、調教して女中熊、の案が一番(面白そうで)良いと思っている



熊調教時は、手本を見せる
くまーをしっかり見るくまーよ、という意味を込めて、一鳴き


温泉に友達汁を混ぜておけば、友人もとい友熊になって、言う事利いてもらいやすくなるかも

おイタをした時は「♪くまー、くっまー♪」等と歌って眠らせます
イタズラは出来ない、みたいに思い込めば上々
まあ、最初からしないのが一番ですが
……すると、死活問題かも?(参加者に視線を回し



他の熊が人身御供になった場合、喜んで熊鍋むしゃむしゃ
が、その時は情が移ってそうなので、ここは私に任せて先に行け!
なノリで逃がすかも

もう二度と、人目につくような所に来るんじゃないくまー
(自分は棚に上げるスタイル


え?
そもそも「調教不要」と言われた場合?
情が移る理由もありませんし、さっさと包丁一閃で解体して食べるんじゃないですかね
年齢的にお酒は飲めないので、お米のジュースとか飲みつつ

あ、肝は傷つけないよう取り出して、売ります
(代金は宿へ


解☆禁!チェリーピンク・焔・楓(ja7214)
小等部6年1組 女 
・熊鍋と聞いて参加。
が、生(?)の熊だったので少し残念。
とりあえず調教するとのことだったので服を脱ぎ温泉へ突入。
熊と一緒に温泉に入って見たかったらしい。
楽しそうに一緒に入りつつも攻撃してくるようなら迎撃。
温泉で熊と戯れる。飛び回ったり熊の頭の上に乗ってみたりお風呂の縁で脚を滑らせ転んでみたり。
一応強力な一撃を加えないよう手加減。
ちなみに調教の意味はあまり理解していない。
「熊鍋食べれるかと思ったらまだ生の熊だったのだー?」
「ちょーきょー?遊ぶことかな?かな?ならあたしも遊ぶのだー♪」
「おー、本物の熊さんなのだ。手ぬぐいをお湯につけないってことはマナーのなってる熊さん?」

・熊が言うこと聞いて女将が納得するなら熊をマスコットに。
どうにもならんのならさくっと倒して熊鍋に。
楓は熊鍋の方が喜ぶ。目の前の熊で無くてもいいけど。
数日かかるなら旅館に泊まりつつ調教。
その過程で気になった所を伝え宿の改善に繋げる。
…が、楓なので大したことは思いつかない。
とりあえず熊いるし熊鍋名物にしたら、とは。女将だけでどう捕まえるかは知らないけど。
「熊鍋名物にしたらお客さん来るんじゃないかな?かな?此処に熊がいるってことは他にもいそうだし?」
「熊さんと戯れられる温泉とかで売るとかー?撃退士専門にして。倒したら熊のお肉が食べられます、とかー」

両刀使い・月乃宮 恋音(jb1221)
高等部3年2組 女 

*行動

・到着後、[女将]に[宿泊希望]を伝えつつ[調教による対応]という[予定]を説明
・[単純に[追い返す]のは[温泉]を覚えた[熊]が再度訪れる可能性がある為解決にならない][上手くいけば[宿の名物]に出来る][失敗時は即退治する為、試す価値は有る]等の理由を伝える
・取り敢えず[安全策]として[人を襲わない]事と[定期的な巡回警備]をする様仕込む形を提案
・[調教の進行具合]により[雫さんの案]〜[私の案]の間で可能な所に収める想定/但し[女将]の希望は優先

・[調教]は横で手伝う/襲ってきたら[頬]を掠めるように[ライトニング(以下[雷撃])]後[微笑]
・[調教]結果に関わらず[熊退治]は発生する為、その際は[雷撃]で[頭]を狙う/内臓を傷つけると[臭み]が回って味が落ちる為
・[妨害者]がいた場合も容赦なく[雷撃]
・[熊肉]を捌くのは[鮮度]が重要な為、即時取り掛かる/[焼肉部]の活動で[捌く]方の経験は十分

・[料理]段階では[熊の骨]で出汁を取った[かけそば]の[熊蕎麦]と、[熊肉の燻製]を作成
・[燻製]は[焼肉部]等を含め皆のお土産に
・余った肉は近くの[精肉店]に卸し、販売額を[旅館]の補填(及び[宿泊費])に充ててもらう

・一晩ゆっくり泊まりつつ[改善点]をチェック/結果を報告
・[ネット]に広告と[市のHPへの案内記事]を出す事を提案/此方の手続きは手伝いつつ教える
・[学園側]に[合宿場所]の候補として提示する許可を得る/近くに[自然]が豊富な為、軽めの[サバイバル]や[焼肉部]の活動に使用可

蔵倫と戦う!・袋井 雅人(jb1469)
大学部2年8組 男 
とにかく何でもOK!!

自分にはAV(アニマルビデオ)フラグが強烈に立っているので、温泉に入りに来る熊さんへの対応は信頼する仲間達に任せます。
代わりに自分は山に入って山菜やら茸やら木の実やら寂れた社やら散策コースやら、今後この地で観光資源になりそうなモノを探してみようと思います。
山に入る前にまずは山の神様にお菓子やお酒をお供えしてお祈りを……。
お祈りが済んだら山に入って寂れた社があったらまわりを掃除をして可能な限りの補修を、散策コースは歩きやすくなるよう踏みならしたり木で階段作ったり撃退士パワーでやれるとこまでやっておきます。
暗くなって山でのひと仕事を終えたらみんなと合流してお互いの成果を確認しますよ。

無事に依頼が解決したら女将さんから許可を貰って、みんなでのんびりと温泉に入りたいですね〜。
男湯にはお酒を持ち込んでゆったりとマイペースに杯を傾けたいものですなー。
温泉を使わせて貰ったあとはちゃんと旅館の掃除をしてから帰りますよ。

いつものことながら他の方からの絡み大歓迎です。

V兵器探究者・天城 絵梨(jc2448)
高等部3年91組 女 

【心情】
 「何としても熊さんを助けないと」

【目的】
 依頼には熊を処分させない事と旅館の人気回復を目的に参加する。

【準備】
 


【行動】
「熊さんは自然の中にいる時が一番かわいいよ」
 イベント中、他のメンバーが調教を行う際、熊に深い愛情を持って接する
  熊の様子を観察し、怒っているようならなだめ、怯えているようなら優しく話しかける
近辺に放し飼いの状態にするため、近くの野山から岩、流木等を持ってきて柵をつくる。
  近くに放し飼いのような状態にでき、熊見たさに客足が増えて
 旅館の利益率が回復し余裕が出てきたら熊に人がいない時間、温泉を利用してよい
  ように女将に頼む。



リプレイ本文



「聞いてくださいよ、撃退士の皆さん。あの熊ときたら毎日毎日うちの温泉に入りに来て……完全に住みついてしまってるんです。どうにかしてくれませんか」
 宿屋を訪れた撃退士たちを、女将は涙ながらに出迎えた。
 歳は80近いが、まだまだ元気そうだ。あと10年は働けるだろう。
「もちろん、そのために私たちが来たんです。大船に乗ったつもりでどうぞ。今夜は絶品熊鍋をごちそうしますよ」
 雫(ja1894)が自信満々に応じた。
 これまで無数の天魔を撃破してきた彼女にとって、ただの熊など鍋の具材でしかない。
「やったー、今日の晩ごはんは熊鍋なのだー♪」
 無邪気に喜ぶのは、焔・楓(ja7214)
 小さなくせに大食らいの彼女は、熊鍋が食べられると聞いて参加したのだ。頭を使うのは苦手なので、旅館の経営などは他人まかせ。
「待って。むやみに動物を殺すのは反対よ。温泉に入るだけのおとなしい熊だっていうし、話せばわかると思う」
 すっかり熊鍋にする気でいる仲間を、天城絵梨(jc2448)が止めた。
 一見クールに見える黒髪少女だが、じつは動物を愛する自然愛好家の絵梨。今日は熊を救うためにやってきたのである。
「そんなー! 熊鍋食べられないのだー?」
 残念そうに叫ぶ楓。
 熊鍋目的で参加したのに鍋が食べられないのでは、がっかりするのも無理はない。
「あのぉ……鍋にするかどうかは、実際に熊を見てから考えることに、しませんかぁ……?」
 月乃宮恋音(jb1221)が冷静に提案した。
 平和な提案に見えるが、こう言いながらもMy包丁やMy調味料をしっかり持参。燻製用のスモークチップまで用意済みという完全料理体勢だ。焼肉部やKCBで鍛えた料理の腕を見せられるか?
「鍋はともかく、熊を退治してくれないと困るんですが……」
 鍋派と愛護派の意見が割れたので、女将は少々不安げだ。
 それを落ち着かせるように恋音が言う。
「えとぉ……単に熊を追い返しても、温泉の味を覚えたからには再び訪れる可能性が、あるのですよねぇ……。かといって、一方的に殺してしまうのも可哀想ですし……」
「ならば調教して宿の名物にするのはどうです?」と、雫。
「そんなこと、うまくできますか?」
 女将の顔が不安の色を増した。
「うぅん……せっかくなので、駄目元で試してみる価値はありますねぇ……。うまくいけば、宿の名物になりますし……うまくいかなければ、そのときは鍋ということで……」
 冷静な口調で熊鍋ルートを支持する恋音。
 理論的なぶん、ある意味一番むごい。
「私は恋音の意見に賛成しますよ。むやみな殺生はいけません。もちろん退治するしかない場合は私も調理を手伝います」
 袋井雅人(jb1469)が応じた。
 ふだんは女装したりパンツをかぶったりしてる男だが、今日は普通の制服姿だ。
「心配は無用ですよ、女将さん。なんだかんだで依頼は大抵うまく行くものです。我々が来たからには御安心ください!」
 堂々と言ってのける雅人の姿は、いつもの彼を知らない女将から見れば実に頼りになりそうだ。
 が、次に彼はこう言うのだった。
「それでは皆さん、熊の対応はまかせますね。私は山に入って何か観光資源になるものがないか探してきます。なにしろAV(アニマルビデオ)フラグが盛大に立ちまくってるので、私が行くと危険ですからね」


 という次第で、雫、恋音、楓、絵梨の女子4名が温泉に向かうことになった。
 たどりついたのは、森と川に囲まれた露天風呂。野趣あふれる自然のままの温泉である。
 するとそこに、一頭の熊発見。情報通り、のんびりと温泉に浸かっているではないか。
「おー、本物の熊さんなのだ。手ぬぐいをお湯につけてないってことはマナーのなってる熊さん? アタマいいのかな? かな?」
 やや興奮気味に喜ぶ楓。
 だがしかし……
「え、えとぉ……? 私の目の錯覚でしょうか……あれは北極熊では、ありませんかぁ……?」
 とまどい気味に恋音が訊ねた。
 実際、温泉に入ってるのは真っ白な熊だ。
「待って。日本に野生の北極熊はいないよ。もしかすると……そう、どこかの動物園から脱走してきたのかも。だとしたら殺すのはまずいよ。ましてや鍋にするなんて」
 ありえない光景を前に、絵梨もやや困惑の様子だ。
「熊の種類など、どうでもいいですね。まずは完膚無きまで叩きのめして、上下関係を教えてやりましょう」
 雫は深く考えないことにして、闘気解放しつつ大剣を抜き放った。
「駄目よ! そんなので攻撃したら死んじゃう! 相手は天魔じゃないんだから!」
 絵梨が慌てて止めた。
「ヒールすれば治ります。では行きますよ」
「やめて! 熊がかわいそう!」
 などと揉めている二人を尻目に、「クマさーん、一緒に温泉に入るのだー♪」と言いながら、服を脱ぎ散らして突撃する楓。
 その直後。
「がおーー!」と獰猛な(?)声を上げて、熊が両腕を振りかざしながら立ち上がった。
「うわー! 凶暴な熊だったのだー!?」
 楓はすかさず『鉤爪』を装備して、鬼神一閃!
「おぉ……!? 聞いていた話と違いますよぉ……!?」
 予想外の展開に驚きつつも、恋音もライトニングで応戦した。
 しかも的確に頭部を撃ち抜いている。内臓を傷つけると臭みが回って味が落ちるためだ。
「だから言ったのです。さっさと鍋にしてしまいましょう」
 とどめに雫の太陽剣が、容赦なく熊にブチこまれた。
 威嚇ではない。本気の一撃である。もともと『動物=食料』と考えている雫にとって、野生の熊など食材でしかないのだ。
 なんにせよ撃退士3人(うち2名は世界級の強者)の攻撃を受けて、熊は「うがーー!?」とか叫びながら血まみれで吹っ飛んだ。
 そのまま動かなくなり、ぷかぷかと水面に浮かぶ哀れな熊さん。
「うぅん……これではもう、調教どころではありませんねぇ……。鮮度が落ちないうちに、さばいてしまいましょう……」
 死んだ熊に手を合わせつつ、恋音は肉切り包丁を取り出した。
 だが、そのとき。近くにいた楓が異変に気付いた。
「あややっ!? これ人間なのだ!?」
 よく見ると、その北極熊はただの着ぐるみ!
 じつはRehni Nam(ja5283)が先回りして温泉を満喫していたのだ。
「やれやれ。不慮の事故とはいえ、やってしまいましたね。仕方ありません、山奥にでも埋めましょう」
 真顔で提案する雫。
「そ、それは完全な犯罪ですよぉ……!?」
 恋音も真顔でうろたえる。
「冗談です。まずは温泉から引き揚げて蘇生を試みましょう。袋井さんは残念なことをしましたね、せっかく合法的に女子と人工呼吸できるチャンスでしたのに」
 雫が言った、その瞬間。
「ふおおおおっ! 人工呼吸を必要としている美女はどこですかっ!?」
 恐るべき地獄耳で、雅人が山から駆け下りてきた。
 あまりの勢いに、たまらず生き返って跳ね起きるRehni。
「いけません、無理をしては! あなたの心臓は止まってます! 私のマッサージと人工呼吸が必要ですよ!」
 有無を言わさず、雅人がRehniを押し倒した。
 直後、
「うがーーっ!」
 どこからともなく出てきたプラカード(16t)が薙ぎ払われて、雅人は山の彼方まで吹っ飛ばされたのであった。

 そんな撃退士たちのコントを、一頭の熊が木陰から眺めていた。
 全身は震え、顔は青ざめている。
 その背後から、雫がポンと肩に手を置いた。
「いまの騒ぎを見てましたね? 説明は面倒です、鍋の具になるか従順になるか今すぐ選びなさい」
「クッ、クマッ!?」
 反射的に土下座して、従順の意を示す熊。
「なかなか賢い熊ですね。これなら調教もはかどりそうです」
 こうしてRehniと雅人の献身により、撃退士たちは無駄な時間を使うことなく熊をおとなしくさせたのであった。
「くまーーっ!」
 熊と間違えられてボコられたRehniは誰にともなく抗議の声をあげるが、なにしろ『パーフェクト白クマー』なので仕方ない。
 ちゃんと『女性の入浴シーン』を演出してれば良かったんだよ!


 ともあれ問題の熊は旅館に連行された。
 予想外のなりゆきに女将も驚愕だが、土下座で命乞いする熊を見れば無下に殺すのも忍びない。
「見てのとおり頭の良い熊です。調教して女中に仕立て上げれば、宿の名物になるのでは?」
 雫が提案した。
「ちょーきょーっていうのはよくわからないけど、うまくいけば旅館のマスコットになるのだ。うまくいかなければ鍋にして食べるのだ♪」
 楓も後押しするが、『調教』の意味はわかってない。
『鍋』という言葉に反応して、熊がビクッと震える。
「うがうが」
 白熊Rehniがコクコクうなずいた。
 今回の彼女は人語を発する気がない。意思疎通はプラカード(物理)のみ。
 女将には特に反対する理由もないため、こうして調教の日々が始まった。

 調教の指揮を執るのは提案者の雫。
 基本的には、彼女がスパルタ式で女中の作法を叩きこむ方向だ。
 だが雫自身女中の作法など身につけてないので、手本を見せるのはRehniの役割。
 しろくまーとして就職済みの彼女にとって、女中の作法などお手のものだ。
 しかしながら、いくら頭の良い熊といえど女中として働くのは無理がある。
 そんなときは、絵梨がムツゴローさんばりの愛情で優しく話しかけ、傷ついた熊の心を癒してあげるのだ。みごとな『飴と鞭』作戦と言えよう。
 なにしろ命がかかってるので、めきめきと女中スキルを上げる熊。
 ちなみに楓は熊と遊んでただけ!

 一方、恋音は調教を手伝いながらも他の手を打っていた。
 まずはネットに旅館のホームページを作って宣伝。
 地元のコミュニティサイトや観光案内にも紹介記事を載せてもらい、集客を図る。
 さらに学園に打診して合宿所の候補に推薦したり、豊富な自然を活かしたサバイバル訓練の場所として宣伝。
 宿泊中に気付いた改善点をまとめたりするのも忘れない。
 ちなみに楓も改善点を女将に伝えようとしたが、なにしろ楓なので大したことは思いつかなかった……っていうか何も思いつかなかった!


 ──数日後、調教は無事完了した。
 そこにあるのは、エプロンをつけてビシッと直立した熊の姿。ブラッシングも完璧である。
「よく頑張りましたね。身だしなみも合格です」と、雫。
「クマッ!」
 直立不動で応える熊の姿は、女中というより軍人だ。
「さて、それでは次の課題です。ほかの熊の巣穴を教えなさい」
「クマッ!?」
「卒業祝いの熊鍋……もとい周辺の安全確保のためです。ただし私も鬼ではありません、あなたの家族の安全は保障します」
「クマー!?」
 立ったまま涙目で震える熊。
「おー、やっと熊鍋が食べられるのだ?」
 楓のおなかがグーッと鳴った。
「まだわからないの!? むやみに動物を殺さないで! この子だって、こんなに賢くて良い子じゃない!」
 すかさず抗議しつつ、熊に抱きつく絵梨。
「うぅん……熊鍋はともかく、この辺りに熊が住んでいるのは事実ですし……周辺の警備は必要ですねぇ……」
 もっともなことを言う恋音だが、『もし熊が獲れたら骨でダシをとって熊蕎麦にしてみましょう』などと考えている。
「がうがう」と、同意するシロクマー。
 暴力的な仲間たちに、絵梨は厳しい目を向ける。

 そこへ雅人が帰ってきた。
 じつはこの数日間、ずっと山に篭もって観光資源になるものを探していたのだ。
「みなさん、熊のほうはどうなりましたか? 山狩りのほうはバッチリでしたよー」
 そう言って彼が見せたのは、山で採れた大量のキノコや山菜。
「おぉ……これは大漁ですねぇ……これだけ採れるなら、熊鍋あらためキノコ鍋も良いかもしれませんよぉ……」
 恋音が言った。
「キノコ鍋? それなら食べてもいいのだ?」
 楓がチラリと絵梨のほうを見た。
 動物愛護家の彼女も、「まぁキノコや山菜なら……」と答える。
「がうがう!」
 笑顔で包丁を振りまわすシロクマー。
 彼女の『包丁一閃』は瞬時に全ての具材を切り刻むのだ!

 こうして急遽、キノコ鍋パーティーが開かれることになった。
 調理担当は、恋音とRehni。
 宿の一室に撃退士たちと女将が集まり、鍋を囲んでの談笑が始まる。
 熊鍋に比べるとインパクトは薄いが、この季節のキノコや山菜はまさに旬の味。はっきり言って熊鍋よりおいしい。
 熊鍋派と熊愛護派で意見の割れる中、別の具材を調達してきた雅人GJ!(MSも助かりました!)
「いやー、調教がうまくいって良かったですねー。これは宿の看板娘として宣伝効果抜群なのでは?」
 鍋を食べながら雅人が言った。
 温泉で山籠もりの汚れも落とし、さっぱり笑顔である。
「はい……早速ホームページで『熊の女中さん』として紹介したところ、大反響ですねぇ……。問い合わせのメールが止まりませんよぉ……予約も立て続けに入ってますぅ……」
 恋音は鍋をつまみながらも、ひっきりなしにノートPCを操作していた。
『エプロン姿の熊が働く老舗旅館』として、爆発的に拡散している状態だ。
「なんだかすごいのだー? あっ、熊鍋のかわりにキノコ鍋を名物料理にしたらいいかもなのだ? キノコなら女将さんでも採れるのだ」
 案外まともなことを言いながら、鍋をがっつく楓。
 熊鍋の予定がキノコ鍋になってしまったが、腹が膨れれば何でも良いのだ。
「がうがう」
 シロクマー姿のまま、器用に箸を使って鍋をつつくRehni。
 年齢的に酒は飲めないので『米のジュース』を飲んでいるが……これって、どぶろく!?
「やっぱり鍋にしなくて正解だったね。愛を持って接すれば、動物たちは必ずわかってくれるんだよ」
 対立もあったが、ともあれ熊を殺すことなく依頼を達成できたので絵梨は満足げだ。
 女中熊も彼女に愛情と恩義を感じており、ぴったり寄り添っている。
「よしよし、いい子だね。……ねぇ女将さん、このまま熊さんの人気が出て経営を立てなおせたら、ご褒美としてこの子に温泉を使わせてあげてほしいの。もちろん深夜とか、お客さんのいない時間でいいから」
「それはもう、まったく構いませんよ。この数日で、とてもおとなしい子だとわかりましたし」
 喜んで応じる女将。
 熊のおかげで予約が殺到しているのは事実だ。温泉を使わせるぐらい何も問題ない。
「しかし『動物を』調教するのは初めてでしたが、うまく行ってよかったですね」
 なにか怖いコトを無表情で言う雫。
 その無表情のまま、彼女は熊のほうを見る。
「わかっていると思いますが、もし客や女将に危害を加えたら……生きたまま熊鍋にしますからね?」
「ク、クマァッ!?」
 熊は跳び上がると、絵梨の背後に隠れてガタガタ震えだした。
「いじめないで! かわいそう!」と、絵梨。
「いじめではなく警告ですよ。その熊が従順な態度を守れば良いのです」
 しれっとした顔で言う雫だが、この熊の怯えきった様子を見れば逆らう気など微塵もないとわかる。
 もちろん、熊女中さんの人気がいつまで続くかわからない。
 だが今のところ、旅館の未来には明るい光が差していた。




依頼結果/参加キャラクター

依頼成功度:成功面白かった!:5人
MVP一覧
 −
重体一覧
 −

歴戦の戦姫・
雫(ja1894)

中等部1年1組 女 鬼道忍軍
ティアーズ・ムーン・
Rehni Nam(ja5283)

高等部3年1組 女 アストラルヴァンガード
解☆禁!チェリーピンク・
焔・楓(ja7214)

小等部6年1組 女 ルインズブレイド
両刀使い・
月乃宮 恋音(jb1221)

高等部3年2組 女 ダアト
蔵倫と戦う!・
袋井 雅人(jb1469)

大学部2年8組 男 ナイトウォーカー
V兵器探究者・
天城 絵梨(jc2448)

高等部3年91組 女 アーティスト


依頼相談掲示板

老舗温泉宿/熊出没対応控室
月乃宮 恋音(jb1221)|高等部3年2組|女|ダア
最終発言日時:2016年10月25日 21:35
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2016年10月24日 15:26


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