地球温暖化対策の新国際枠組みである「パリ協定」が発効した。協定は、今世紀後半に二酸化炭素(CO2)など世界の温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを目指している。世界は化石燃料に依存する文明からの脱却に向けて歩み出した。
日本は批准手続きが遅れ、発効に貢献できなかった。近く国会で承認予定だが、モロッコで7日に始まる国連の気候変動枠組み条約第22回締約国会議(COP22)の開幕には間に合いそうにない。批准を急いだ米国や中国、インドなど主要国に比べ、大きく出遅れてしまった。
この失態を挽回し、温暖化を巡る今後の国際交渉で存在感を示すには、今世紀後半を見据えた長期的な脱炭素戦略の具体化を急ぎ、世界に示していくしかない。
パリ協定の目標は、産業革命前に比べ地球の平均気温上昇を2度未満に抑えることだ。各国は、温室効果ガスの排出削減対策を自主的に策定し、5年ごとにさらに厳しい目標に見直すことが義務づけられる。
協定は発効したが、各国が掲げた目標が達成されたかどうかの検証方法や、各国の目標をどう引き上げていくのかなど、細目は未定だ。
COP22では、パリ協定の第1回締約国会議(CMA1)も同時に開かれ、協定の詳細なルール作りが本格化する。ただし、批准が遅れた日本などは、CMA1で議決権を持たないオブザーバー参加となる。
政府は、ルール決定は来年以降であり、今回は議決権がなくとも不利益はないという。だが、協定発効に貢献できなかった国が、交渉で大きな影響力を持てるだろうか。
温暖化対策の柱となる再生可能エネルギーのコストは大幅に低下し、世界的に有望な産業となりつつある。国連環境計画(UNEP)によれば、2015年の再エネ(大規模水力発電を除く)への世界の投資総額は約2860億ドルで、過去最高となった。途上国での投資が先進国を上回る。中国やインドが協定の批准を急いだこともうなずける。
一方、日本ではCO2の排出量が多い石炭火力発電所の新設計画が相次ぐなど、再エネに力を注ぐ世界の潮流に乗り遅れている。政府は、温室効果ガスを30年までに13年比で26%削減する国際公約に加え、50年に8割削減する長期目標も掲げるが、具体策はまだない。
世界知的所有権機関(WIPO)の14年の報告書では、再エネ関連技術の特許保有件数で世界の上位20社のうち日本企業が12社を占めた。政府が世界の動きを先取りし、50年目標の実現に向けて長期的な脱炭素戦略を打ち出せば、日本企業にとっても好機となるはずだ。