企業が芸術文化を支える活動を「メセナ」と呼ぶようになって約30年。経済動向によって浮き沈みしながらも、取り組む企業とその領域は広がり、社会に浸透してきた。国や自治体など公的な支援が縮小する傾向にあるだけに、さらなる役割がメセナに期待される。
メセナは、古代ローマ帝国の高官メセナスが、名前を隠して詩人らの生活を支えたことに由来するフランス語。日本では1980年代から盛んになり、今月に30周年を迎えたサントリーホール(東京・赤坂)などが代表格だろう。
一方で、運営企業の経営難などで途絶えた例もある。現代美術を集めたセゾン美術館(東京・池袋)や「室内楽の殿堂」と言われたカザルスホール(東京・お茶の水)、サントリーミュージアム(大阪・天保山)などが閉館した。多くの百貨店もリストラの一環で、美術館の併設から手を引いている。
しかし、全体でみればメセナは着実に社会に根づいたと言える。その活動は、施設の建設や高額な絵画購入といった目を引くものから、地道なものに軸足を移している。
企業メセナ協議会の調査によると、毎年、総額900億円程度が提供されており、大企業だけにとどまらない。年間支援額50万円未満が全体の4割を占め、社有施設を地域の団体に無料で貸すなど経営資源を有効活用した支援も多い。
たとえば、香川県・小豆島では「島の子供たちに贈る瀬戸内デリバリーコンサート」が2006年から続く。島の子にプロの生演奏を聴いてほしいと、しょうゆ製造やオリーブづくりなどを営む企業や団体らが寄付を出しあって運営を支えている。
青森県八戸市の工業団地内にある帆風(ばんふう)美術館は、印刷会社の帆風(東京・新宿)が八戸に拠点を持って15年の08年、地域貢献への思いから建設した。国宝や重要文化財の掛け軸、びょうぶ、絵巻物など原寸大の複製画を無料で公開している。
企業メセナ協議会も、新たな取り組みを模索する。
東日本大震災をきっかけに、被災地の郷土芸能などを支援するため、加盟企業に寄付を募り基金を設けた。震災で失った道具や衣装などに資金を出すもので、「地域で受け継がれた芸術文化の営みを取り戻すことが、人々の心を支えて希望をつなぐ」との考えだ。計260件に約1億5000万円を助成し、4月の熊本地震後にも同様の基金を作った。
今後は、来日外国人に日本文化を発信する活動への支援も期待されている。一つ一つは小さくても裾野の広い取り組みで、芸術文化を支える動きが続いてほしい。